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平安陰陽騒龍記 第二章  作者: 宗谷 圭
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「聞いたか? 八条大路の東側で、築地塀を壊された邸がいくつもあるそうだ」

「え? それって、西の木辻大路沿いの話じゃなかったか?」

「案外、両方だったりしてな。そういや、どこぞのお邸じゃあ、築山が夜のうちに崩される、なんて事があったそうだ。下手人は、未だに捕まっていないそうな」

「築地塀を壊されたのも、そうだ。下手人はまだ捕まるどころか、見付かってもいないとさ」

「何かの祟りなんじゃないか? 恐ろしや恐ろしや……」

 人々がざわざわと噂を交わし合う中、葵は大きな籠を背負い、もう一つ大きな籠を抱えて歩いている。場所は京の左京、東の市。干魚に米に塩、麦に醤に油に海藻。ついでに菓子と、隆善から言い渡されたお使い品は山のようにある。

「築地塀や築山が壊されて、下手人はわからない……か。これって、怨霊か何かの仕業なのかな? 弓弦はどう思う?」

 ほてほてと歩きながら、葵は後ろをついて歩く弓弦に問い掛ける。すると弓弦は、「そんな事よりも……」と肩を竦めた。

「私も、荷物をお持ち致します。葵様だけにそんなにたくさんの荷物を持たせるわけには……」

「大丈夫だよ。荒刀海彦も手伝ってくれてるし」

 そう言って弓弦に振り向く葵の目は、心なしか金色に光っている。荒刀海彦が力を貸している証だ。

 この少年、葵には、一つの特殊な才能がある。人呼んで、憑代の才。霊魂を体に宿らせ、その能力を我が物として使う事ができる、というものだ。

 今、葵が体に宿らせている霊魂は二体。龍宮の武士であり、弓弦の父でもある荒刀海彦。そして、あの伝説の八岐大蛇の仔である、末広比売。末広比売は生まれたばかりであり、まだその力は定かではない。葵の事を「おとうしゃん」と呼び、普段は葵の中で荒刀海彦を相手に遊び、時折突然体の主導権を握らせてもらっては葵の体で喋りだし、周りの度肝を抜いている。

 そして通常、その霊魂の能力を使う時には、霊魂に体の主導権が移る。目の色が変わっているのは、そのためだ。それと同時に、口を開き言葉を紡ぐのも、本来は先に語ったように主導権を握った霊魂になる。が、今は霊魂の力を使いつつも、葵が体の主導権を握り喋っている。

「大分慣れてきたかな? 荒刀海彦と同時に体を使うの」

 葵が嬉しそうに言うと、弓弦が顔を顰めた。

「油断なさらないでくださいませ。そうなるまでに、一体何度お倒れになった事か……」

 荒刀海彦も、末広比売も、本来は葵の肉体に宿る筈の無い魂だ。それを宿らせているのだから、葵の体には当然負担がかかる。便利だからといって使い過ぎれば、体は限界を迎え、倒れて寝込む羽目になってしまう。

 そもそも、普通の人間であれば、荒刀海彦や末広比売の霊魂を宿らせた時点で死ぬか、気が狂ってしまっていてもおかしくないほどなのだ。憑代の才を持つ葵だからこそ、使い過ぎると倒れてしまう、ぐらいで済んでいる。

 倒れる事の無いように、日々体を鍛え、陰陽の術を磨き、修行に精を出しているのだが……それでも、度を越せば倒れてしまう。より効率的に荒刀海彦の力を引き出そうと試行錯誤すれば、尚更だ。

「大丈夫だよ。何度も練習して、こつは掴んでいるんだし」

「葵様の大丈夫、は既に信用できない域に到達しております。父上様の、葵様に無茶はさせない、も同様です」

 ぴしゃりと言い切る弓弦に、葵は黙り込んで口をもぐもぐと動かす。気配から察するに、葵の中で力を貸してくれている荒刀海彦も似たような顔をしているようだ。その顔を見たらしい末広比売がきゃっきゃと機嫌よく笑う気配が伝わってくる。

「何度も心配させたのは、ごめんってば……」

「それに葵様、お気付きですか? 今、とても目立っていらっしゃいますが」

 言われて、葵は辺りを見渡した。周囲を歩く人々が、葵に視線を寄せている。中には、見目麗しい弓弦に目を奪われている者もいるが、大半は葵の方を見ている。

 現在、葵は荒刀海彦の力を借り、大力を発している。それで、大量の荷物を運んでいるのだ。事実、使いを言いつけた師匠の瓢谷隆善も

「荒刀海彦の力を借りりゃあ、この量を運ぶのも苦じゃねぇだろ。……というわけで、買い物は任せた」

 などと言っていた。たしかに、そうだ。荒刀海彦の力のお陰で、大量の荷物を詰め込んだ籠を背負い。同じような籠を抱えていても、全く苦ではない。

 しかし、事情を知らない者が見ればそれは、体を鍛えた壮年の男でも楽には運べない荷物を軽々と運ぶ少年の図であり、とても奇怪な様子である。目立たないわけがない。

「けどさ……ここで俺が、弓弦に荷物を一つ渡したとしてだよ? それはそれで、目立つんじゃあ……」

 いかにも重そうな物を軽々と運ぶ美少女。こちらも、目立たないわけがない。

「どちらにしろ目立つなら、公平に分け合う事と致しましょう。手に持っている籠をこちらに下さいませ」

「いや、けどさ……女の子に重い物持たせると思うと、やっぱりこう、罪悪感がさ……」

「そう仰るならば、私にも脆弱な人の身である、しかも幾度も倒れているような病弱な体でもある葵様に大きな荷物を二つも持たせているという事に罪悪感がございます。一つお渡し下さいませ」

 人の姿に転じてはいるが、弓弦は龍の姿を正体に持つ龍宮の出。通常、葵よりも力があるのは仕方が無い。だが、その言い方に、葵は流石に不機嫌そうな顔をする。

「別に、病弱じゃないよ。ただ、修行の結果疲れ過ぎただけで……」

「疲れ過ぎた結果、何度も寝込んでいるようでは病弱であるのと変わりがございません。荷物をお渡し下さいませ」

 弓弦は、一歩も退きそうにない。葵は溜め息を吐くと、「じゃあ……」と言って抱えている籠の中から、醤を詰めた壺を弓弦へと手渡す。

「折衷案という事で。結構重いから、これだけでも持ってもらえるとかなり楽かな?」

「そういう事でしたら……」

 渋々といった表情で、弓弦は壺を受け取る。そうして二人並んで、富小路沿いにある瓢谷邸へと帰っていった。

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