第十八話 統合基地再建にむけて
幽霊部隊がガーゲルン統合基地を奪還した翌日、偵察に出た77式によってオーガの大集落の大半が燃え落ちたことが確認された。一方でちらほらと集落に戻ってくるオーガがいることも――。
それを受けてルフト司令官は奪還作戦を行った八個小隊に加え、四個小隊を招集した。
ブリーフィングルームのモニターにはガーゲルン統合基地の空撮写真が映し出されている。
「見ての通り統合基地はオーガの巣の残骸だらけだ。さらには様子を見に戻ってくるオーガの姿も確認されている。今回の作戦ではオーガを掃討しつつ、この残骸を処理する。フリーデリヒ副司令官」
「はい。一般的な統合基地の備品にはこういった障害物を排除するための重機が配備されています」
モニターには誰も見たことのない鉄の固まりのような何かが映しだされる。
「これはブルドーザーやパワーショベルなどと呼ばれる重機で、前部についているアームで障害物を排除したり持ち上げたりすることができます。これで燃え落ちたオーガの巣をかき集め、このダンプカーという乗り物に乗せ、搬出します。搬出先は基地の南方の平原とします。操作方法や細かい手順については各員のレギンレイヴに転送済みなので確認しておいてください」
「第九から第十二小隊のドレスの確保、及びこれらの重機を利用するためにガーゲルン統合基地の停滞状態を解かなくてはならない。基地への被害を抑えるために今回の作戦では爆発物の使用を禁じる。オーガの数は前回と比べると遥かに少ないが、奴らも警戒しているはずだ。決して油断はするな。作戦開始は明朝0800。今回はパーティは無しだ。ガーゲルン統合基地への引っ越しが完了したら全員でやる。いいな。解散!」
第九から第十二小隊のメンバーは不満に思ったかもしれないが、その代わり彼らはあの地獄を体験していないのだ。十分に釣り合いは取れている。
それよりもマルコはデボラ少尉の心身の状態が気にかかった。
ブリーフィングルームを出て行く人々の中から彼女の姿を見つけ出して声をかける。
「デボラ少尉」
「あなたは……マルコ軍曹ね。何か用?」
一瞬の間があったのはレギンレイヴに名前を確認していたからだろう。昨日こそ嫌というほど濃密な時間を共に過ごしたが、それはあくまでドレス越しのことだ。顔を覚えられていなくとも仕方ない。
「調子があまり優れないように見えたので。昨日はその、俺も言い過ぎました。少尉はまだ、そのお若いのに」
「行き遅れの貴族の小娘ってわけ?」
「そうではありません。辛い判断を任せきりにしてしまったと」
「あなたが気にすることではないわ。これも貴族の務めよ」
しかしそう言うデボラ少尉は赤く腫れぼったい目をしていて、昨晩は泣きはらしたのだろうと簡単に推測できてしまう。
「それでも辛いものは辛いでしょう。貴族だって人間です。そりゃ俺のような犯罪奴隷と一緒にされるのはたまったもんじゃないでしょうが、それでもあなたは辛いと思っているし、俺にはそれが分かるんです」
「じゃあ、あの時私はどうすれば良かったと言うの? 早く撃てと急かしていたのは軍曹、あなたよ」
「あの時はそれが俺にできる最善の判断でした。しかし少尉の判断を間違っていたとも思いません」
「嘘つきね。忘れたの。私たちにはレギンレイヴがいるのよ」
くそっ!
マルコは心のなかで毒づいた。
レギンレイヴ、お前の嘘発見能力を無効化できないのか?
(表情や目線、発汗、呼吸、心拍数などを読み取って判断しています。それらをコントロールすれば可能です。ただしコントロールされていることは相手のレギンレイヴからも見抜けるでしょう。つまり嘘を真と誤解させるのではなく、どちらか分からなくさせる効果しかありません)
それじゃ意味が無い。
今から嘘をつきますと相手に公言しているようなものだ。
そんなことをすればデボラ少尉を慰めるどころか、かえって頑なにさせかねない。
「軍曹、もうおしまい? なら私は行くわよ」
「待ってください。少尉。嘘をついたことは謝ります。これからは嘘は無し。それでいいですね。俺が言いたいのはつまり少尉、あなたはいい人だってことです。それは俺のような人間からすれば代え難い、素晴らしいものだ。だからあなたの判断があの場では間違っていたとしても、それでいいんです。あなたはそれでいい。それで足りない部分は俺たちがカバーします。それが仲間ってもんでしょう?」
「でも最後に私は命じたわ。撃ちなさい、と」
「その判断に至ったのは奴らが、つまりオーガが、あなたの想像を越えて野蛮だったからです。あなたの責任ではありません。奴らの責任です」
「……そうね、あなたの言う通りなんでしょう。ありがとう、軍曹。あなたは私を慰めようとしてくれているのよね」
「それは、少尉――」
「嘘は無し、よ」
「参りました。少尉。俺なんかが差し出がましいことを」
「そんなことはない。感謝しているわ。本当よ。あなたのレギンレイヴに聞いて」
(本当です)
余計なことは言わなくていい。
それくらいはマルコにだって分かる。
「明日も一緒です。昨日みたいなことにはならないでしょうが、十分に休息を取ってください。いいですね。よく眠って」
「体を動かして、汗を流してからね。私にはそれが必要みたい」
「なんならお付き合いしますよ」
「そうね、軍曹。付き合ってちょうだい。これは命令よ」
デボラ少尉は初めてマルコの前でニコッと笑った。
「了解。少尉」
なんだ、可愛い顔もできるじゃないか。と、マルコは思ったが、それは心に秘めておいた。




