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彷徨のレギンレイヴ  作者: 二上たいら
第二部 第一章 幽霊部隊

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第十二話 雪山での模擬戦

 実戦が近いという噂はあっという間に観測基地の中を駆け巡り、当然マルコの耳にも届いた。

 それが単なる噂ではないことはマルコにはすぐに分かった。というのも最近は訓練の内容がやけに具体性を帯びていたからだ。

 射撃訓練場での単なる的撃ちだけではなく、ドレスを着込んだ上で観測基地から出ての雪中行軍訓練に、隊列を組んでの射撃訓練、低威力に抑えたレーザー銃での模擬戦と、明らかに実戦を意識した内容へと訓練はシフトしていた。

 マルコとマルコの部屋のメンバーは全員が試験に合格し、兵士としての資格を得ていたので、一個小隊としてこれらの訓練に参加していた。

 かく言う今も模擬戦の真っ最中で、マルコたちの小隊は雪の積もった木陰に身を潜め命令を待っている。ドレスは自動的に雪中迷彩に切り替わり、その表面を白いモザイク模様に染めている。少し離れた場所からならマルコたちの姿は雪に紛れて見えないだろう。

 模擬戦の内容は時間制限ありの拠点攻撃防衛で、マルコたちは攻撃側に属している。攻撃側の指揮官はデボラ・ディンケル少尉、17歳の貴族の娘で、訓練行程が始まった当初は右も左もわからず、無意味な命令を繰り返し多くの敗北記録を叩き出したが、現在では慎重さを身につけ、少なくとも無駄な突撃命令は出していない。そのおかげもあって、今のところ攻撃側に脱落者は出ていない。

 だが防衛側の指揮官は誰か分からないが、堅実に拠点を固めて、時間切れを待つ狙いのようだ。このままでは防衛側の狙い通りになるだろう。

 時間切れが近づけば、攻撃側はなりふり構わない突撃に出るしかなくなる。その前に何か動きを作らなければならない。


「第四小隊、もう一度偵察を」


「了解しました」


 デボラ指揮官もそのことは分かっているはずだ。だが身につけた慎重さが今は枷となって大胆な動きに出られずにいる。

 まさに第四小隊であるマルコたちは再度偵察のために動き出した。


 森のなかに構えられた拠点とは、要は立てられたフラッグだ。それを奪えば攻撃側の勝利となる。しかしその回りには塹壕が掘られ、その中ではドレスを着た防衛側の各小隊が攻撃側がやってくるのを今か今かと待っている。

 本来なら防衛側が圧倒的に有利な条件と言えるだろうが、森のなかということもあって見通しは悪い。攻撃側が密かに接近することも無理だとは言い切れない。だがマルコたちはフラッグから十二分な距離を取って、塹壕の状態と見張りの様子をデボラに伝えるに留めた。


「防衛側は動くつもりは無さそうね」


 デボラ指揮官の歯噛みが今にも聞こえてきそうだとマルコは思った。彼女は負けたからと言って部下に当たり散らすような性格はしていないが、だからこそ負け続けの彼女のためにどうにかひとつくらい勝利の記録をつけてやりたいものだ。

 そこでマルコはデボラ指揮官には黙って、ちょっとした実験をやってみた。


 一方で防衛側は塹壕の中に身を潜め、見張りを除いてリラックスした雰囲気に包まれていた。防衛側の指揮官であるエレオノーラ・レクラムは部下たちに小隊間での雑談も自由に許したし、彼女自身がその輪に加わることさえあった。

 彼女の考えは、とにかく兵士たちを疲弊させずに戦いの時を迎えたいというもので、それは今のところ成功していた。それどころか兵士たちは奴隷である自分たちとも気安く会話してくれる彼女のために、なんとしても勝ってやろうという気になっていた。

 すでに制限時間は半分以上が過ぎ、攻撃側の一気呵成の攻撃に備えなければならないとエレオノーラが注意を呼びかけようとした時だった。


「北側に動きあり!」


 見張りの報告が防衛側に届いた。

 拠点の北側は山の斜面の上側に当たり、エレオノーラは方陣を組んだ陣形の全六個小隊中、二面四個小隊をそちらに割いており、もっとも防衛側の戦力の厚い方角でもあった。


「わざわざそちらから来るとはね。全周警戒。防衛準備!」


 兵士たちは塹壕から身を乗り出し、銃を構えた。

 ずらりと並んだ銃身は、何が来てもそれを粉砕するのに充分に見えた。


「待ってください。あれは何だ? 雪球?」


 見張りから戸惑いの声が上がる。

 それは兵士たちからもすぐに見えるようになった。

 木々の合間を縫うようにゆっくりと転がってくるそれは見まごうことなき雪球で、その意味を兵士たちやエレオノーラが理解するのに少しの時間がかかった。


「撃ちなさい! 斉射!」


 方陣から無数のレーザーが放たれ、雪球に命中する。しかしレーザーの光は雪球の表面を照らすだけで、それを撃ちぬくような威力はない。


 雪球を転がしながら、マルコたち攻撃側の兵士たちは歓声を上げた。

 互いの位置や木々の位置は見張りの兵士のレギンレイヴから共有化されて、それぞれの兵士たちのレギンレイヴに伝えられているから、雪球から体を乗り出す必要はない。

 仲間の雪球や木々に衝突しないようにコースを変えながら、防衛陣地に向けて攻撃側の兵士たちは斜面を駆け下りていく。

 雪球にはレーザーが降り注いでいるはずだが、模擬戦用低出力レーザーに雪球を貫通するような威力がないことは確認済みだ。

 そしてついに塹壕に向けて雪球を激突させると、マルコたちはドレスの背中に貼り付けていたレーザー銃を抜きながら、雪球を飛び越えるためにジャンプした。

 方陣の下側二面の防衛側兵士たちが振り返って、雪球を飛び越えてくるマルコたちに向かって銃を撃ちまくる。対するマルコたちも銃を撃ちまくりながら、方陣の内側に着地した。

 両陣営の少なくない数の兵士にレーザーが命中し、そのドレスが死亡判定されてロックされる。こうなるとその兵士はもう身動きが取れない。マルコの隣でも空中でレーザーを食らったヨーナスがドレスがロックされたまま地面に激突して、ゴロゴロと雪の上を転がった。

 被害者数は同程度、しかし四個小隊が雪球の下敷きとなって残り二個小隊となった防衛側と、六個小隊が一度に攻め込んだ攻撃側ではあまりにも数に違いがありすぎた。

 攻撃側は射撃を続け、被害者を出しながらも、ついにはフラッグの元に辿り着いた。攻撃側の兵士たちが素早くフラッグの回りに小さな方陣を作る。それは計画にはない動きだった。


「マルコ、あんたの勝利だ。フラッグを取れ」


「俺たち皆の勝利さ。でも遠慮無くそうさせてもらうよ」


 仲間の気遣いに感謝しながら、マルコはフラッグを地面から引き抜き、大きく掲げた。それと同時に全員のインカムに甲高い電子音が流れ、模擬戦の終了を告げる。

 こうして今回の模擬戦は攻撃側の勝利で終わったのだった。


 模擬戦の終了後は全員がブリーフィングルームに集められ、今回の試合の内容を検討することになっている。もちろんその場にはルフト司令官の姿もあった。

 模擬戦の流れが雪球の下りに入ると、ルフト司令官は厳しい顔でデボラ少尉を見つめた。


「これは君の考えた作戦か?」


「……はい、いえ、いいえ、マルコ軍曹のアイデアです。しかし許可し、実行した責任は私にあります」


 明らかにルフト司令官が不機嫌だったので、デボラ少尉はどう答えるべきか迷ったようだった。しかし結局は正直に答えることにしたようだ。


「マルコ軍曹、どこだ?」


 呼ばれたので仕方なくマルコは立ち上がった。


「マルコ軍曹、ああ、君か」


「はい。ルフト司令官」


「君はどういう意図でこの作戦を提案したんだ? つまり実戦では何の役にも立たないこんな作戦を、だ」


「模擬戦のルール内では有効な作戦でした。与えられた環境で最善を尽くそうとした結果です。まさか反則負けですか?」


 問いかけると、ルフト司令官はニッと笑う。


「もちろんそんなわけはない。よくやった。諸君の創意工夫に今後とも期待している。ただし雪球は今回限りだ。デボラ少尉も部下のアイデアを無駄にせずよくやってくれた。今後も柔軟な指揮に期待する」


 わぁっと攻撃側に所属していた兵士たちから歓声が上がる。

 その半分は勝利側の兵士に与えられる配給酒二倍の権利に対してだったけれども。

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異世界転移ものの新作を始めました。
ゲーム化した現代日本と、別のゲーム世界とを行き来できるようになった主人公が女の子とイチャイチャしたり、お仕事したり、冒険したり、イチャイチャする話です。
1話1000~2000文字の気軽に読める異世界ファンタジー作品となっております。
どうぞよろしくお願いいたします。

異世界現代あっちこっち
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