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彷徨のレギンレイヴ  作者: 二上たいら
第二部 第一章 幽霊部隊

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第三話 観測基地へ

 フリーデリヒはこれまで77式に乗った回数をもう覚えていない。マイスフェルドを訪れた時を最初に、各地の協力者と顔つなぎのために何度も乗り込んだからだ。それでもこの体を締め付けるベルトには慣れそうもない。その上、今回は数ヶ月も戻ってこれないかもしれないということもあって、荷物の量もこれまでとは違っていた。

 足元のトランクに加え、膝の上にももうひとつトランクが載っている。これでもずいぶんと厳選を重ねて量を減らしたのだ。

 着替えから日用品まですべて揃っているとルフトは言っていたが、男性のその言葉を素直に信じるほどフリーデリヒは子どもではない。結局、士官候補生としてアインホルンに持ち込んだのと同じ程度の荷物の量になった。

 ルフトは呆れた顔をしていたが、口を挟んでくることはなかった。賢明な判断だ。このことで言い争っても決して結論は出ないだろう。

 そのルフトも今はドレスを着込んで操縦席に座っている。今日は見送りはない。出発の挨拶は家で済ませてきた。寂しくないかと問われれば寂しいが、今は直面している課題にわくわくしていてそれどころではない。


「それじゃあ出発しますよ」


「ええ、お願いだからゆっくりとね」


「分かっています」


 77式は港の底からふわりと境界面へと浮かび上がる。それから独特の高音のエンジン音を響かせて、空の海を進み始める。フリーデリヒの願い通り加速はゆっくりとしたものだった。それでもトランクの重みをずしりと全身で感じる程度には加速している。

 フリーデリヒは経験上、すでに飛行可能な速度に達していると気付いたが、ルフトは飛行に移ろうとはしない。


「空は飛ばないの?」


「目的地はすぐ近くです。わざわざ飛行するまでもありませんよ」


 とルフトは言ったが、77式が速度を落とし始めたのは七塔都市を出発して30分ほどが過ぎてからだった。かつてなら短い時間だと思っただろうが、77式の移動速度を知っている今となってはどれだけの距離を移動したんだとルフトにツッコミのひとつもいれたくなるというものである。少なくとも整備された街道を馬車で休みなく走ったとしても数日はかかる距離なのだろう。

 速度を落とした77式はゆっくりと旋回しながら、山の尾根に近づいていく。最初はルフトの気が狂って山に突っ込もうとしているのかと思ったが、よくよく行く手を見てみれば、山の山腹に大きな空洞が開いているではないか。ルフトはその空洞目掛けて77式を降下させていく。もはや間違いなくルフトはその空洞に77式を着陸させる気なのだ。

 着陸は激しい衝撃を伴うと思ったが、そんなことはなく、整備された港に降りるのと大差なかった。それどころか空洞の中はきっちりと床が平面に均されていて、ここが77式の離発着に使われるための場所なのだと理解できる。

 フリーデリヒは驚きを隠すこともできず、周囲をキョロキョロと見回している。

 山の中を掘り抜いたとはとても信じられないような巨大な空間に、その端には77式と思われる黒い機体や、その他の機体がずらりと並んでいる。


「以前にルフトが売りにきた浮遊遺物もこの中から?」


「そうですよ」


 となると、ここに並ぶ機体はすべて浮遊遺物として売れるということになる。その資産価値たるやどれほどのものになるかフリーデリヒには想像もつかない。それにこれだけの数の浮遊遺物が王国にもたらされれば、それだけ浮遊船が増えるということで、それだけでも帝国とのパワーバランスを崩壊させかねない。

 フリーデリヒがそんなことを考えている間、ルフトはフリーデリヒの知らない言語で誰かと会話をしていた。相手がどこにいるのかフリーデリヒからは見えない。ただルフトに答える声は大人の男性のものだと思った。

 ややあってルフトは77式の風防を開き、フリーデリヒのトランクを2つとも取り上げると、離着陸場に着地した。トランクを床に置いて今度はフリーデリヒを抱いて飛び降りる。

 自分の足で立ったフリーデリヒは床の硬い感触に驚く。土を踏み固めたものではない。かと言って石畳でもない。継ぎ接ぎのない平らな固い地面がどこまでも続いている。


「行きましょう。とりあえずフリーデリヒさんの部屋に案内します」


 そう言ってルフトはトランク2つを両手に持って先に歩き出した。フリーデリヒとしてはその後を付いていくしかない。離発着場の最奥にあった扉はルフトが近づくとひとりでに開き、またしてもフリーデリヒを驚かせた。


「今の扉、誰が開いたの?」


「勝手に開くんですよ。すぐに慣れます」


 果たしてそうだろうかとフリーデリヒは訝しんだ。改めてとんでもないところに来てしまったのではないかという不安が胸中に浮かんだが、それを飲み込んでルフトについていく。

 金属製の通路をルフトに従って歩いて行くと、しばらくしてルフトはとある部屋に入っていった。フリーデリヒも続いて部屋の中に入る。

 ルフトが何か言うと暗かった部屋に灯りが点った。ランプのそれとは違う平坦な白い光が天井に反射されて部屋を照らしている。そう言えば通路でも天井に埋め込まれた白い光が光源だった。魔法の灯りのように思えるが、誰かが魔法を使ったような気配はなかった。


「士官用の部屋です。フリーデリヒさんの家の部屋よりは手狭かも知れませんが、それでもトイレとシャワーは室内にあります」


 ルフトの言うとおりそこはフリーデリヒの実家の部屋よりは手狭だったが、それでもアインホルンの士官候補生の部屋に比べればずっと広い。


「ここを私1人で使っていいの?」


「もちろんそうですよ。なにか不都合があれば言ってください」


 部屋には寝台があり、机もある。いずれも華美とは言い難いが、機能性には優れているように見えた。


「部屋の各機能は音声でも指示できますが、スイッチもあります。言葉が分からない内はスイッチを使ってください。使い方は今から説明しますね」


 そう言ってルフトは壁面のパネルの使い方から、トイレ、シャワーの使い方に至るまで部屋の使い方を一通りフリーデリヒに教えた。スイッチひとつで何もかもが自動的に行われることにフリーデリヒは驚いたが、なんとか使い方は頭に叩き込んだ。


「それから一番重要なことです。これからフリーデリヒさんの教師になるこの施設の管理者を紹介します」


 そしてルフトが何かを言うと、部屋の操作パネルの前にふっと壮年の男性の上半身が現れた。


「ひっ」


 フリーデリヒは慌ててルフトの背後に隠れるように立った。何故ならその男性は上半身しかなくて、しかも半透明で向こう側が透けて見えていたからだ。どう見ても幽霊かその類にしか見えない。


「大丈夫ですよ。フリーデリヒさん。彼はこの施設の管理者で、人工知能、一種の精霊のようなものです」


 ルフトに言われてフリーデリヒは恐る恐るその人物をしっかりと見てみることにした。男性はにこやかな笑みを浮かべ、恐怖に引き攣るフリーデリヒのことを見つめ返している。なにか危害を加えてくるような様子もなければ、そこから動くこともない。

 そこでふとフリーデリヒは嫌な予感がした。


「ねぇ、ルフト、まさかとは思うけど、古代語の教師役って」


「ええ、彼に頼もうと思っています。私も彼から古代語を学んだので適任ですよ」


「無理!」


 その言葉は考えるより早くフリーデリヒの口から飛び出していた。というのも、フリーデリヒはお化けとか幽霊とかその類が大の苦手なのだ。精霊と言われても、フリーデリヒには精霊と対面したような経験は無い。目の前にいる男性はどう見ても上半身だけの幽霊だ。それ以外の感想がフリーデリヒの中からは浮かんでこない。

 ルフトは困ったように頭を掻いて、管理者という幽霊のような精霊と話をし始めた。

 会話の内容はフリーデリヒにはまったく分からないので不安ばかりが募る。

 やがて話を終えたのか、管理者は現れたときと同じように唐突にその場から姿を消した。

 フリーデリヒはようやく落ち着いてホッと息を吐く。


「要はフリーデリヒさんは彼の姿が怖いんですよね」


「なな、な、違うわよ。馬鹿にしないでよね。ちっとも、ぜんぜん、怖くなんてないんだから」


「それはともかく、彼にはフリーデリヒさんの前に姿を表さないように話をしました。けれど言語の学習のためにはどうしても彼の協力が必要です。そこで声と映像だけで学習するというわけにはいきませんか?」


「声だけ? 声だけってどういうこと?」


 ルフトが何か言うと、管理者のいた空間に代わりに林檎が、ただし半透明の林檎が現れ、先ほどの男性の声で何かが呟かれた。


「こんな感じです。今の発音を繰り返してください。古代語で林檎という意味です」


「……やってみるわ」


 フリーデリヒは恐る恐る男性の言葉を繰り返した。

 こうしてゆっくりとではあったが、フリーデリヒの古代語の学習は始まったのだった。

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異世界転移ものの新作を始めました。
ゲーム化した現代日本と、別のゲーム世界とを行き来できるようになった主人公が女の子とイチャイチャしたり、お仕事したり、冒険したり、イチャイチャする話です。
1話1000~2000文字の気軽に読める異世界ファンタジー作品となっております。
どうぞよろしくお願いいたします。

異世界現代あっちこっち
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