第十六話 因縁の戦い
騎士団員たちの動きは素早かった。
彼らは俺たちに攻撃を加えつつ、戦列艦の前方キャビンを守るように隊列を組んだ。
ここから先は一歩も通すまいという構えだ。だがそれはその先に護衛対象がいると教えているようなものだ。
「降伏しろ! オイゲン騎士団長! 私たちは王女殿下に危害を加えに来たのではない!」
と、フィーナさんが声を張り上げた。
「フィーナ、フィーナ・ヴィドヘルツか! 王女殿下を守れなかったキサマが今は空賊風情に成り下がったか!」
騎士団の中の1人の男がそれに応じて前に出てくる。
「それがどうした! 今は空賊と呼ばれるとしても、王女殿下を守りたいという気持ちは本物だ! お前たちはルーデンドルフ侯爵の手の平で踊らされているに過ぎない。このままでは王女殿下を待つのは死だぞ!」
「何を世迷い事を! 我らがお守りする限り王女殿下には指一本触れさせん!」
「愚かな……」
「愚かなのはキサマだ。フィーナ・ヴィドヘルツ! 魔法、放てぇ!」
隊列を組んだ騎士団員たちから一斉に炎の魔法が放たれる。
殺傷力が高いとは言え、燃えやすい浮遊船の、それも自軍の船の上で放つような魔法の威力と量ではない。
俺は咄嗟に結界の魔法を使い、騎士団と俺たちの間に結界を生み出して、炎を受け止めた。
「交渉決裂だ。フィーナさん」
「そのようだな。こうなれば押し通るのみ」
俺が結界の魔法を解くのと同時にフィーナさんが騎士団員たちに向けて突っ込んでいく。その剣閃を受け止めたのはオイゲンと呼ばれた騎士団長だった。
「忘れたか。御前試合でキサマに土をつけたのが誰だったかを」
「昔の私と同じと思うなよ」
激しい剣戟の応酬に誰も手を出すことができない。
そんな様子だったので、俺はストッパーでオイゲンを撃った。
銃弾を食らったオイゲンの肩が吹き飛び、その右手が宙を舞う。
「ルフトっ!?」
驚いた様子のフィーナさんが振り返る。
「この、卑怯な――」
そう小さく漏らしながらオイゲンはその場に崩れ落ちる。
「勘違いするな。これは試合じゃない。戦いだ」
俺はそのままストッパーで騎士団員を次々と撃ち倒していく。
フィーナさんもハッとした様子で、騎士団員たちに斬りかかっていく。
百人以上はいた騎士団員ももはや数えるほどだ。だというのに彼らは降伏しない。
その心意気は素晴らしいが、今は間違った方に向いている。
マリア王女殿下を本当に助けられるのは俺たちのほうなのだ。
そして最後の1人がフィーナさんの手によって切り伏せられた。
「王女殿下、ご無事ですか? 私です。フィーナです」
騎士団員たちが守っていた甲板前部キャビンの扉にフィーナさんが声をかける。
「私は無事よ。今のところはね」
そんな返事が返ってきて、フィーナさんは扉を開けて中に入った。
俺は甲板でまだ残っている船員たちに注意を払う。彼らは騎士団が全滅するのを見て武器を捨て両手を上げていた。だが油断をすればまた武器を取って襲いかかってくるかもしれない。
「ルフト、王女殿下は無事だ。ナタリエも」
フィーナさんの声がして俺はホッとする。
「それじゃあ手早く撤収しましょう」
(待ってください。伏せて!)
レギンレイヴの声が頭の中で響いて、咄嗟に俺はしゃがみこんだ。
次の瞬間に轟音が頭の上を通り過ぎ、戦列艦に接舷していたフリゲートが大きく傾く。それに引っ張られるように戦列艦も大きく揺れた。
(77に戻ってください。今すぐに!)
レギンレイヴの声と同時に、77が戦列艦の甲板に降りてくる。
俺はレギンレイヴに言われるがままにそれに飛び乗った。
一体何が起きたっていうんだ。
(77式です。この機体とは別の77式が襲ってきました)
なんだって、そいつは今どこに?
(真上です!)
見上げると太陽を背に青色の77式がこちらに向けて降ってくるところだった。
(避けてください!)
駄目だ。避ければマリア王女殿下たちが攻撃に晒されかねない。
俺は77のシールドを全開に、自分自身も結界魔法を使って、前部デッキを守るように77の攻撃に備えた。
結界魔法に機関砲弾が降り注ぎ、一秒にも満たない時間で砕かれ、77のシールドに命中して、シールドメーターが真っ赤に変わる。俺を攻撃した77は戦列艦の脇をすり抜けるようにしてエーテルの海の中に飛び込んでいく。
そしてそのまま接近中だった味方の砲艦に向けて機関砲をぶっ放した。
砲艦はその右半分をえぐり取られ、傾いていく。
「このままじゃ帰る船が無くなる。やるぞ!」
(シールドが危険域です。退避を強く推奨します)
ここまで来て逃げるわけにはいかないんだよ!
機体を横にスライドさせてエーテルの海に浸かりつつ、次の砲艦の左半分を落とした敵の77に向けて飛ぶ。
敵の77はループに入る。追いかけるには速度差も距離もありすぎる。
俺はエンジンを全開で吹かしながら、真っ直ぐに敵の77目掛けて飛んだ。
ループを終えた敵の77がこちらを向く。
正面からの一騎打ちだ。
両者の機関砲が火を吹いて、すれ違う。
外した。外れた。
機体を斜め下に向けて旋回。シールドが回復していない今、エーテルの海にできるだけ浸かっていたい。
一方で敵の77は俺とすれ違ったあと、戦列艦の甲板を機関砲で掃射した。
甲板の様子は俺の高度からは見えなかったが、掃射された人々はひとたまりもなかったはずだ。
「てんめぇ!」
戦闘機というのは攻めるためのもので、何かを守るのには向いていない。そのことを痛感する。
「あはは、聞いたことあるわぁ。聞いたことのある声だわぁ」
77の無線機がそんな声を送ってきた。
ゾクリと背筋を冷たいものが滑り落ちる。
聞いたことあるぞ。俺だって聞いたことあるぞ。
「死んでなかったのねぇ。それどころか77式まで手に入れているだなんて、すごいじゃない。坊や」
「空賊の女!」
「そんな呼び方ってないわぁ。そう言えば名乗って無かったかしら? 名乗ってなかったのねぇ。じゃあ教えてあげる。私の名前はルル・ルー・ルルーよ。ルフトくん」
「そんなものすぐに忘れてやる! お前を殺して忘れてやるよ!」
俺は操縦桿を強く握りしめた。
第十七話の投稿は8月1日18時となります。




