第十一話 幽霊艦隊出港
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幽霊艦隊の第一陣がついに七塔都市から出港した。
1か月後にはヴィスマールから出港する残りの幽霊艦隊と合流して、マリア王女殿下の移送艦隊を待ち伏せる予定だ。
1隻ずつ時間を置いて出て行く浮遊船を港で見送るわけにも行かず、俺やフェラー伯爵様は風の塔からその様子を眺めていた。
七塔都市から出港した幽霊艦隊は他の領地からやってきた浮遊船も含めて4隻。
人員のほとんどは奴隷で構成されている。
士官役は、士官経験のある元浮遊軍関係者を掻き集めてきた。
その辺の采配は貴族様たちが頑張ってやったことで、俺は本当に単なる連絡役でしかない。
「ギリギリ間に合ったというところかな」
「ええ、マリア王女殿下がヴィスマールに到着するのに後1か月半というところでしょうから、こちらの出港はこれ以上遅らせられませんでしたね」
「その布告も正式にはまだ届いていない。表向き我々は事態を把握してないことになっている。君のことが公にならない限りは、王国は我々と幽霊艦隊との関係を見抜くことはできないだろう」
「とにかくようやく始まりました」
「その通りだ。君にとっては我慢の連続だっただろう。よく耐えてくれた」
「すべてはマリア王女殿下のためです」
これからは幽霊艦隊との連絡役も俺が務めることになる。
幽霊艦隊は東進して王国の領空にある無人島に一旦停泊し、そこでヴィスマールからの艦隊と合流、俺がマリア王女殿下を乗せた護送艦隊を捕捉し、誘導する手はずになっている。
上手く行けばこれから3か月の間には決戦ということになるだろう。
その間に幽霊艦隊の練度をどこまで上げられるか、ということも重要な要素になってくるに違いない。
そして問題はマリア王女殿下をどう確保するのか、という点になるだろう。
やはり白兵戦の戦力としてフィーナ様の力は無視できない。
俺はフェラー伯爵様に断って、再びヴィスマールへと飛んだ。
ヴィスマールの冒険者ギルドは前回訪れた時と特に変わりはなかった。
冒険者たちの視線を集めてしまうのも同様だ。
俺はそれらの視線を無視して、ギルドの受付カウンターに向かった。
「ルフトだ。指名依頼の件はどうなっている?」
「依頼者の方ですね。ちょっとお待ち下さい」
受付嬢は手元の紙片をペラペラとめくる。
やがて目的の紙片を見つけたらしく、その手が止まる。
「フィーナさんへの護衛依頼ですね。引き受けるということでお返事を頂いています。ただ条件があり、彼女のパーティメンバーも一緒に、そしてそれに合わせて報酬も上乗せして欲しいと」
「それは――」
それは意外な返答だった。
てっきり来るとすればフィーナ様1人だろうと考えていたのだ。
「当事者たちと会って話がしたいな」
「当然のことだと思います。ただフィーナさんのパーティは優秀ですよ。私が保証します」
「それで彼らとはどうすれば会えるんだ?」
「依頼を引き受けると返事をされてからフィーナさんはギルドに日参されていますから、待っていていただければそのうちいらっしゃると思います」
「それじゃ待たせてもらう」
そうしてギルド内の空いたテーブルの傍に突っ立って待つこと2時間と少し、フィーナ様がギルドに現れた。
俺の姿をギルド内に見つけたフィーナ様はつかつかとこちらに歩み寄ってくる。
「ルフト、聞いたとは思うが、少々厄介なことになってな」
「厄介とは失礼ですねぇ」
ひょこっとフィーナ様の後ろから小柄な女性が顔を見せる。
小柄とは言ってもドレスを脱いだ俺より身長は高いだろう。ドレスを着ているから小柄に見えるだけだ。
年齢は、分からない。
20代のようにも10代のようにも見える。
くすんだ金髪をおさげにして肩から前に垂らしている。
腰に短杖を提げていることからして魔法使いなのだろう。
「紹介しておこう。彼女はマーヤ、私たちのパーティの魔法使いだ。マーヤ、彼が話していたルフトだ」
「マーヤですよぉ。同じ魔法使い同士よろしくねぇ」
「ルフトです。よろしくお願いするかどうかは話を聞いてからにしたいと思います」
「ありゃあ、そうなの?」
「それでフィーナ様、パーティメンバーというのは彼女だけですか?」
「いや、あと3人いる。それから様というのはやめてくれ。私はただの冒険者だ」
「そうですか。分かりました。とりあえず話を聞きたいので、その3人とも会わせてください」
「もちろんだ。ただ、今は自由行動なのでな。夕食は一緒に取ることにしているから、その時で構わないか」
「分かりました。それで構いません」
ただ、今はまだ昼を少し過ぎた時間だ。
夕食の時間までには相当な時間がある。
「それなら夕食までの時間、剣の稽古に付き合ってくれませんか?」
「ほう。剣を持ってきたのか?」
「生身用ですけどね」
剣は77に積んであるから取りにいかなければならない。
俺とフィーナさんとマーヤさんは連れ立って冒険者ギルドを出ると、まずは港に、それから剣を取って、町の外に出た。
ドレスを脱ぐと、マーヤさんが目を丸くする。
「わぁ、本当に子どもだぁ。ねぇねぇ、その鎧、どうなってるの? 私も着れる?」
「俺専用に調整したので、他の人には着れませんよ」
「ちぇー、残念だなあ」
俺はマーヤさんの呟きを無視して、剣を抜く。
フィーナさんに向き直ると、彼女も剣を抜いた。
「それではフィーナさん、お願いします」
「好きにかかってくるがいい」
こうして生身で向き合うと、フィーナさんは以前より少し小さくなったような気がする。
アインホルンで剣の訓練を受けていた頃は圧倒的な体格差があったが、それが少し縮まっている。
それだけ俺が成長したということだろう。
すり足で接近し、フィーナさんの剣の届く範囲のぎりぎり外から、大きく踏み込んで突く。
剣先がぐんと受け流されて、返す刀で突き出されたフィーナさんの剣を、手元に引いた剣で受け流す。
最小限の動きで受け流しから、フィーナさんの腕を狙って剣を振る。
だがフィーナさんが腕を引くほうが速い。
俺の剣は空を切って、しかしそのまま突きに移行する。
それをフィーナさんは一歩下がって、さらに上半身を逸らすことで避けた。
俺が剣を引くと同時に、ぐいとフィーナさんが接近してきて、踏み出したままの形だった俺の足に向けて剣を振るう。
それを剣で弾いて、俺も一歩下がる。
俺が下がった分だけフィーナさんは一歩前に出て、さらに剣を振るう。
弾いて、受け流し、避けて、その合間に攻撃を加えるが、それらはすべてフィーナさんに捌かれる。
「速度を上げるぞ」
「はいっ」
真剣でやっている分、お互いにまだ本気は出していなかった。
これまでは型の確認のようなものだ。
そうしてフィーナさんとの剣の訓練は日が傾くまで続いたのだった。
第十二話の投稿は7月27日18時となります。




