第六話 七塔都市へ
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半年ぶりのエルネ=デル=スニアは復興がかなり進んでおり、ゴブリンに襲われたときの痕跡はもはや見当たらない。
獣の耳もなく、パイロットスーツ姿という俺は、人々の異様な物を見る視線を受けつつ、懐かしきあの教会へと歩を進めた。
『ルフトさん!』
教会の入口でシスターに呼び止められる。
『戻っていらっしゃったんですか! ご無事で何よりです! ああ、すぐにヴァレーリヤ様とルフィナちゃんを呼んできますね』
『そんなに急がなくて大丈夫ですよ。ありがとう』
シスターが慌ただしく行ってしまった後、教会の中で長椅子に座っていると、他のシスターや神官たちが代わる代わる挨拶に来た。
考えてみれば皆同じ戦いを切り抜けた戦友たちだ。
特に教会での攻防戦は激しかったから、シスターたちの覚えがいいのもそのせいだろう。
『ルフトっ!』
大声で俺の名を呼んだのはやっぱりルフィナさんだった。
彼女は相変わらず駆け寄ってくると、がばっと抱きついてくる。俺は座っていたので顔が彼女の胸に押し付けられて苦しい。
『やっぱり諦めて戻ってきたの?』
俺はルフィナさんの体を押し返し、引っぺがすとようやく呼吸ができた。
『違うよ。自分の空飛ぶ船を手に入れたんだ。それで戻ってきたんだ』
まあ厳密には浮遊船ではないのだが、そんな細かいことはこの際どうだっていいだろう。
ルフィナさんは分かっているのか分かっていないのか、小首を傾げつつ俺の隣に腰を掛ける。
『それはつまりルフトはすぐに出て行っちゃうってこと?』
『そうだね。ほんのついでで寄ったんだ。またいつでも来られるよ』
するとルフィナさんはぷくーと頬を膨らませた。
『それはルフトの好きなときにってことじゃない。待たされる私たちの身にもなってよね』
確かにそれもそうだ。
『自分勝手でごめん。でも2人に会いたかったから来たんだよ』
そしたらまた頬を膨らませたルフィナさんがぷいっとそっぽを向いてしまった。
さてこれはどうしたものなんだろう。
そんなことを思っていると、神官服のヴァレーリヤさんがやってきた。
『ルフト、おかえりなさい。その、やっぱり無理だったの?』
『違うよ。お姉ちゃん。ルフトはいつでもここに来られるようになったんだって。だからついでで寄っただけで、すぐに行っちゃうんだって』
『だからごめんってば。ヴァレーリヤさん、お久しぶりです』
『元気なようで安心したわ。冬になってからというものとても心配していたの』
『この通り、元気ですよ』
雪山で死にかかっていたとはとても言えない。
実際のところ、偶然に観測基地を発見しなければ、あの雪の中を彷徨って死んでいたのではないかと思う。
だからルフィナさんの来年にすべきという忠告は実に正しかったのだ。
だけどそのことはおくびにも出すまいと思う。2人を無駄に心配させたくない。
ルフィナさんを怒らせるのはこの際仕方あるまい。
『それで目的は果たせたの?』
『いいえ、それはまだ。ようやく自分の翼を手に入れたところで』
『それならあなたの旅はまだ続くのね』
『はい。そうなります』
『私にできることはあなたの旅に祝福があるように祈ることだけだわ。だから今度は目的を果たした後でいいから、必ず戻っていらっしゃい』
そしてヴァレーリヤさんからお金を差し出される。
俺は受け取るまいとしたのだが、次回の時の通行税はあるの? と聞かれ、渋々受け取るしか無かった。
『ほら、ルフィナ、ルフトが行っちゃうわよ』
『どうせ、寂しくなったらすぐ会いに来るもん。……会いに来るよね?』
『時間を見つけたら必ず』
そう約束を交わし、俺は教会を、エルネ=デル=スニアを後にする。
(よろしかったんですか? 1日くらい戻らなくとも管理者が心配するだけです)
レギンレイヴは管理者さんに厳しいよな。
思わず頬が緩む。
いいんだ。会いたくなったらいつでも会える。そうだろ。
そのための翼を手に入れたんだ。
俺は南の森に戻り、ドレスを着込むと、跳躍して一気に風防に取り付くと、それを開け、操縦席に乗り込んだ。
燃料は満タン、エーテルの海がある限りどこへだって飛んでいける。
そう、エルネ=デル=スニアに来ずに七塔都市に向かったって良かったんだ。
(七塔都市は未知の領域です。せめて個人携帯火器の扱いを習得するまで向かうのは自重されるべきです)
まだ教えることがあるっていうのか。
(戦闘術など身につけていただきたい技能は山のようにあります)
分かった。分かった。
でもとりあえず個人携帯火器とやらの扱いを覚えたら七塔都市に向かう。
それでいいよな?
(万全は期せないものだと理解しております)
本当にレギンレイヴは頼りになる。
観測基地に戻った俺は早速レギンレイヴをせっついて個人携帯火器とやらの扱いを学ぶことにした。
個人携帯火器、通称ストッパーとは、要約すれば魔法の杖だ。
77がエーテルを燃料に稼働するように、ストッパーもエーテルを主エネルギーとして稼働する。
その主な作用は弾丸の形成と、その射出だ。
グリップとフォアグリップの間には2つのレバースイッチがあり、片方が弾丸の射出頻度、単発か、3発か、あるいはフルオートで射撃するかを切り替え、もう一方が弾丸の種類を、通常弾頭、炸裂弾頭、徹甲弾頭に切り替える。
構えて、トリガーを引けば、電磁的な作用によって弾頭は射出される。
今更言うまでも無いが、別の言い方をすればこれは銃だ。
しかも一般的に世界に出回っている銃よりも遥かに高性能だ。
問題があるとすればエーテルによって作動しているので、77と同じくエーテル海上に出ると使える回数に制限が発生することだろうか。
(ストッパーであれば個人の保有する魔力でも代用できます)
魔力があれば、ね。
残念ながら魔法紋を刻んでいない俺には魔力を貯めこむということができない。だからストッパーの運用には気をつけなければならないだろう。
(ひとつ勘違いをされているようなので訂正をしておきたいのですが)
なんだ? レギンレイヴ。
(右手の刻印は魔法紋と呼ばれるもののオリジナルです。魂に傷をつけるような真似はせずに、ゲートを通じて亜空間に魔力を貯めこむことが可能です。すでに大量の魔力が備蓄されています)
あっ! と俺は思い出す。
そう言えば刻印を刻んだ翌朝、魔法で生み出した光の玉はいつもより遥かに大きかった。あれ以来魔法を使う機会が無かったので忘れていたが、ひょっとして俺は魔法紋持ちになったということなのか。
(現有魔力をストッパーの通常弾丸数で表示します)
視界の端にずらりと数字が並ぶ。
ストッパーの通常弾頭で16万超の魔力。しかも刻一刻と数字は増えていく。
(射出の際にも魔力を消費しますので、実際にその弾数を撃てるわけではありません。あくまで目安とお考えください)
それでも相当な量だ。
実際に魔法を使ってみたらどれくらい消費するのだろう?
俺はそれまで撃っていた人型のターゲットに向けて、氷の矢を生み出し放ってみた。これまでよりずっと大きな氷の矢が生まれ、ターゲットの中央を貫き、その先の壁に当たって弾けて消える。
魔力は数十減ったが数分もあれば回復するだろう。
(非常に非効率な魔力の使い方だと進言します)
まあ、確かにストッパーを使えばもっと魔力の消費は抑えられるんだろう。実際にストッパーの一発がどれほど魔力を消費するのかは、エーテル海上に出て撃ってみなければ分からない。
それにしてもストッパーはぞっとするほどの威力だ。
もしこれがエルネ=デル=スニアでの戦いの時にあれば、1人で形勢をひっくり返せたのではないかというほどに。
とにかくストッパーの使用方法は分かった。
これで七塔都市に向かってもいいよな?
(そうお望みになるのであれば)
「管理者さん、私はこの基地を出て七塔都市という町に向かおうと思います。なにか問題はありますか?」
「星系の安全は確認されています。司令官がご不在の間は当基地は私にお任せください。ご無事をお祈りいたします」
「ありがとうございます、管理者さん」
こうして俺は七塔都市に向かうことになった。
短いですが、第四章はこれで終わりです。
第五章第一話の投稿は7月16日18時となります。




