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彷徨のレギンレイヴ  作者: 二上たいら
第一部 第三章 エルネ=デル=スニア

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第十八話 教会にて

7/9 誤字修正しました。

 教会に駆け戻った俺たちは神官様たちにゴブリンの襲撃が再び始まったことを伝えた。

 すると悲壮感を滲ませた神官様たちはそれぞれに教会を後にしていく。

 どうやら南門と東門で負傷者の手当に当たることになっているらしい。

 前回の襲撃で神官から多数の死者が出たというのも、彼らが前線にいたためなのだろう。


「君はここに残って運ばれてくる負傷者の手当を頼む」


 レナート様もそう言い残して前線に向かっていった。

 あとに残されたのは数少ない神官たちとシスターたち、そして教会で寝泊まりしている外周街の人々だった。

 程なくしてヴァレーリヤさんも教会へやってくる。


「ルフト、また始まったって本当?」


「本当みたいです。斥候が戻ってくるところに居合わせました」


「今度こそ酷いことにならなければいいのだけれど」


 果たしてどうなることだろう。

 結界を失い、門も無いエルネ=デル=スニアは実に無防備に思える。

 しかし兵士たちには前回ほどの油断はないはずだ。

 とにかく俺にできることと言えばここで運ばれてくる負傷者の治癒を行うこと。

 そして考えたくはないが、いざというときにはヴァレーリヤさんとルフィナさんたちだけでも守ること。

 それだけだ。


 前回の襲撃の時とは違い、その戦いが始まるところを俺が見ることはなかった。

 しかし日が暮れかけた頃になり、最初の負傷者が教会に運ばれてくると、その後は目が回るような忙しさになった。

 どうやら現場の神官様たちはその場ですぐに治療を施さなければならないほどの重傷者だけをその場で治癒し、後はすべて教会に送ってきているようだ。

 肩に矢を受けた兵士、腕に裂傷を負った兵士、その他諸々の傷を負った兵士たちが教会に列を作る。

 俺は教会に残っていた神官たちと並んで彼らの治癒を行っていく。

 列を整理したり、負傷の程度によって順番を入れ替えたりするのはシスターたちや、ヴァレーリヤさん、ルフィナさんが頑張っている。

 戦況については負傷した兵士たちから聞くことができた。

 今のところ門で押しとどめることに成功しているようだ。

 しかし死体の山を築きつつも、ゴブリンの攻勢は止むことを知らないらしい。

 一体何が彼らをそこまで駆り立てているのかは誰も知らない。

 どうなればこの戦いが終わるのかも。


 どれくらいの時間が過ぎただろうか。

 何人の負傷者を治癒しただろうか。

 俺は眠気と戦いつつ、治癒魔法を繰り返し使い続けている。

 他の神官様たちは魔力切れを起こして休憩に入ってしまった。

 そのため俺の前には長蛇の列ができていて、とてもではないが捌ききれなくなっている。


「大丈夫かい。顔色が悪いよ」


「大丈夫です。まだ続けられます。さあ、じっとして」


 ついには負傷者のほうに心配される有様だ。

 実際のところ、集中力が途切れてきて、一回の治癒にかかる時間が延びてきている。

 人の魂に魔力で触れる作業はとても繊細で、うまくできなければ治癒魔法もうまく作用しない。

 それでも続けなければならない。

 少なくとも戦いの一端を支えていることには違いないのだ。


 やがて魔力の回復した神官様たちが戻ってきて、ようやく俺は一休みを取ろうとしたときだった。


「大変だ! 南門が突破された!」


 教会に駆け込んできた兵士がそんなことを叫んだ。

 教会の中は騒然とした雰囲気になり、軽傷者の中でもさらに傷の軽い者はその武器を手にとって教会から出て行った。

 俺は自分の頬を叩き、負傷者に向き直った。

 状況をこの目で確認したいという思いはある。

 だが自分1人が飛び出していってなんになるというのか。

 俺だって数くらい数えられる。

 俺がこの場に残って負傷者を癒やせば、それだけエルネ=デル=スニア側の戦力が増強されるのだ。

 それから教会に運び込まれてくる負傷者の数はぐっと増え、重傷者の姿も少なくなくなってきた。

 重傷者は神官様たちに任せ、俺はせっせと軽傷者の治癒に当たる。

 負傷者たちの話によればゴブリンたちは町を蹂躙しながら王城を目指しているとのことだ。

 この教会が今のところ無事なのはその侵攻ルートから外れているためらしい。

 だがそれだっていつまで続くか分からない。

 負傷者が運び込まれている教会なんてゴブリンたちからすれば格好の攻撃対象だろう。

 そんなことを考えたせいだろうか?

 負傷者の一団が教会に駆け込んでくるなり、その門を閉めた。


「すまん、追われてきた! もうそこまで来てる!」


 その兵士たちは教会の端に積み上げられていた長椅子を扉の前に移動させ、簡易的なバリケードを築く。

 人々は身を寄せあい、扉から少しでも離れようとする。

 俺はパニックになりそうな頭をなんとか宥めながら、軽傷者の治癒を続ける。

 負傷から回復した兵士たちがいつ破られてもいいように扉の前に陣取る。

 扉からは激しく何かを打ち付けるような音が響き、俺の集中の邪魔をする。


「ヴァレーリヤさん、ルフィナさん!」


 俺は2人を呼んで、教会の奥にいるように伝える。

 教会の中には負傷者が50人ばかり、そこから回復した兵士がやはり50人ほど、それとは別に外周街から行く当てなく教会の中に居着いた人々が200名近く。神官様が3名、シスターが10名弱、そして俺たち。

 木製の扉が斧によって打ち破られ、木片が舞う。

 扉に開いた穴からゴブリンが教会の中を覗き込んでくる。

 人々の悲鳴が上がり、いっそう扉から離れようとして押し合いへし合いし、それによって新たな怪我人が出そうな雰囲気だ。

 兵士の1人が扉に開いた穴に槍を突っ込んで、引き抜いた。

 その穂先は緑色の血に濡れている。

 扉に何か打ち付ける音はいっそう激しくなり、扉はあちこちにヒビが入り、今にも破られそうだ。


「大丈夫だ。ここで負傷してもすぐに癒やしてもらえる」


 兵士の誰かが言い、同意の声が上がった。


「槍持ちは前へ! 椅子を壁に越えてこようとする奴を突き殺せ」


「それ以外は長椅子を押さえろ。崩されるんじゃないぞ!」


 兵士たちは声を上げ、その瞬間に備える。

 俺はその間も治癒魔法を使い続け、負傷者を1人でも多くこの場の戦いに送り込むだけだ。

 そしてついに教会の扉が破られ、ゴブリンたちが雪崩れ込んできた。

 それと同時に兵士たちの槍が突き出され、先頭にいたゴブリンたちが次々と串刺しになる。

 しかしゴブリンたちは仲間たちの死に怯むこと無く、その死体を踏み越えて教会の中に入ってこようとする。

 槍が何度も突き出され、そのたびに何匹ものゴブリンが串刺しになるのだが、ゴブリンたちの攻めてくるペースのほうが早い。

 長椅子を乗り越えたゴブリンは後ろで待機していた剣を持った兵士と斬り合いになる。

 長椅子にも斧が叩きつけられ、体当りされ、長椅子を挟んでの押し合いになる。

 その間に俺は受け持ちの負傷者の治癒を終えて、最後の負傷者の肩を叩き、前線に行かせると、自分自身も飛び出して、まだ教会の端に積み上がっている長椅子の上によじ登った。

 そこで弓を構え、長椅子を押しているゴブリンに横から矢を浴びせかける。

 矢は次々とゴブリンに突き刺さり、長椅子に向けられていた圧力が弱まる。


「今だ! 押し返せ!」


 ここぞとばかりに兵士たちが長椅子を押し返し、槍が突き入れられる。

 教会内に侵入したゴブリンと兵士たちの戦いは数の上で優勢で放っておいても大丈夫そうだ。

 負傷者も出ていたが、神官様たちがすぐに治癒していた。

 だが――、


「椅子がもうダメだ! 新しいのを!」


 誰かが叫ぶ。

 しかし兵士はもう手一杯だ。

 代わりの働き手ならたくさんいる。

 外周街からの避難民だ。

 だが彼らは皆怯えてしまって動く気配がない。


「誰でもいい、手を貸してくれ!」


 俺は乗っかっていた長椅子から飛び降り、床に転がされていた長椅子を門のところに引っ張っていこうとするが、子ども1人の力ではどうにもならない。

 その時、教会の奥から人影が飛び出してきて、長椅子に取り付いた。


「ヴァレーリヤさん!」


「私にも手伝わせて――」


 しかし子どもと女性の力では長椅子は持ち上がらない。


「手伝えよ! 男だっているんだろうがっ!」


 俺の怒鳴り声にようやく避難民の中から数名が恐る恐るといった感じでやってくる。

 俺たちは協力して長椅子を持ち上げると、兵士たちに声をかけた。


「新しい椅子だ。頭を低くして!」


 槍持ちの兵士たちが慌てて頭を下げたところを、持ち上げた長椅子を通り越させ、壊れかけた長椅子の上に落とすように設置する。


「よし、古い椅子を引け!」


 壊れかけた椅子を引くと、それを押していたゴブリンたちが新しい椅子の下敷きになる。


「刺せ! 殺せ!」


 椅子を押している兵士たちが手にした武器でゴブリンたちを滅多刺しにする。


「よし、行けるぞ! 守り切れる!」


 そうして教会での攻防戦は夜明け近くまで続いた。

 死者4名という数字が多いのか少ないのか俺には判断がつかない。

 ただ倒したゴブリンの数を考えると大健闘と言えるのではないだろうか。

 誰も彼もが疲れきっていた頃、突如としてゴブリンの集団は教会への攻撃を諦め去っていった。


「終わった……のか?」


 誰かが呟いた。

 何人かの兵士が長椅子を越えて外の様子を覗きに出ていき、程なくして戻ってくる。


「この辺りにはいないようだ」


 その報告を聞いて、人々の間にあった緊張がどっと解ける。

 兵士たちもその場に座り込み、大の字になって転がる者もいた。

 俺も疲労のピークをとうの昔に過ぎていて、膝からその場に崩れ落ちた。

 矢が尽きた後は俺も短剣で戦い、何匹ものゴブリンを切り倒していた。


「ルフトぉ――」


 ふらふらと歩み寄ってきたルフィナさんが俺の体にしがみついてわんわんと泣き出す。

 抱きしめ返したいところだったが、もう腕が上がらない。

 その代わりにやってきたヴァレーリヤさんが俺ごとルフィナさんを抱きしめた。


「お疲れ様、ルフト」


「2人とも、血が付いちゃうよ――」


「そんなことどうだっていいじゃない」


 そうだ。そんなことはどうだっていい。

 俺たちは生き残った。

 生き残っているのだから。

第十九話の投稿は7月9日18時となります。

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異世界転移ものの新作を始めました。
ゲーム化した現代日本と、別のゲーム世界とを行き来できるようになった主人公が女の子とイチャイチャしたり、お仕事したり、冒険したり、イチャイチャする話です。
1話1000~2000文字の気軽に読める異世界ファンタジー作品となっております。
どうぞよろしくお願いいたします。

異世界現代あっちこっち
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