第十七話 争いの狭間で
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軽傷者は尽きること無く、教会の外にまで溢れていて、俺はヴァレーリヤさんに案内されながら、次々と彼らを癒していった。
治癒にかかる時間は神官様に比べるとかなり遅いが、体を通り抜ける魔力を捕まえて魔法を行使する俺には、貯めこんだ魔力が無くなるという心配がない。
日が暮れる頃にはなんとかすべての軽傷者の治癒を終え、俺たちは教会の神官様たちが使う食堂で夕食を取ることを許された。
それどころか部屋も与えてくれるという。
「残念なことにゴブリンの襲撃で多くの神官が殺された。部屋なら余っているんだよ」
亡くなった人たちの部屋をすぐに使うということに抵抗はあったが、贅沢を言っていられる身でもない。
本来このエルネ=デル=スニアに俺たちの住む場所はないのだ。
部屋を与えてくれるというのなら、それに乗っからない手はない。
与えられたのは4人部屋で、ヴァレーリヤさんたちと一緒の部屋で眠ることになった。
幸いにしてその夜はゴブリンたちの襲撃はなく、静かな夜が過ぎていった。
翌日、神官たちと朝食を取った後、俺は街の様子を見に外に出ることにした。
ヴァレーリヤさんは炊き出しの手伝いに行くという。
なんだかんだで数千人の外周街の人々が城壁の内側に避難することになり、教会や広場などに寝泊まりしているのだそうだ。
壁の内側でもゴブリンたちの蹂躙により多くの空き家ができているようだったが、それが外周街の人々に割り当てられるのはまだ先のことになるようだ。
「まあ、この有様だもんな」
家屋の戸や窓が叩き壊され、至る所に遺体や血痕の残された街を歩くと、気が滅入ってくる。
「おっと、これなんか使えそうだな」
俺はそこらに散乱した遺体や遺品から長めの短剣を発見し、鞘と一緒に拝借すると自分の腰に提げる。
「そんなことしていいの?」
後をついてきたルフィナさんがそんなことを問うてくるが、今は緊急事態だ。
ゴブリンから奪った短剣も運ばれる時に持ってきてもらえなかったのだから、自分たちの身を守る装備はなんとしてでも手に入れておく必要がある。
「できれば弓と矢が欲しいところなんだけど」
そんな風に遺体を物色しながら進んでいるとやがて東門に辿り着いた。
焼け落ちた門の辺りには新たにバリケードが設営され、更なるゴブリンの襲撃に備えているようだ。
甲冑に身を包んだ騎士たちが指示を出して、人々が土のうを積んだり、柵を作ったりしている。
城壁の上では弓兵が城壁の外に向けて鋭い目を向けていた。
多分、あそこには弓矢が山のように用意されているに違いない。
なんとか一組貰えないものだろうか。
しかしそんな風に門の辺りをウロウロしていると、騎士の目に止まってしまった。
「おい、子どもがこんなところをうろちょろしているんじゃない」
「すみません。その、身を守るために弓矢があればいいなと思って」
「そんなことは大人に任せておけ! 子どもに何ができるって言うんだ」
ムッとして言い返す。
「弓を引くくらいできます」
「ちょっと、ルフト、やめようよ」
「ほう、弓を扱ったことがあるのか。ははん、さては外周街の子どもだな」
「それがどうかしましたか」
「せっかく助かった命だ。大事にしろ。心配せずとも次は壁の中に侵入されるようなことにはせん。安心して任せておくが良い。それ、さっさと行った。ここにいても邪魔なだけだ」
「……行こう。ルフト」
「ああ、うん」
ルフィナさんに引っ張られて俺は東門から離れていく。
「思わず言い返しちゃったけど、良い人だったみたいだ」
「心臓止まるかと思っちゃったよ。もう、ルフト、変なことしないでよね」
「でも弓矢は欲しいんだよなあ」
「んもう、ルフト!」
そんなことを話しながら、今度は南門に向けて歩き出す。
南門でも東門と同様にやはり騎士による指示にもとで土のうと柵によるバリケード作りが行われていた。
「うーん、小一時間ほど外に出してくれれば家から弓矢を取ってくるんだけど」
「そんなルフト、危ないよ」
「危なくなんてないさ。ゴブリンは今は近くにいないんだろ。ちょっと走って取ってくるだけだよ」
俺はダメ元でその場を監督している騎士に歩み寄っていった。
「あの、騎士様」
「なんだ、子どもがなんでこんなところにいる? 邪魔だからあっちに行け」
「実は外の家に忘れ物をしてきて、取りに戻りたいんですが」
「なんだ、外周街の子どもか。ふん、どうなっても知らんぞ。好きにしろ」
「ありがとうございます! ルフィナさんはそこで待ってて!」
ある意味東門の騎士様より優しくない騎士様のおかげで俺は南門から外に出ると、一路、外周街のヴァレーリヤさんの家に向かって走った。
外周街の家々は壁の内側以上に酷い惨状で、中には完全に打ち壊されている家もある。
最後まで外周街に居残った人々のものだろう遺体も少なからず見受けられる。
そう言ったものをすべて無視して俺はヴァレーリヤさんの家に辿り着いた。
幸いにしてヴァレーリヤさんの家は荒らされた痕跡こそあったものの、家そのものは無事だった。
俺は自室に入り、そこに残されていたヴァレーリヤさんたちの父親の遺品になる弓と矢筒を掴みとると、さっさと家を後にする。
俺が南門に戻ろうという時だった。
さらに南から騎兵が駆け戻ってきて、大声を上げる。
「ゴブリンが再び進軍してきたぞ! 東門にも伝えてくる!」
バリケードを築いていた人々が次々と武器を取りに四散する中、俺は土のうを飛び越えて南門の内側に入った。
「ふん、小僧、危ないところだったな」
「でも間に合いました」
「娘のところに行ってやれ。心配そうにウロウロされてかなわん」
「はいっ!」
俺はルフィナさんのところに駆け寄ると、その手を取って走りだした。
「ルフトぉ、本当に心配したんだからね!」
「ごめんよ。危ないところだった。教会に戻って知らせよう」
そして二度目のゴブリンによる大襲撃が始まろうとしていた。
第十八話の投稿は7月8日18時となります。




