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彷徨のレギンレイヴ  作者: 二上たいら
第一部 第三章 エルネ=デル=スニア

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第四話 雪の残る森の中で

 ナイフで鹿の皮を剥ぎ、肉を切り出していくと、俺より一回りほど大きかった鹿は、ほんの十数キロの肉と皮へと変わった。

 骨や内蔵は処理に手間がかかるため、この場合は捨てていく。

 もったいないと思うのはヴァレーリヤさんの家では鹿1頭を余すところ無く処理して食べるなり使うなりするからだろう。


「なかなかいい手際だ」


「解体や精肉は家でも手伝ってましたから」


 ザハールさんは褒めてくれたが、慣れない外の作業で思ったより時間を使ってしまった。

 すでに太陽は中天を越え沈み始めている。


「帰り道は分かるか?」


「来た道を戻りますか? それとも森を突っ切って帰りますか?」


「森を突っ切ろう。先導は任せた」


「はい」


 実際に歩いた方向、鹿を追って北に移動した距離などから概算して、ほぼ東に進めばいいだろうと俺は当たりをつける。

 森の中とはいえ、陽の光が完全に遮られているわけではない。

 太陽のおおよその向きさえ分かれば、そこから方角を割り出すのは難しくない。

 船上生活の知恵が役に立つ場面だ。

 鹿肉の入った袋を背負い、俺は東に向けて山を下り始めた。


「その草は食えるぞ」


 帰り道ではザハールさんから教えてもらいながら、植物を主に採集していく。

 本来は植物の採集はエルネ=デル=スニアからほど近い森の中で女性がするのが主であるらしいが、旅をするならその知識も必要だろうとザハールさんが教えてくれているのだ。


「肉ばっかり食ってると病気になるからな。野菜もちゃんと食わなきゃ駄目だぞ」


「好き嫌いは言いませんよ」


 というよりこれまでの生活で好き嫌いをしている余裕などどこにも無かったというべきか。

 エルネ=デル=スニアでの生活はザハールさんたちに助けられ、かつてないほど豊かな生活を送れている。

 しかしヴァレーリヤさんに言わせると外周街の生活は貧困と隣りあわせなのだそうだ。

 寝るところがあり、着るものがあり、食べるものがある。

 そのどこが貧困なのか俺には分からないが、ヴァレーリヤさんにはヴァレーリヤさんの意見というものがあるのだろう。

 そんなことを考えながら、ザハールさんに食べられるものと、食べられないものを教えてもらいながら下山を続ける。

 例えばニラは食べられるが、スイセンは食べられない。

 簡単な見分け方は引っこ抜いて球根がついていればスイセン。

 ニラはヒゲみたいな根がついている。

 とは言ってもザハールさんの知識が案外いい加減で、食べられるか分からないものは採らないということを繰り返し教えられた。

 特にキノコは食べられそうな見た目でも強い毒性を持っていることがあるので、きっちり見分けられるようになるまで手を出さないほうがいいそうだ。

 その辺はヴァレーリヤさんのほうが詳しいだろうので、そちらに教えてもらえとのことだった。

 その後、森の合間から見えたエルネ=デル=スニアの城壁を目安に進む方向を微調整しつつ、俺とザハールさんは山を降りていく。


「止まれ、ルフト」


 ザハールさんが小声でそう言ったのは山を下り終えた頃だった。


「獣道ですか?」


 足を止め、小声で聞き返す。

 辺りには何かの動物が行き来した痕跡がある。


「茂みをよく見ろ。確かに獣が通った後は草木に痕跡が残るが、この痕跡は獣とは違う」


 言われてよく見てみると、茂みに残されていた痕跡は何かが通ってできたものには違いないが、草葉が刈られている。

 まるで鋭利な刃物で道を作った跡みたいだ。


「他の狩人が通った跡でしょうか?」


「それにしては小さい。これはゴブリンの通った跡だ。それもつい最近だ。道を変えるぞ」


「追うんですか?」


「まさか、町に戻って警告する」


 外周街では少なくない頻度でゴブリンによる襲撃がある。

 奴らの狙いは食料と女性なのだそうだ。

 食料はともかく、なぜ女性を連れ去るのか誰も俺に教えてくれなかったが、とにかく連れ去られた女性が帰ってくることはない。

 外周街にも自警団がいるが、常にゴブリンへの警戒を行っているわけではない。

 自警団は自警団であって、普段は何かしら別の職業についているからだ。

 だから何かしら警告がない限り、自警団が活動を行うことはない。


「今から町に戻って間に合いますか?」


 すでに太陽はかなり西に傾いている。

 ゴブリンが町を襲うのは決まって夜のことなので、まだ時間があるといえばある。

 しかしこれから自警団を招集して警戒に当たるのが間に合うとは限らない。


「間に合うかは分からん。だが他にどうしようもない。先を急ぐぞ。俺が先導する」


「分かりました」


 ザハールさんの意見は正しい。

 しかしそこに敵を残していくことに、俺は一抹の不安があった。


 急ぎ足でヴァレーリヤさんの家に帰り着いた頃には、日はとうの昔に山の稜線に姿を消し、空は茜に染まっていた。

 ザハールさんは町についたとたん自警団を招集すると言ってどこかへ行ってしまったので、ここにいるのは俺1人だ。

 作業小屋に肉と皮を置いていく時間ももどかしく、俺は家の中に飛び込んだ。


「ヴァレーリヤさん! ルフィナさん!」


「あら、おかえりなさい。ルフト。無事でなにより」


 ヴァレーリヤさんは裁縫をしていた手を止め、にっこりと微笑みかけてくる。


「ルフト帰ってきたー? おかえりー!」


 奥の部屋からルフィナさんが飛び出してくる。

 ルフィナさんはそのまま俺に駆け寄ってくると、体のあちこちをペタペタと触りまくった。


「ケガとかしてないみたいだね。えらいえらい」


 うんうんと頷く姉貴分に俺はほっとする。

 とりあえず2人は家に居てくれた。

 この時間なら大抵そうなのだが、姿が見えなかったらどうしようと思っていたのだ。


「大丈夫だよ。それよりゴブリンが町の近くにいるみたいなんだ。ザハールさんは自警団を集めに行った。今夜はしっかり戸締まりをしないと」


「まあ、大変」


 そう言ってヴァレーリヤさんが立ち上がる。


「ゴブリン? ゴブリンを見たの?」


「見てはいないよ。でもゴブリンの通った道があるってザハールさんが言ってた」


「おじさまがそう言うのでしたら確かなんでしょうね」


「俺はこれを作業場に置いてくるよ。ああ、でも作業場が襲われたらどうしよう」


「そんなこと気にしなくていいの。とにかくすぐ戻ってらっしゃい。後は自警団の皆さんに任せましょう」


「分かりました。行ってきます」


 そうして俺は作業場に肉と皮を置くために家を出たのだった。

第五話の投稿は6月25日18時となります。

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異世界転移ものの新作を始めました。
ゲーム化した現代日本と、別のゲーム世界とを行き来できるようになった主人公が女の子とイチャイチャしたり、お仕事したり、冒険したり、イチャイチャする話です。
1話1000~2000文字の気軽に読める異世界ファンタジー作品となっております。
どうぞよろしくお願いいたします。

異世界現代あっちこっち
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