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第一章 出撃! ロッテンバイン!

お奉行! どうかお手柔らかに! お手柔らかにお願いします!

 第一章



 荒野の真ん中に築かれた、未来都市──バリスティックシティ。その中でも、特別金を持つ者達の住まう一角に、地球の古き良き時代を残す一軒の料亭があった。それが、高級料亭百善である。

 シャープなビルとは一線を画す、洗練された木造のお座敷。一口で脳を蕩けさせてしまう究極の和風料理。そして何よりも、古来日本より受け継がれたOMOTENASIのメモリアルソウル。それらが一体となって金持ち達を極楽浄土へと導くのだ。

 ──と、ここまでは表の顔。この高級料亭百善(ひゃくぜん)には一般人が決して知ることのない裏の顔が存在していた。即ち、金持ち達の密会場所だと言うことである。

 ずるをしなけりゃお金は持てぬ。お金を持ったら秘密は増える。そんな金持ち達のニーズに答えるため、百善は完全秘密主義を取っているのである。そのため、金持ち達は安心して裏の話に花を咲かせることが出来るのだ。

 今夜もまた、そんな料亭に、王道は足を運んでいた。

「ふっふっふ。越後屋よ、お主もワルよのう」

 時代に似合わぬチョンマゲが一本。真っ黒い着物に、黄金の家紋がきらりと耀く。バリスティックシティ治安組織ノースタウン長官、悪野王道(あくのおうどう)(ペンネーム)。通称お奉行。

 彼こそが王道であり、このバリスティックシティの正義を司る男である。

 そしてその前には、もう一人の老人が座っていた。

「いえいえ。お奉行様こそ」

 黄土色の着物が象徴するのは、金かそれともタクアンか。軍需企業エチカゴールデン社長、越後屋(えちごや)(ニックネーム)。

 利害関係にある二人が料亭で楽しく秘密の食事会。本来、ゴシップのネタになりかねない重大事案だ。しかし、この街、バリスティックシティでは問題になることなどはない。全てが利権で構成され、腐りきったこの街では。

「「はーっはっはっは」」

 二人は無意味に笑い声を上げた。

 と、その途中、がらりと音を立ててフスマが開く。

「お二人とも、盛り上がってますね」

 その向こうから現れたのは、着物姿の少女だった。年の頃は十代の後半と行ったところだろうか。金持ち二人とは対照的な美少女である。

「あ、ミカちゃん」

 王道は彼女の名前を呼んだ。

 そう、彼女の名前はミカ。この料亭で働く女中だ。

「どう? ミカちゃんも食べてく? このカレイの煮付け、絶品だよ?」

「申し訳ありません。業務中ですので。でも、美味しいのは知ってますよ。これ、作ったのは私ですから」

「はっはっは! こいつは一本取られたな、越後屋!」

 料理を勧める越後屋に、それを笑顔で断る女中のミカちゃん。そしてそれを見て、王道はゲラゲラと腹を抱えて笑う。

 見て分かるように、三人はとても仲が良いのだ。

 それに、秘密を共有できる仲でもある。ミカちゃんを含め、百善の従業員達は皆強力な守秘義務を課せられている。それこそ、破れば命すら取られるような重い守秘義務が。

 故に、二人はミカちゃんに対して秘密を話すことが出来た。

「それで、今日はどうしたんですか?」

「いやあ、それが聞いてよミカちゃん。遂に完成したんだよ。お奉行に頼まれてた例のアレが」

 その証拠に、越後屋が話しても王道はそれを止めることはない。

 むしろ越後屋と一緒に、調子に乗っているくらいなのだ。

「くっくっく。まあ見ておれ、ミカちゃん。ワシら二人の勇姿をのう」

 王道は手に持つ扇をパシッと広げ、酒でほてった体を冷やすのだった。



 金が支配するバリスティックシティ。そこに正義は存在しないのか? いやいや、そんなことはない。

 江戸の世に現れた鼠小僧の如く、三機のロボットが闇夜に踊る。

 ロボットの兵器種別名はハートマシン。適性がある者の魂、心の力を具現化する人型ロボットだ。その機体表面に発生するバリア──通称ハバームクンにより、ハートマシン以外のあらゆる兵器を退役させた、究極の人型兵器である。

 さて、その中に乗る者達はと言うと、一人につき一機で全部で三人。みんな革命軍ブルースカイに所属するメンバーだ。

「カラス! 医療品は!?」

「確保できた! 倉庫丸ごとだ!」

 革命軍のパイロットナンバースリー。コードネーム・カラス。二八歳。

 紫色のハートマシン、パープルクロウで戦う革命軍の参謀役だ。名前に反して本人は少しぽっちゃりとしているのだが、それを伝えるのは勿論禁句である。

「カモメ! 食料は!?」

「大丈夫よ!」

 革命軍のパイロットナンバーツー。コードネーム・カモメ。一五歳。

 青色のハートマシン、ガルストームに乗る革命軍のアイドルである。パイロットとは思えぬほどの美少女で、告白した男は数知れず。そしてその数だけ振られた男が存在する。

「よし! 革命軍全機、これより撤退を開始する!」

「「了解! オーバン!」」

 そして、革命軍のパイロットナンバーワンにして総司令。コードネーム・オーバン。十六歳。

 彼の乗るハートマシン、ブラックコートはその名の通り漆黒の機体だ。その力はパイロットのオーバンと合わさり、このバリスティックシティで比類なき力を発揮することとなる。

 三機は既に、目的を果たした。後ただ、足止め部隊と合流して街から逃げ去るだけだ。奪った物資は革命軍が貧しき者に分け与える。

 だが、本当に正義は勝つのか? 正義は勝ってしまうのか?

 今度の答はYES! 何故ならば、戦う者はどちらも正義だからである。



 百善で会食を楽しむ王道の、携帯デバイスが俄に声を挙げ始めた。着信音はバリバリの演歌だ。それで、王道は街に起きている異変に気付いた。

「ついに来たか。この時が」

 王道は扇を一瞬で閉じると、どっこいせっと立ち上がった。

「お奉行。では、私も……」

「うむ!」

 越後屋も、その後へと続く。

「あの、お食事はどうしましょう?」

「安心せい。ワシらの戦いに一刻もかからん。のう、越後屋」

「さようで」

 二人はミカにそう告げると、そのまま連れだってカワヤへと向かった。カワヤとは即ち、中世日本に於けるトイレのことである。

 百善のカワヤには個室が四つあり、その中の二つにそれぞれ王道と越後屋が入る。

 そして、二人は徐に携帯デバイスを取り出すと──それを天高く掲げ、叫んだ。

「「ハートイン!」」

 するとトイレの床がパカッと開き、二人を目的地へと導く。長いスライダーを抜けた先、そこは秘密の格納庫だ。

「越後屋! 抜かるでないぞ!」

「承知!」

 王道と越後屋はその中を走り、二つのハートマシンへと乗り込む。ハートマシンでありながら人型ではない特殊なマシンに。

 そして二人はその勢いのまま、発進のコールを上げる。

「ロッテンウィング! ゴー!」

 王道の乗る白き翼が天に舞う。その名もウィング。戦闘機ロッテンウィング。

「ロッテンタンク! ゴー!」

 越後屋の乗る白き戦車が地を駆ける。その名もタンク。重戦車ロッテンタンク。

 二機はそれぞれにバリスティックシティに開いた秘密発射口から飛び出して、革命軍の三機の前に現れた。

「オーバン! 敵よ!」

「なに!? あと少しと言う時に……!」

 カモメの報告を受け、革命軍のリーダーオーバンが言った。

 確かに、既に目標は達成したも同然だ。だが、しかし、帰るまでが遠足という不文律がある以上、逃げ切れなければ彼らの負けである。

「俺が時間を稼ぐ! お前達は先に行け!」

 オーバンは直ぐに決断を下した。

「了解!」

 カラスは直ぐに、それに従って離脱を開始する。

「オーバン。無事で……」

「ああ! 必ず後を追う!」

 カモメもオーバンの意思を確認すると、背を向けて飛び去った。

 だが、それを許しては王道達の居る意味はない。

「はっはっは! させるかい!」

 王道の乗るロッテンウィングがビームを発射。カラスのパープルクロウを狙い撃つ。

「温和しく縛につきなさいよ!」

 越後屋のロッテンタンクも援護射撃だ。

「くう!」

 両手に医療品を抱えたパープルクロウは反撃が出来ない。狙い撃ちだ。

「させるか!」

 当然、それを阻止するために、オーバンのブラックコートが間に入る。左手に持った盾を構えて、攻撃を全て受け止める。

「うぬう。若造め! ならばまずはお前からだ!」

 越後屋はそれを受けて狙いを変えるが、ブラックコートは強力なマシンだ。早々倒せるものではない。

「ブラックライフル!」

 そして、オーバンの反撃フェイズ。ブラックコートが右手に持った、射撃兵装ブラックライフル。その銃口から光が走る。狙いは越後屋、ロッテンタンクだ。

「ぬわあああああ!」

 直撃こそはしなかったものの、ロッテンタンクは衝撃で吹っ飛び一回くるりと宙を舞った。

「越後屋あああああ!」

「邪魔をすれば、容赦などしない!」

 叫ぶ王道にオーバンが告げる。

 それが──王道の怒りの導火線に火を付けてしまうとも知らずに。

「堪忍袋の緒が切れたああああああ!」

 王道は怒り、叫んだ。

「小童共よ! 貴様らに現実を見せてやろう! 越後屋! 行けるな!」

「無論でございます!」

 王道が呼び、越後屋が応える。

「お前達が束になったところで……!」

 オーバンはまだ二人を軽視しているが、それは知らないからだ。二人の、本当の力を。

「「超・不敗合体!!」」

 掛け声と共に、二つのロッテンマシンが飛翔した。

 ロッテンウィングが上に、ロッテンタンクが下に。変形し、結合し、今此所に──新たな力が誕生する!

「「うおおおおおお!」」

 ブラックコートを眼下に見下す、巨大な白の人型ロボット! そのデカい足が大地を砕き、そのデカい腕が虚空を切り裂く!

 ここで決め台詞! 良い子の皆も一緒に叫ぼう!

「腐りに腐った人々の!」by王道。

「心と体を守るため!」by越後屋。

「「不敗合体ロッテンバイン! 空気を読まずにただいま見参!」」by二人。

 そう──それはバリスティックシティの治安組織と、最大の軍需企業が手を組み作り上げた最強のロボット。金と、利権と、正義の化身。不敗合体ロッテンバイン。

 それは、オーバンのブラックコートの前に敢然と立ちはだかった。

「くっ! たかが合体したくらいで! ブラックブレード!」

 オーバンが無謀にもその巨体に戦いを挑む。

 ブラックコートが、シールドの裏に設置されている取っ手をむんずとつかみ取る。すると、その先から銀白色の刃が展開、発生した。それこそがブラックブレード。ブラックコートに装備された近接用装備である。

 ブラックコートは空に飛ぶと、その剣を掲げ縦一文字に切り込んだ。

 しかし、彼の不幸は相手が不敗を名乗るロッテンバインだったことである。

「温いわ!」

 王道の叫び。それと同時にバシーンと、ロッテンバインは両手の平でその剣を挟み込んで止めた。俗に言う、真剣白刃取りと言う奴である。

「ふんぬう!」

 そしてそのまま、ロッテンバインは両腕の力で刃を押しつぶし、砕く。

「何!?」

 これにはさすがのエースオーバンもたじろがざるにはいられなかった。

「さすがはお奉行。まだまだ現役ですな」

「はーっはっはっは! 操縦は任せておけい! 越後屋、お前はコントロールを頼むぞ!」

「心得まして」

 ロッテンバインは王道と越後屋、二人のコンビネーションにより運用されるハートマシンだ。王道は機体の操縦を担当し、越後屋はオペレーションや機体調整を行う。

「さあて、今度はこちらの番だ」

 と、王道はロッテンバインを走らせた。

 背中から巨大なフレアを吹き上げて。大地をガンガン蹴っ飛ばし。ロッテンバインは前へと進む。

 そして──その勢いのままに、必殺技を放つ。

「「究極ロッテンビンタアアアアア!」」

「ぐあああああああ!」

 巨大な張り手が敵を打ち、疾風怒濤に吹き飛ばす。ブラックコートはその勢いに、スピンをしながら飛んで行く。

 この時点で既に、ロッテンバインは勝利をしたも同然だった。

 だが、そんなことでは不敗合体の名がすたる。

「越後屋よ! 奴の武装をロックオンだ!」

「御意に。ロッテンサーチ! お奉行!」

「うむ! 行くぞ! ロッテンレーザー!」

 悪野王道の掛け声で、ロッテンバインの目から発射されるレーザー光線。それは正確に、ブラックコートが右手に持ったライフルだけを撃ち抜いた。

「はっはっは! 貴様の武装は全て破壊した!」

 王道は両手を広げ勝ち誇る。

「くそ! 俺達の正義が、こんなデカ物に……!」

 と、そんな声を聞きオーバンが悪態をついた。

 しかし、敗者の言葉など見苦しいだけの遠吠えに過ぎない。

 その傷口に、王道は敢えて塩を塗る。

「くっくっく。青いのう。越後屋、例のものを」

「ふっふっふ。お奉行様も人が悪い」

 王道に命じられ越後屋が、ブラックコートに一つのデータを転送した。

「見るがいい!」

「こ……これは!?」

 オーバンに王道が見せた物、それは──

「バリスティックシティ中央病院にて今、手術を待っている者達だ。その中には年端も行かぬ子供達もおる! 貴様は彼らを救うための薬を奪ったのだ!」

 中央病院で医療品を必要とする者達のリストだった。

「薬が必要な者は外にもいる!」

 当然、オーバンも反論はする。が、子供の写真が彼の目にとまった。

「患者達の前でも同じ様に振る舞えるかな?」

「くっ……」

 いくら革命軍の戦士と言えども……いや、だからこそ、子供を見捨てることなど出来ない。しかし敗北もあり得ない。

 矛盾する感情と利益。そこにこそ、腐敗の影が忍び寄る。

「だから俺達を倒すというのか!?」

「いいや。お主は見逃す。ただし、そのリストにある薬を返すという条件でだがなあ」

 王道はキッパリと言った。

「な!?」

 これにはオーバンも思わず目を丸くしてしまう。

「これが正義の談合だ。のう、越後屋」

「さようで」

 一方、王道達二人は全て織り込み済みだ。

「貴様ら……それでも治安組織の一員か!?」

 遂にはオーバンに言われる始末。

 革命軍にそれを言われては元も子もない──そう思いながらも、王道は笑いながら説明した。これが、武士の情けという奴である。

「阿呆か貴様は。敵を全て倒してしまったら治安部隊はいらんだろうが」

「貴方達が不安を煽れば煽るだけ、軍事費は増えるのですよ」

「くっくっく。越後屋。お主も悪よのう」

「いえいえ。お奉行様こそ」

 完全に腐りきっている。

 腐りきっているが、その上にオーバンには選択肢などない。

「さあどうする若造? 貴様は既に我らの部下に包囲されておるぞ?」

「くっ……良いだろう! だが忘れるな! 俺達はいつか、貴様達を倒す!」

 オーバンが折れ、飛び去って行く。彼はその若さ故に病人達を見捨てることなどは出来ないだろう。そして万が一にも裏切れば、会話の録音を盾に脅すまで。

「くっくっく。はっはっはっは! はーっはっはっはっはっはっは!」

 王道は勝利を確信して笑った。

 これでシティの平和は守られたのだ!

 ありがとうロッテンバイン!

 正義と平和の使者、不敗合体ロッテンバイン!


酷評すると越後屋の胃に穴が開きます。

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