秋の空
秋の空を見つめていたら、僕の心は腐って落ちた。おっと、と思って僕はそれをひらった。それは柔らかく脆く、まだ少しだけあたたかみがあった。僕の胸に不思議と痛みはなかった。空虚さもなかった。あるのは釘のような満足感だけだった。
僕の胸には一本の釘が刺さっていた。消して抜けない、抜きたいとも思わない奇妙な、少しだけ錆びた釘だった。僕はまた、その釘を愛してもいた。
きっと、僕らはこうして大人になった。
とりとめもない思考が頭を掠めた。ふと見上げる空は十七回目の秋空だった。小さな小さな小魚達が、泳ぐみたいに空を飛び僕は、その光景をただ見つめていた。彼らの身体を太陽が照らし、ぬらぬらと輝く彼らは美味しそうにも見えた。
落ちた心と、釘と小魚。
果てなく無意味なセンテンス。秋に生まれた僕が食べたい、生まれたばかりのリフレイン。大好きだった、君に言いたい。
空はどこまでも遠くにあって、僕の身体じゃそこに行けない。もっと硬くて、強い身体が必要なんだ。腐った心を僕は握った。もう地面に落ちた心を、壊さんばかりに握りしめた。
その時ふと、鼓動を感じた。赤く爛れた熱い鼓動だ。身体全体にエネルギーを与え、めらめらと僕自身が燃えている。僕はその鼓動の根源を見た。それは先刻まで動きを止めていた僕の心だった。熟れた果実のように瑞々しい色の心臓が、僕の右の手の中にはあった。僕はそれを食らう。熱い液体がほとばしる。飲み込む。やがて鼓動は僕の胸へと移動した。
『一秒に一度、刺さった釘を誰かが打った。生きろ、生きろと叫ぶみたいに。』