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プロローグ

大分前に執筆したものを修正しながら投稿しています。

今となっては絶滅危惧種であろう高校生のガラケー描写を直さないのは、ガラケー使いとしての反骨精神から。

今の高校生でガラケー使いっているのかな……。

 教室の窓からは、駐輪場の傍に並んで花を咲かせている桜の木数本が見える。

 夕樹ゆうきしずくがその景色に目を向ければ桜の木の枝に座っている着物姿の若い女性を目にすることも出来ただろうが、肝心のしずくは顔を強ばらせて机と睨めっこをしている。

 静かな教室に響く、今日からクラスメートとなった男子の声。緊張のあまり彼が口にしている言葉さえ頭に入ってこないしずくだが、なんか色々喋っていることは分かった。

 高校の自己紹介ではあれだけ話すのが普通なのかな。無理。無理無理。あんなに喋ったら、絶対に口を滑らせて言わなくていいこと言っちゃう。と、頭の中に幾つもの『無理』を浮かべるが、それで現実が変わるはずもない。

 彼が椅子に座ると、その後ろの席の女子がガタッと椅子を足で押す小さな音をたてながら腰を上げる。

「抹枝二中から来ました、越水綾こしみずあやです。よろしくお願いします」

 それだけ言ってさっさと席に座る女子を、しずくは希望に満ちた目で見る。

 そうだ。あのくらいでいいんだ。あのくらいが普通なんだよ! 好きなものとか特技なんて言う必要ないんだよ!

 中学の時の失敗を思い出して、しずくは静かに気合いを入れた。

 人見知りであがり症な自分が、クラスの人気者になれるはずもなければなりたいとも思っていない。ただ、『大人しいけど良い子ポジション』が欲しいだけだ。

 ふと顔を上げると、一人の男子が目に止まった。

 その男子は、六列あるうちの窓際一番前の席に座っていて、頬杖を付き、窓の外を眺めている。窓際から三列目、後ろから二番目の席のしずくからでは男子の姿はほとんど見えない。でも、眠いんだろうな、ということだけは表情を見れば分かった。欠伸までしているから、間違いない。彼と同じ中学だったわけではない。一学年四クラスしかない中学校だったから、見たことのない同級生はいないはずだ。

 じゃあ、なんで気になるんだろ。

 そんな疑問がしずくの頭に浮かんで、すぐに消えた。というよりすっ飛んでいった。

 なんせ、前の席の男子が立ち上がったから。自己紹介は順調過ぎるほど順調に進んでおり、いつの間にかしずくの順番間近まで来ていたらしい。

 兎手中から来ました夕樹しずくです。よろしくお願いします。

 これだけ。楽勝、楽勝。

 そんな思考と裏腹に、動悸は激しくなる一方。多分、このクラスにいる中学校からの友人は、またしずくがテンパって何かしでかさないかと楽しみにしているのだろう。

 思い通りになってたまるかと、しずくは前の男子が腰を下ろすのを見て、深呼吸をしてからゆっくりと立ち上がった。

 よし。ここまでは成功。

 数人の生徒が、尋常じゃないくらい震えているしずくの両脚に気付いて顔を背けたことも知らず、しずくは内心でガッツポーズをする。

 挨拶をする時、誰かと目が合うことだけは避けたい。素早く視線だけで教室を見回すと、先ほどの眠そうな男子が、机の上で組んだ両腕を枕にして眠っていた。あの人を見てれば目も合わないかな、としずくはその男子に視線を合わせる。

「とっ! 兎手中からききましたっ。夕樹しずくです」

 中学校から何を聞いたんだよ、と旧友が小さくつっこんだが、もちろんしずくは気付かない。

「よ、よよろしくお願いしますっ」

 最後は早口になったものの、頭を下げたしずくの中では満足のいく出来だった。旧友達も、今回はつまらなかったね、とアイコンタクトをとっていた。

 あとは顔を上げて着席するだけ。最後まで、落ち着いていこう。

 さっきまでの自身の慌てぶりをすっかり忘れて、しずくはやりきった清々しい表情で顔を上げる。

 そして、固まった。

 視線の先には、先ほどまでと同じように腕に顔を埋めている男子。違うのは、彼の頭上。

 そこには、プカプカと半透明な何かが浮かんでいた。

 半透明で見づらいとはいえ、それが人の形をしている事は一目瞭然。そして、学生服――おそらく、ここの、抹枝南高校の制服を着ている。

 幽霊だ。だけど、そこに驚いているわけじゃあない。なんせ、見慣れている。

 しずくが目を見開いている理由は、その幽霊の横顔が、机で眠っている男子と全く同じものだったからだ。

 えっと、ということは、つまり……

 静かに空回りする頭をなんとか動かしながらしずくが答えを探している間、クラスは微かにざわめきだす。自己紹介を終えたはずのしずくが顔をひきつらせて突っ立っているのだから当然の反応だ。旧友だけはニヤついているが。

 もちろん、これには担任も困惑したらしく、しばしの沈黙の後、口を開……く前に、しずくが静かに口を開いた。だが、声は出ない。その代わり、しずくの右手がゆっくりと上がり、教室の隅の男子生徒を指差した。

「し…………」

「し?」

「し?」

「し?」

 ようやく発せられたしずくの声を繰り返したのは、担任、旧友、幽霊状態の男子の三人だった。

 そしてしずくは、緊張も、当初の自己紹介予定も、恥すら忘れて、絞り出すような声を上げる。

「死んでる……!!」




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