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恋になる前の話  作者: 相馬 満尋
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後輩・柚月2

小さな会社では、噂など直ぐに広まってしまう。


朝から社内は芹沢さんと深山さんの話で持ちきりだった。


幸いと言うか何と言うか、芹沢さんに批判的な言葉は出ていないようだ。


寧ろ同情的な視線や言葉が度々投げ掛けられている。


「あんな女のためにバツが付かなくて良かったじゃないですか」

「そうそう。こっちから願い下げだって言ってやれば良いんですよ!」


そんな言葉を掛けられては苦笑する芹沢さんを、もう何度も見た。


触れられたくない話題だろうに、次から次へと声が掛けられる。


どうして皆、そっとしておいてあげないんだろう。


笑えるからといって、傷付いてない訳でも気にしていない訳でもないのに。


ひっきりなし訪れる客人達に、不快感が募る。


けれど物見遊山の野次馬と化した先輩社員達を追い払うことなんて、新人の私には出来ない。


悶々としていると、頼りになる先輩(お姉さま)達の声がした。


「皆さ~ん、そろそろお茶でも如何ですか~?」

「柚月がお土産に買ってきてくれたのが結構量あるのよね。ちょっと、そこ邪魔よ」


にこにこと笑顔の篠崎さんの手にはポット。


芹沢さんに群がる野次馬を押し退けた藤瀬さんの手には、私が昨日法事で実家へ帰省した際の土産として買ってきたお菓子。


「あ、皆さんも折角だからご一緒に」

「ほら、アンタ達も向こう座る!此処じゃ物がありすぎて置けないのよ」


まるで流水が異物を押し流すかのようなスムーズさで、野次馬達が簡易の休憩スペースに追いやられた。


ぽつん、とその場に取り残されたのは私と芹沢さんだけ。


あまりの鮮やかさにぽかんと惚けて遠ざかる人波を見送ってしまったのは私だけではないらしい。


ちらりと芹沢さんを見れば、ぱちくりと目を瞬いていた。


あ、可愛い。


うっかりそう思って、いやいや違うだろと頭を振った。


そのときふと芹沢さんのデスク周りが気になって、ふらりと近付いた。


そこには山のように積まれたファイルと、書類の束。


ファイルのラベルをよく見れば、いつぞやのプレゼンで使っていたものだった。


「芹沢さん、こっちの資料まだ使いますか?」

「ん?どれ…いや、もう使わないな」

「じゃあこれ片付けちゃいますね。あと…これと、これももう良いですか?」

「お、そうだな。頼む」


要るものと要らないものを仕分けて、芹沢さんに確認を取ってから不要になったものを適当にまとめて持つ。


綺麗に種別にファイルされた書類なので、どれがどれなのか混ざって分からなくなるというようなことはない。


「あと他に持っていって良いものがあればついでに資料室に持っていきますけど」

「いや、他は大丈夫だ。ーー柚月」

「はい?」


量が多いのと持ちづらいのとで抱え直していたファイルの束から顔を上げれば、芹沢さんが真っ直ぐ此方を見ていた。


「ーーありがとう」

「…いえ」


ぱちくりと、先程の芹沢さんのように目を瞬きつつ言えば、芹沢さんがくすりと笑った。


「芹沢さん?」

「いや、何でもない。資料、宜しく」

「あ、はい」


何となく腑に落ちないが、首を捻りながら資料室へと向かった。



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