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17 ファ○リーズ(商品名ですか、そうですか)

「どちらにせよ、これ以上あなたが客人に関わる必要はありません。即刻職務にお戻りください」


 慇懃に告げたジャンノットさんは、流れる所作で戸口を示してアウレリオさんを促す。

 庇ってもらっているからというわけじゃないけど、それは何というか、すっごくカッコイイ姿だった。

 黒く肩口くらいまで伸ばした髪をオールバックで一括りし、釣り目気味の琥珀の瞳は切れ長一重。浅黒い肌と彫が深くて精悍な感じがもう、見たことないけどリアル騎士とか侍な感じ?凛々しくて動きに隙がなくて、すっと伸びた背筋とか惚れ惚れしちゃうような。今まで会った誰よりも背が高いけど、この人から感じる威圧感は大きいからじゃない。内面から噴き出るオーラみたいな目に見えない何かが、周囲を圧倒するせいだ。

 思わず馬鹿みたいに口を開けて見とれていたら、隣りのオルガさんもうっとりって顔してたから、狼女子から見てもジャンノットさんってイケメンで人気あるんだろう。もちろんアウレリオさんだけはそんなこと考えもせず不快に顔を歪めていたけどね。


「護衛ごときが研究所のやることに口を出すな」


 高飛車に命じられて不敵に口角を上げた騎士様の表情は、どこのアニメキャラかってくらい鼻血ものだった。


「アウレリオ課長は非常に頭の良い方だとお聞きしていたのですが、私が首座から特権を許されたことをもうお忘れですか」


 ニヤリと効果音が聞こえそうな微笑みは、色気がありすぎで卒倒しそうです。


「なんですか、あの人!危険です、なんかやばいもの出てますっ!」

「よね、やばいわよね!人気あるのよ、彼!」


 小声で顔寄せあってキャーキャー言っちゃうのは、女子の性ですから睨まないでくださいなアウレリオさん。

 持っていき場のない怒りはひと睨みじゃとても解消できそうにない彼は、それすら間に立ったジャンノットさんに阻まれて面白くなさそうに鼻を鳴らすと足早に部屋を出て行った。

 腕もたって弁もたつとか、なんかもうどこのヒーローですかって感じだよね。今のところ楽観できる状況ではないって十分わかってるけど、人生萌えが無きゃやってられないわ。

 鈍痛を忘れるようにオルガさんとはしゃいでいたら、振り返ったジャンノットさんは苦笑を浮かべてあたしたちの前に片膝をついた。


「楽しそうで何よりですが、アウレリオ課長が貴女に人権を認めていないことは今のやり取りでお分かりだと思います。決してお一人で行動しないでくださいね」

「き、肝に銘じます…」


 この言葉が脅しじゃないことは、少しも笑っていない漆黒の瞳を見れば一目瞭然だった。当然去り際のアウレリオさんの態度からもそれは窺がい知れる。

 あたしの立場じゃモルモット的扱いをされるのしょうがないとしても、生死さえ気にしないマッドサイエンティストに捕まるのだけは嫌だなぁ。

 固定されて腕を撫でながら、迂闊に1人になら無いよう細心の注意を払おうと密かに決意していると、そこに大きな手が添えられた。見上げれば至近距離で、黒い美形があたしを見つめているじゃないのっ。


「脅すようで申し訳ないのですが、貴重な異星人を見たい手に入れたいと企む者がいるのは事実です。課長だけでなく周囲にも十分気を付けて…」

「つける、つけますからっ。近い、近い、近いっ!!」


 真剣なのも心配してくれてるのもよーくわかるんだけど、距離20センチで言うことじゃないと思うんだよ!

 両手がふさがってるので仕方なく仰け反って顔を遠ざけていたら、オルガさんの長くて綺麗な指が力任せにジャンノットさんのおでこを押しやってくれた。


「意味もなく女子に近づきすぎない」


 抱き込むようにあたしを隠した彼女が低い声で凄むのを、眉根を寄せたジャンノットさんが首を傾げながら聞き流すというちょっと微妙な空気は、彼が疑問を口にしたことで霧散した。


「彼女の匂いがしないのは、何か理由がありますか?兄と貴女の匂いしかないので、これでは彼女を追うことができないのですが」


 すんすんと鼻を鳴らしながら首を傾げるジャンノットさんは、意味があって顔を近づけていたらしい。

 それはそうだよね。あたしに興味を持つ変わり者は、フロリードさんくらいでしょうよ。後は別の意味で興味の尽きない白い人とか…嬉しくないなぁ、ちっとも。あ、まじ悲しくなってきた。


「やっぱり、そうよね?あたしも不思議だったの!」


 哀愁の彼方で黄昏てる地球人を置き去りに、狼の男女はなんだか知らない相互理解を深めている。

 匂いってなんだ?石鹸は無香料だったし、シャンプーも地球の物みたいにフローラルな香りないんだけど、犬並みの嗅覚で何か嗅ぎ取ってるとかそういうこと?そういえば、フロリードさんも朝そんなこと言ってあっちこっちに頭擦り付けてたけど…。

 試しに痛まない左腕に鼻を近づけてみるけど、何も匂ったりはしなかった。


「マイの星では、これが普通なの?」


 あっちこっちに鼻を埋めて匂いって何だろうと首を捻っていると、その頭を引き寄せたオルガさんがひどく真剣な顔で聞いてくる。


「普通って、どれがですか?」

「匂いよ。貴女、固有の体臭がないじゃない。これって普通?」

「普通…いや、え?ああ、えっと…西洋人は体臭があるって言ってたような…日本人はないんだったかな?ま、あんまり匂う人はいないと思いますけど」


 詳しいわけでも調べたことがあるわけでもないけど、香水の話しをテレビでしてた時にそんなことを聞いた気がする。外国人と違って日本人は体臭が少ないって。それでも食の欧米化のせいで最近は多少匂うとか、匂わないとか。

 こんなことが重要なんでしょうかと、やけに難しい顔して聞いてくる2人に問うと彼等は大まじめに頷いた。


「これまでに例がないと思うわよ、体臭がない人間なんて」

「正しくは、ほとんどです。微かですが…失礼」


 オルガさんの言葉を否定したジャンノットさんが、あたしの腕をとり顔を近づける。肌に触れた鼻先がすんと揺れて、顔を上げたお兄さんはほんのり唇に笑みを乗せた。


「ここまで近づくと貴女の匂いがしますね。なんというか…不思議な香りです」

「うっ…あ、ぅ…」


 返答に困るほど、近距離で美人の微笑みは破壊力がある。顔が赤くなるとか、胸がどきどきする暇もない。どっちかといえば、呼吸が止まるとか意識が飛ぶとかそっちのほうが正しい気がする。ときめくってより、心臓麻痺だよね。破壊力って物理的か…。


「ちょっと、大丈夫?」

「だいじょばないですぅ…」


 オルガさんに首を振りながらできる限りジャンノットさんと距離取ってソファーに沈んだあたしは、なんでだかいつまでも返してもらえない腕を少し強めに引き寄せた。

 ただでさえ事態に脳がついてかないっていうのに、これ以上はオーバーヒートだって。この世界には十人並みな顔の人、いないんですか?!怖かったり痛かったり恥ずかしかったり驚いたり、このままうっかり心臓が止まったらどうすんのさ。

 涙目になりながらあたし的異常事態に取り返した腕を背後に隠そうとしたら、横から伸びてきた手に易々と阻止される。


「ちょっと待って」


 何事かと、見上げた先でオルガさんまであたしの貧相な腕に鼻先を寄せていた。

 うわぁぁ…もう、やめてっ。ムダ毛の処理とかしてないんだってば、至近距離だとアラがね、ほらアラがっ!!

 せめて見てくれるなと、祈るように白皙の美貌を眺めていたあたしは、顔を上げたオルガさんが首を傾げたのにシンクロして、


「どうしてもう、ジャンノットの匂いが移ってるの?」


 投げられた疑問に本気で泣きそうに顔を歪めた。


「知りません」


 地球人の嗅覚、なめんなよ。

 

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