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12 全宇宙共通、買物女子

「31期のアルファはリオで、ベータはレリー、ガンマがリードね」

「へぇ…なんというか、激化した競争社会ですね」


 複合ショッピング施設であれこれ下着を物色しながら、オルガさんは無知なあたしの質問に根気よく付き合ってくれていた。

 彼女が口にした『アルファ』が気になって聞いたんだけど、狼が群れを構成する際に仲間につける順位なんだそうだ。このギリシャ文字は首の翻訳機が伝えてくるものだから、こちらにはそれぞれ独特の呼び方があるのかもしれないけれど、そこは気にしない方向で。

 ともかく、同い年生まれの子供には上から20番目まで特別な順位がついていて、個体としての遺伝子、容姿に運動能力、知力、統率力など先天的に保有しているモノから後天的に伸ばせるものまで、様々を総合して20歳で学校を卒業する際に貰える称号なんだって。


「上位20名に変動や入替はないわ。死のうが落ちぶれようが、個体が持っている基礎値は学生時代の評価で十分なの。本人の努力次第で収入に優劣はつくけど、生まれ持って優れていればその努力すら少なくて済むってところが大事だから。…ピンク、嫌い?」


 掲げられた目に優しくない色の下着は、レースの透け感が素敵すぎるTバックである。色柄以前にデザインが問題だらけだ。

 しかし付き合ってもらってる立場上、断固拒否もできず、引き攣りながら論点をすり替えるべくもう少し布地が多い下着を探す。


「嫌いじゃないですけど、ショッキングピンクのパンツよりベビーピンクのパンツのが可愛くないですか?となると、その上位5名の情報を元に子供の父親や母親にしたい相手を決めるんですか?」

「そうよ。順位は男女別だから双方にとって重要な情報ね。ただしアルファに相手を選ぶ権利があるものだから、頼めばみんなが交配できるわけじゃないんだけどね。じゃあいっそ黒は?マイは子供みたいだから、ベビーピンクなんか着てたら男が萎えちゃうわ」


 折角引っ張り出した比較的おとなしいデザインのパンツを取り上げて、黒レースのもうどこ隠すつもりなのかいやむしろ隠すつもりがあるのか製造者を問い詰めたいデザインのブラ&ショーツをあたしに合せているオルガさんは、うーんと自分セレクトに唸っていた。

 それはそうだろう。ナイスバディでフェロモンムンムンな彼女に似合うものが、ちっちゃくて(この星定義で)メリハリの少ない(地球なら標準体型だっ)女に着こなせようはずもない。

 子供用でいいですよ、無理はいけませんからね。


「萎えていいじゃないですか。性行為はしませんてば。あたしの世界では優秀な遺伝子は売れるって言ってる人もいましたよ?精子や卵子の提供者は金銭目的だってこともあるみたいだし、実際にその、子づくりしなくっても?体外受精とかじゃだめなんですか?」

「どうしてそんな非効率的なことをしてるの?遺伝子レベルの相性を考えたら、無理やり子供を残すなんてナンセンスよ。3か月交配期間を設けて妊娠しないのなら、別の相手を探すべきね。精子や卵子の相性は感情でどうにかなるものじゃないもの。子供を作らなくても性行為はできるでしょ?義務を終えた子たちは、結構性行為だけを楽しんでるわよ」


 ああ、これがいいわと彼女がディスプレイから引っぺがしたのは、白のベビードールだった。

 いいチョイスである。色は。ええ、色は。

 これ、網だから。もう、全部見えちゃってるから。キャミソール型の全体がスケスケで、前身頃は胸の谷間のちょっと上がかろうじてリボンで止まってるだけ。これ着ても意味なんてほとんどない。セットのパンツも推して知るべしとくれば、全力で首を振るしかないじゃないの。

 負けたけどっ!なんか買うモノとして店員さんに渡しちゃってるけどっ!


「義務?!義務って何ですかー!楽しむのにセクスィ下着が必須とか、ないでしょう?!ないよね?!」

「あるわよ、あるに決まってるじゃない。義務の内容はリードにでも聞いて。因みに、あたしも彼等もその期間はちゃんと終えてるからね。もう、何してもオッケーよ」


 カラカラ笑うオルガさんと、悲鳴を上げるあたし。こんな感じで騒いでたもんだから、下着売り場にはあんまり長居できなかった。ま、彼女が勧めてくるのはアンダーウェアとしての機能を著しく欠いたものばかりだったから、頃合いっていえば頃合いだったのかも。あんなの、着れないっ!

 謎は減るどころか増えるばかりだと上階に上がり、そして現在はお洋服売り場。


「これ、布、ですよね?既に服じゃないし。ところでフロリードさん、子づくりの義務ってなんですか?」

「ああ、特権階級に課せられた繁殖の義務ね。数字持ちの男は20代のうちに10人以上の子供を作る義務があるんだ。女は5人。立派な服だよ。初めて会った時も思ったけど、マイはどうしてそうあちこち隠したがるの?」

 

 さすがにランジェリーショップには入れてもらえなかった(見る楽しみが減るからっていう、意味不明な理由で)フロリードさんとリオネロさんも、ここは遠慮なしでついて来てあれこれ衣装を見繕っている。

 ただ問題はここにあるのも服じゃなく布だってことだ。オルガさんが着てるビキニのトップのようなTシャツやら、おしりが半分でてるホットパンツやら、スカートに至っては女子高生と張れる。見せパン必須なのは全宇宙共通なの?!

 しげしげと長さの足らないスカートを眺めていたら、素晴らしい笑顔のフロリードさんがかわいい下着あったのかと急な話題転換をした。


「スカートが好きなら、下着にはこだわらなくちゃね。この色なら…ショーツは黒?」

「何の話ですかっ!スカートはパンツ見せるために穿かないですよね?!」

「え?穿くよ。交配希望の女の子が、男を誘うために穿くんじゃない」

「~~~~っ」


 異文化コミュニケーション、でぃふぃかるとです。

 地球上の人間同士だって国が変われば文化の違いでもめるんだもの、星が違えば文化どころじゃないですわ。常識違いでもめてます。

 スカート、そんな意味が付加されたもんだったろうか、これ。


「便利なんだよ、どこでも性交できるし、いつでも交配できる…」

「わーっ!わーわーわーっ!!何言いだすかな、この人はっ!!」


 TPO無視で下ネタを語る耳付美形男とか、どんな嫌がらせ?!あたしの寿命が縮みますけどっ?!

 もう半泣きだよ、これどんな呪いアイテムよ!捨ててやる!

 身長差ゆえにフロリードさんの口をふさぐのも精いっぱいなあたしを微笑ましく眺めていた(見てないで助けて)オルガさんが、宙を舞ったスカートをナイスキャッチしながら懐かしまなくていいもんを懐かしんでいた。


「これ、マリオが好きだったのよねぇ。結構相性が良かったのに、子供はできなくて。あの後はお互い忙しくてしてないのよ」

「仕方がないだろう、奴も28期のアルファだからな。しかし義務は去年で終了したと聞いたぞ?どうだ、久しぶりにそれを穿いて誘ってみたら。もう長く交配期間をとっても構わないのだし、できなければ飽きるまで楽しめばいいだろう?」

「そうね、そうしようかな。なんだかマイに刺激されちゃったみたい」


 ふふふとか、笑わないでっ!てか、あたしのなにが貴女を刺激したとおっしゃいますか。これこのように苦しんでるだけなんですがっ?!

 これというのもフロリードさんのせいだと睨みつけたら、口を覆っていたあたしの手を取って楽しそうに狐男が笑いました。


「僕も義務は終わってるから、いっぱい楽しもうね?」

「やだっ!断るっ!」


 何がどうしてこうなった?!これ、ただのショッピングじゃなかったの?


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