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11 差異が生む友情?

「もちろん、そのくらいの覚悟はしているよ」

「ええっ?!そのつもりだったのっ?」


 てっきり否定してくれると思ったのに、フロリードさんはニコニコ笑いながらあたしの髪を撫でまわすんだから、どうやら一連の行動、ペット扱いだったようで。

 …素敵な住居をありがとうとか、感謝しなきゃよかった。これって程度のいい犬小屋ってことでしょ?そういや確かに昨日も、攫われるを連呼してたもんなぁ。あれって、ペット泥棒か、そうなのか。


「当然だろう?君は我々と交配可能だが、生まれた子供は双方の資質を受け継ぐことになる。全てにおいて平均以下の遺伝が子孫にもたらすのは、不幸しかないのに普通の女性と同じ扱いはされない」


 淡々と事実を語るリオネロさんを、ぶん殴ってやりたい気持ちになってた時、隣のフロリードさんが首を傾げた。


「子供に関してはリオの言うとおりだけど、僕はマイをペットだとは思っていないよ?」

「「「は??」」」


 これに全員が思わず声を揃えてしまったのは、致し方ないことだろう。

 だって、さっき”ペット”発言に笑顔で同意してたの貴方じゃないの。なのに今更何言ってくれちゃってるかな?

 胡乱な目で調子のいい狐男を見上げると、何も子づくりが全てじゃないでしょと彼は笑う。


「一生面倒をみるって、ペットだけじゃないでしょ。婚姻関係を結ぶ人たちはお互いにそう誓い合うって聞いたよ」


 そう言われちゃうと確かに、結婚の誓いは要約するとそうなる…のか?和式は知らないけど、教会式は病めるときも一緒にいちゃうあれですよね。地球では厳密にそういう意味にはならないけど、この星では面倒みるとかいって誓うわけですか?そうですか?

 微妙にずれている気もするけれど、どうやらフロリードさんはそのつもりだったようで、びっくりしているお姉さんと呆れ顔のリオネロさんは無視で諭す口調であたしに語りかけ始めた。


「僕たちは子供を作るためだけにマトリモニオに住むけど、それが済めば各々の街に戻るのが常だ。交配に恋愛感情を持ち込む連中は、子作りに成功すれば喜んでファミーリャに移住するけど、僕たち上位者はそうはいかない。望まれてこちらも気に入れば交配してやるのは義務だろう?でも僕はマイに一目惚れしちゃったんだよね。どうしても離したくないし、離れたくない。ウォーモには異性は連れて入れない規則があるし、かといってファミーリャにってわけにもいかないから、君の検査結果『交配可能』を利用してここに当面の住居を据えたんだ」


 わかった?と言われて頷きたいけど、実のところ全く理解できない。フロリードさんの言い方は一瞬愛の告白に聞こえるけど、行動や目の輝きを見る限り、気に入った商品を手に入れると誓う買い物客に酷似しているんだもん。

 それとこれ、聞いていいのかな?この星の常識っぽいけど、地球じゃまったくあり得ないことなんだけど。

 楽しそうに人の頭を撫でているフロリードさんには申し訳ないけれど、あたしには到底スルーできないところだ。


「あの、子供は好きな人同士で作るんじゃないんですか?」


 結構大事ですよ、ここ。地球人ならまずありえない話だから。

 だけどいつだったか『人間は本能を忘れた動物』って聞いたことがあるんだよね。耳や尻尾が残ってるこの星の人達が、種族維持本能に基づいて子作りしてたっておかしくない。というか生き物ならそっちの方が普通で、寧ろ感情を優先して種の存続を怪しくする人間の方がおかしい気がしたんだ。

 ぴこっと狐耳を立ててあたしの質問に反応したフロリードさんは、なにそれっと鼻で笑うと予想通りの返事をくれた。


「子供はより優秀な遺伝子を残せる相手と作るものだよ。感情優先で生み出された存在は、大抵悲惨な人生を送ることになるんだから」


 やっぱりかと思う反面、感情で子作りする少数派と一緒に暮らせないだろうかと、心の底から願ったあたしを責めちゃいけないと思う。

 当然だと頷いている3人には悪いけど、頭でわかっても地球人としての価値観はそう簡単に捨てられない。恋愛で人生決めちゃうマイノリティがいるのなら、その人達といるほうがあたしの精神衛生には優しいに違いないんだ。

 だって、ことある毎に鼠以下だペットだと、最下層の扱い決定の異星人なんだもん。まだ若い身空で”あんたの遺伝子は誰も欲しがらない”と直球で言われて、将来子供を産むのも結婚の夢も一気にへし折られた女子としちゃあ、恋愛にくらい希望を持ちたいじゃないの。愛を語る人々の中にいたんだから。


 なのに、運命って何処まであたしに冷たいんだ。


「まあ、君は貴重な異星人だ。生み出される遺伝子には全く期待ができないとしても『希少』という価値はある。無能な子を産んでも研究所が喜んで引き取ってくれるだろうから、安心してリードに飼われるといい」

「だからマイはペットじゃないって」

「いくらそう主張しても、周りはこの子をペット以上に扱わないわよ」


 真剣に非道いこと話し合わないで欲しい。

 額を寄せ合った彼等はあたしの心配をしてるんだかしていないんだか、少なくとも一人で生活させてくれるとか希望を聞いてくれるとかっていう、とっても一般的なことはすっ飛ばして、ベースはフロリードさんの保護下という前提の元あーでもないこーでもないと勝手に人の人生を語り合ってくれている。

 職もなく宛てもない現状としては我が儘を言える立場にないので、何を言われても黙って頷くしかないのが辛いとこなんだけど、一つ固く心に決めたこともあった。


 子供は絶対産まない、っていうことだ。


 あれだけ言われたらその気はすっかり失せていたけど”研究所が引き取る”ってリオネロさんのセリフは衝撃的だった。

 なんで自分の子供が実験材料にされるのわかってて、生む女がいるって思うんだか。冗談じゃないっての。それ以前に子供ができる行為をするのだって、お断りよ。地球人は恋愛感情が全てなんだからね。異星間交流は一朝一夕には参りません。


「…もう、何扱いでもいいです。ただし、性交渉は一切お断りさせてください」

「は?性交渉を拒む権利なんて、ペットにはないわよ」


 なんとなくそうじゃないかなとは思ったけど、お姉さんに呆れたように提案を否定されて、ため息を禁じ得なかった。

 地球で人類が人権だなんだと騒ぎ始めたのは、第二次世界大戦が終了した後のはずだ。それ以前にもその手の活動がなかったわけじゃないが、戦後できた団体は大抵世界規模で活動をしている。

 それでも、全ての弱者が救われるわけじゃない。ましてやそれぞれの国のルールがある限り、どんなに有名で権威ある団体でも、ずかずか入り込んで是正するわけにいかないのが現状だ。


 この星の科学力は地球より進んでいるし、知的生命体としての歴史もはるかに長い。けれどだからといって生物の権利に関する考え方が自分たちと同等だと考えるのは間違いだ。その星が辿った歴史と発展により、違う考え方が主流を占めたっておかしくないんだから。

 端々に覗く強者が弱者を支配するという暗黙の了解に、嫌な予感はしてた。同じ知的生命体なのに狼と鼠の扱いに主人と奴隷ほどの差があって、飼うだペットだと笑って言えるならペット=性奴隷って図式なのかもしれないって。

 今、確証に変わったけど。


「それなら、子供だけは作らないでもらえませんか。リオネロさんが言ったような運命を、生まれながらに負うとわかっていて赤ちゃんを産むのは嫌です。あたしみたいなのの子供は不幸になるしかないってことですよね?だったら初めからいりません」


 必死にこれだけは叶えてもらえないかと訴えたら、困り顔の男性とは違って真っ先に反応してくれたのはお姉さんだった。

 それまでのどこか茶化した雰囲気が消え、まじめにあたしと目を合わせて口を開く。


「…そうね、あなたの言うとおりだわ。物珍しさと脆弱さについひどいことを言ってごめんなさい。考えたらあなたは別の星から来た、異星人だったのよね。私、自分があなたと同じように違う星に漂着して、今みたいなこと笑いながら言われたら…相手を殺しちゃうかもしれない」


 それが冗談じゃない証拠に、綺麗にマニュキアされた爪が一瞬ギラリと光り、形良い唇がありえないほど大きく歪んで鋭すぎる犬歯がのぞいていた。

 …えーっと、ご同意いただいて幸いですが…怖いです。美人な分だけギャップに迫力が半端なかったです。

 引き攣りながら、それでも味方は増やしておかなきゃいけないとお礼を言ったら、テーブル越しに手を握られた。唐突なその行動があんまり素早かったんで、一瞬かみ殺されるかと身を固くしたことは、内緒だ。


「私、オルガ。28期の女アルファよ。よければお友達にならない?」


 ここで拒否できる権利も勇気もあたしにはない。引き攣らないよう必死で笑顔で作って、頷きましたとも。


「マイです。よろしくお願いします」


 ところで、アルファって何?


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