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ニート姉さんと宝箱のカギ(2)

 良い天気の春の日だった。そのアパートの近くには菜の花畑のような空き地があって、わずかに菜の花の香りがしていた。丘をあがっていくと、住宅街の切れ目から遠くに桜並木が広がっているのが見えた。

 僕は吹江さんの後に続いて歩いていた。


 タイムカプセルの中から出てきた小さな宝箱の鍵は今のところどこにも見つかっていない。そして探すべき最後の場所があった。丘の上にある姉さんのアパートだ。

 僕は別にそこを探すつもりはなかったが、吹江さんはどうもそうさせたがっているように思えた。もしかすると吹江さんは鍵のありかを実は知っていて…とも考えたが、せいぜいこの箱の存在を当時知り得たのは姉さんと多恵子さんと僕くらいのものだったので、あまり可能性はなさそうだ。

 それより吹江さんは、もしかすると姉さんと僕を会わせたがっているのかもしれない。

「着いたよ」

 目の前には鉄骨コンクリート造の2階建てアパートがあった。外壁は白く塗り直されたようで綺麗だったが、柱などの細かい部分を見ると建てられてから時間が経っていることがよく分かった。


 僕は「行く」とは一言も言ってないのだけど、何だかんだで連れられてここまで来てしまっていた。一応「鍵を探す」という大義名分があるにせよ、姉さんに会うのは気まずかった。母が亡くなる前後から僕が一方的に姉さんを遠ざけてきて、伯母さんと吹江さんの元に身元が移ってもできるだけ会わないようにしていたからだ。今は高校で寮住まいをしているのでこの町に戻ってくることもそれほどない。姉さんが大学に進学して、一人でこのアパートから通っているという話を聞いても「ふーん」としか思わなかった。このまま何となく縁が切れていくんだろうなと思っていたからだ。

 その後、姉さんが引きこもりがちになったことを聞いても別にそれに何の思うところもなく、吹江さんに「あんなにお姉ちゃん子だったのにねえ」と言われても何と反応していいものかよく分からなかった。

 だから、もし部屋に入って「いらっしゃい」と迎えられても何と切り出していいか分からないし、どんな顔でどんな距離感で会話していいか分からない。どうにも居づらいので、鍵を探そうにもおそらくまともに探すことなどできないのではないかと思う。


 2階にある一番奥の部屋がそこだった。

「沙絵ー」

 吹江さんがチャイムを押して呼びかける。僕と吹江さんはドアの前に立っているが、わずかに腐臭がしていた。さっきまで香っていた菜の花の香りに何かが混ざったのかと思ってけど、どうもこれは腐臭のようだった。

「ちょっと臭うでしょ。いつものことよ」

 あまりの引きこもりぶりに掃除とゴミ出しがまともにされておらず、たまに見かねた吹江さんがまとめて捨てているのだそうだ。中は放っておくとゴミ屋敷のようになるという。

 僕が「じゃあ、たぶん今もですか」と聞くと「たぶんね」と苦笑いされた。

「いつも私が呼ぶと出てくるのに…あれ、ドア開いてるわ」

 吹江さんがドアノブを回すとあっさり開いたらしい。


「こんにちはー。吹江でーす。沙絵いるのー?」

 のぞき込んでみたが返事はない。カーテンは閉まっていて中は薄暗かったが、中がものに溢れていることは分かった。手前の台所にはカップ焼きそばやら何やらの屑があり、奥の方には毛布や衣類が散らばっているのが見えた。

「ね、ゴミ屋敷でしょ」

 ドアを開けた瞬間からほのかに広がる腐臭の中で、吹江さんは小さく僕に言った。僕は自分が小さな鍵を探しに来たということを思い出し、一気に気が遠くなった。

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