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ニート姉さんとたくさんの飴玉

 姉さんは数日以内に退院することになっていた。もちろん引き続き暴飲暴食はしないという条件付きだ。これからは同居人の僕が三食を作るからそれについては問題ない。酒を飲まなければの話だが。

 姉さんには余命がわずかということまでは伝えていない。ただ、今後絶対禁酒で、飲めばそれだけ死が近づくということは医者からきつく言われている。人見知りの姉さんのことなので、医者からの忠告は駄々をこねたりすることなく黙って聞いていた。

 黙っていれば姉さんは美人で実年齢よりも若く見え、しかも僕以外の人間がいる時は口数も少なく、丁寧な物言いでおずおずと喋るので看護師さんたちの話題になっていた。まさに薄幸の美少女はかくあるべきみたいな理想像を体現しているようで、おばさん看護師を中心に「美人なお姉さんをもって羨ましいわね」「天使みたいな寝顔ね」「いいところのお嬢様かしら?」などと言われ、僕も僕でごにょごにょとぼかしながらミステリアスな姉さんイメージを崩さないような反応しかできなかった。酒浸りで引きこもっていた無職です、なんてとても言えたものではない。

 途中から病室は個室から共同の部屋に変わった。その頃には桜がほとんど満開に近い状態になっていて、部屋の窓からは美しい桜の並木がよく見えた。新しい部屋に変わるとき、その部屋の窓際に長年居座っていたようなおじさんが「どうぞこの場所を使うといい」と気を利かせて、場所を譲ってくれたのだった。

 おじさんは「こんな美人が来るなら、ふさわしい場所に居てもらわにゃな」と言ってニコニコしていて、美人は本当に得をするのだなあと思いつつお礼を言った。その直後に看護師さんに「このひと若い女性にはいつもこの調子なんですよ」とか言われてて、部屋は爆笑につつまれた。姉さんもあめ玉を口の中で転がしながら静かに笑っていた。


 美人の患者がいるという噂は同室の人ができてから急速に広まったようで、同室の見舞客までもが声をかけてくるようになった。姉さんは無口で大人しそうな笑顔をして(人見知りだから、作り笑顔以外は別に演技というでもない)、ミステリアスな美人像を相変わらず保っていた。

 さらに、いつもあめ玉をなめているので色々な人が飴をくれるようになった。退院直前のときなど、もう神仏のお供え物のように飴の袋やら缶やらが周りに置かれていて、もはや後光でも差さんばかりのオーラを放っていた。

 僕はその様子を驚きとともに、ずっと笑いを堪えながらながめていた。

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