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ニート姉さんの病室

 姉さんの病状悪化は一時的なものだったようで、病院に運ばれてからの容態は落ち着いていた。ただ、今までろくに医者に掛からず不養生を続けてきたツケは大きく、医者からは厳しい食事制限と運動制限を申し渡されてしまった。このままの生活を続ければ、今回のような病状を自覚することなく突然死を迎えていたかも知れないのだそうだ。


 そこまで末期的な症状を迎えていたはずの姉さんは今回さいわいなことに命を取り留めることに成功したのだが、本人にとっては酒を飲むことができなくなったのがよほど不満らしく、「このままぽっくり死ねばよかった」と言い出すような始末だった。

 もちろん僕が考える限り、姉さんがそんな簡単に命への執着を捨てるわけがないので、冗談で言っているには違いない。しかしアルコール依存症とまでは言わないにしろ生活スタイルに酒というものが取り込まれてしまっていた以上、急にそれなしで病室で過ごすことになったことがどうにも寂しくて仕方がないらしく、あめ玉をひたすら舐めて手持ちぶさたを耐えているような状況だ。

 最初のうちはそれこそ禁煙の禁断症状に耐えるような人のように、あめ玉をボリボリガリガリ噛みつぶしながら貧乏揺すりをするという、うら若き乙女に似つかわしくないような有様だったのだけど、3日も経てばあめ玉をコロコロと口の中で転がしながら落ち着いて雑誌でも読めるようになっていた。

 ちなみに、雑誌は僕のセレクトでファッション雑誌やら経済雑誌やらインテリア雑誌やらを幅広く買っている。そんなものを沢山買ってもお釣りが来るくらい普段の姉さんの浪費っぷりがひどかったのがよく分かる。まあベッド代と医療費が馬鹿にならないので、いつまでもこういう生活を続けるわけにはいかない。


「金融雑誌もう飽きた。相場が上がるか下がるかしか言わないんだもん」

「そこが一番大事なんでしょうが。上がる下がるのほかに転がるとかあったらたまりませんよ」

「いいところに気が付くね。転がるときが一番面白いんだよ」

「じゃあ次は小説とか買ってきましょうか?」

「えーとね、私の部屋にあるムック本持ってきてほしいな」

「そんなのありましたっけ」

「“世界の酒5000 完全保存版”」

「ダメですよ!絶対ダメです!」

「見るだけ!見るだけだから!ちょっと見るだけ!」

「何のために姉さん入院してると思ってるんですか。もう未練は断ち切らないと自分で苦しむことになりますよ」

「先っちょだけ!ほんの先っちょだけだから!」

「何が先っちょなんですか!」

「いいだろちょっとくらい!もしもの時は責任取るから!」

「なに一番信用できないタイプの男みたいなこと言ってるんですか!目を覚ましてください」

「ちぇー」

 姉さんはコロコロと飴の音をさせながら口をすぼめていた。

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