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穴を掘る

作者: けもにゃん

          穴を掘る         

                               作COM

穴を掘る。穴を掘る。唯、ひたすらに穴を掘る。

そこでふと思う。何故、穴を掘るのか…気が付けば穴を掘っていた。それは

まるで呼吸でもするかの様に、とても自然に、行っていた。穴を掘るという

こと、それは一体何なのか…もしかすると鍛冶屋に生まれた息子のように、

豆腐屋に生まれた跡継ぎのように、生まれながらにしてその道に進むことを

決め付けられたような、そんなものなのかもしれない。鍛冶屋が一心不乱に

鉄を打つように、豆腐屋が伝統を守りながらも新しい味を追求するように、

唯、唯、土を掘り続けていたのかもしれない。

穴を掘る。穴を掘る。唯、ひたすらに穴を掘る。

何故、穴を掘るのか。それは必然的なものなのかもしれない。

そこでふと思う。自分という存在は一体何なのか。僕なのかわたしなのか、

俺なのかワシなのか…はたまたそれ以外の何かなのか…考えても分かる筈が

無い。元々そんなことを考えた事が無かったからだ。ならばどうするのか。

このまま判断する術も持たず、そんな曖昧なまま自分という存在の呼び方を

決めてもいいのだろうか…しかし、そんな曖昧なままでもいいのではないだ

ろうか…よし、そうだな…そんな曖昧な存在である自分を、どちらとしても

取れる呼び方である、私と呼ぶことにしよう。

穴を掘る。穴を掘る。私は、ひたすらに穴を掘る。

何故、穴を掘るのか。それは必然的なものなのかもしれない。

そこでふと思う。私は一体、何時から穴を掘っているのか。気が付けば掘っ

ていた。誰に掘れと言われた訳でも無く、今、記憶がある限りではずっと掘

り続けている。私が穴を掘り続ける意味とは何なのか。そこでふと気付く。

穴を掘っていると言っているが、一体何を使って掘っているのだろう。手な

のだろうか。そういえば明かりが無い。この真っ暗な中、唯、唯、穴を掘っ

ていた。何故、そんな中穴を掘っているのか。そんな状況なら私は、死刑囚

なのかも知れない。ならば私は何の罪を犯したのか。覚えていない。ならば

何故、穴を掘るのか。そうか…それは必然。其処に土があるから掘っている

のだろう。私はそう信じることにした。

穴を掘る。穴を掘る。私は、ひたすらに穴を掘る。

何故、穴を掘るのか。それは其処に土があるから。

そこでふと思う。さっきから私は穴を掘っていると言っているが、本当に私

は土を掘っているのだろうか。もしかすると私が土だと思っていたものは、

土ではなく、水なのかもしれない。そして、掘っていると思っていた行為は

その水をかいていたのかも知れない。だとすれば私は、魚なのだろうか。し

かし周りは暗い。ということは、私は深海魚なのだろうか。それならば周り

が見えないのも合点が合う。しかし、確かに何かを手でかいているのだけは

分かる。それは一体何なのか…知る由も無い。ならば一体、それは何なのか。

信じるしかない。それが土であると。掘っていると。

穴を掘る。穴を掘る。私は、ひたすらに穴を掘る。

何故、穴を掘るのか。それを土だと信じるため。

そこでふと思う。何故、私は穴を掘らなければならないと思ったのか。考え

てみれば、私は今まで穴を掘る意味を、必然や、私自身の願望だと思ってい

た。しかし、私は何時、穴を掘ることが私の望みだと思ったのか。必然でも

無い。願望でも無い。なのに私は穴を掘っている。強制でも無い。偶然でも

無い。私は此処に、土の中に物心ついた時から居たために、穴を掘らなけれ

ばならないと思い込んでしまったのだろう。ならば私はどうするのか。答え

は無い。ならば一つ、願望を持ってみよう。そうだ…どうせならこの土の上

を見てみたい。空を見てみたい。そのために穴を掘ってみよう。

穴を掘る。穴を掘る。私は、ひたすらに穴を掘る。

何故、穴を掘るのか。それは初めて抱いた私の願望のため。

今まで考えたことも無かった。空を見たい。この土の中から出たい。初めて

そう思った。今までは唯、ひたすらに土を掘っていた。理由も無く、その意

味を考えもせず、唯、唯、穴を掘っていた。穴を掘る意味。それは私に運命

付けられた必然なのか…違う。それは私が望んでいた願望なのか…違う。そ

れは土であると信じるための盲信なのか…違う。今までは何も考えず、唯、

掘っていた。しかし今は違う。願望がある。夢がある。何故、土を掘るのか。

それは空を見るため。それは大地を見るため。それは土を掘り終えるため。

穴を掘る。穴を掘る。私は、がむしゃらに穴を掘る。

何故、穴を掘るのか。それは全てを終えるため。

夢のため。光を見るため。たとえ、もう土の中に居た期間が長すぎて、目が

見えなくなってしまっていたとしても構わない。地上に出ることに意味があ

る。たとえ、上を目指して掘っていなかったとしても構わない。横であろう

と、下であろうと、いずれは掘り終える。だから…!

穴を掘る。穴を掘る…穴を掘る!穴を…――

掘り終えた。

確かに、そこには今まであった、纏わり付いていた感覚が無くなった。地上

に出たのなら日の光がさしているはずだが…やはり目は見えなくなっていた

ようだ…それでもいい。目では見えなくても、肌で感じる。日の光の暖かさ、

吹き抜ける風の感覚、何処までも続いているであろう草の香り…今、私は地

上へ向かって掘った意味があったと思えた。もう、掘らなくていいのだから、

初めて抱いた願望を叶える事が出来たのだから…

しかしその刹那、腹部を凄まじい激痛が走る。喩えるなら雷撃、そう、まる

で雷に打たれたような痛みが走る。しかし、その痛みは一瞬では終わらない。

万力で腹部を必要以上に締め付けるような、体の中で体が引き千切れる様な

嫌な感覚が走ったのが分かる。それも、まさに万力で締め続けられるような、

断続的な痛み。私は必死にその痛みの元を取り払おうと手で腹部のそれを外

そうとしたが、手は…私の手は…一体…そこで私には手が無いことに気付く。

そうだ…思い出した…何故、私は穴を掘っていたのか。それはまさに必然、

生きるため。呼吸と同じほど大事な行為のため。そう、食事だ。何故、私は

自分という存在を確かめなかったのか、それは私が本当に曖昧な存在であっ

たため。男でもなく、女でもなかったからだ。何故、私は穴を掘り続けられ

たのか。それは元々目など無く、土の中で生きるように創られていたからだ。

何故、私はそれを土だと信じることができたのか。それはそれが土であると

本能で知っていたからだ。何故、私は願望を持たなかったのか。それは……


             私が、蚯蚓(みみず)だからだ。


土の中から出る必要など無かった。いや、むしろ出てはいけなかった。地上

に出る、それは私にとって死を意味することだったからだ。そしてその死は

私に、自然界の厳しさを教え、しっかりと私の上にも降り注いだ。私の腹部

を貫いた痛み、それは鶏に啄ばまれた痛みだ。そうと分かれば次に私に起こ

ることは既に予想が出来る。手で痛みを払えるはずが無い。手など無いのだ

から。空を見ることなど出来るはずが無い。目など無いのだから。そして最

後に蚯蚓はこう思った。

何故、私は自分のことを人間なんかと間違ったのか…そんな間違いを起こさ

なければ、私はまだ生きられたかも知れなかったのに…

そうして蚯蚓はその生涯を終えた。

最後まで読んでいただきありがとうございました。自分が思い立った小説としては二つ目ですが、

一番最初に完結しました。蚯蚓は何を考えているか分かりません。もちろん蚯蚓から見れば人間も

何をしているのか分からないでしょう。そんな思いと、道端にある蚯蚓の死骸を見て、ふと何故、

こんなことになるんだろうな…そう思ったので書きました。もしかすると本当にそんなことを考えて

死んでいってしまったかもしれないな…そう思ったらなんか切なくなりました…

それでは又、色々書きますので他のも読んでいただけたら幸いです。

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