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怨霊転生(エピローグ:二つの世界の夜明け)

異世界の残響:ビビロニア一世の誕生

データタワーの最上階。キョムたちが青白い光のゲートへと消え去り、静寂が戻ったサーバー室で、ビビろうはミスリルの大楯を抱えたまま、へたり込んでいた。  胸を去来するのは、耐え難いほどの喪失感。

「行っちゃった……。あーあ、俺も日本に帰って、コンビニスイーツ食べたかったなぁ……」

ぽつりと呟いたその瞬間。ビビろうのポケットで、電子音が鳴り響いた。  画面を見ると、なんと最新のメッセージ通知。あのオタク魔王・佐藤からのLINEだった。

佐藤: 『あ、ビビろう? 気が変わったら、LINEの個人チャットで言ってくれれば、いつでも日本からコンビニスイーツを**デリバリー(転送)**できるからさ。大根のおでんもイケるよ!』

「デリバリーできんのかよ!! だったら俺が残る意味半分くらい無かったじゃん!!」

ビビろうの魂のツッコミが、無人のタワーに木霊した。  ツッコミを入れながらも、ビビろうは少しだけ心が軽くなるのを感じていた。彼は視線を落とし、先ほど歩花の圧倒的な聖なる光によって、前世からの配下(不浄な妖怪たち)をすべて浄化され、魂の抜けたように項垂れていたコンタへと声をかけた。

「なぁ、コンタ。お前、これからどうするんだ?」

(……ふん。吾輩を誰だと思っておる)

コンタがゆっくりと顔を上げた。その瞬間、ビビろうは息を呑んだ。  絶望に打ちひしがれていたはずのコンタの背後で、黄金の尻尾が、いつの間にか**「五本」**に増えていたのだ。

(歩花の小娘に不浄を焼かれ、吾輩の魔力は一度空っぽになった。だがな、空になった器には、この世界の純粋な魔素が恐ろしい勢いで流れ込んでおる! クハハハ! 見よ、この五尾の威光を! もはや古代魔王の玉座は空席。ならば、この吾輩が新たなる主となって君臨してやるわ!)

胸を張るコンタの姿に、ビビろうは慌ててスマートフォンを構えた。

「ちょ、ちょっと待て! 魔王になる気かよ! 今すぐキョムさんにLINEして、もう一回引きずり戻して、お前を連行してもらうからな!?」

(待て待て! 早まるなビビろう!)  コンタが慌てて前足でビビろうを制止する。

(良いか、吾輩がこの魔王の領地(楽園)で、かつての九尾の全盛期を超える力を蓄え、不浄なる配下を再び増やすには……最低でも数千年はかかる! 人類の生活圏を脅かすような心配など、天地がひっくり返っても金輪際あり得んわ!)

「数千年……?」  ビビろうは、スマホを握る手を止めた。  数千年。それは、人間である自分の一生を遥かに超える悠久の歳月。

「……まぁ、俺が死んだ後なら、どうなっても知ったこっちゃないか」

ビビろうはあっさりと納得し、コンタとの間に、**「数千年の相互不可侵の誓約」**を交わした。


英雄の凱旋、そして「この世の春」

その後。  ミスリルの大楯を背負い、王都へと凱旋したビビろうを待っていたのは、国を挙げての大歓迎であった。  魔王を打ち倒し、さらに新たなる魔王コンタと数千年の平和の不可侵条約を結んできた「唯一の生き残りの英雄」。

王宮のバルコニーに立たされたビビろうに、国王は涙を流して感謝し、イケメンの皇太子がその肩を叩く。そして、気品と優しさ、そして圧倒的な可愛さを漂わせる金髪美人の妹君(お姫様)との婚姻を勧められた。

「えっ!? 俺が、お姫様と結婚!? いいんですか、こんなヘタレで臆病な俺で!?」

ビビろうにとって、まさに「この世の春」の到来であった。

――だが、運命の不条理はこれで終わりではなかった。  婚姻の直前、なんとイケメンの皇太子が、他国の姫と恋に落ち、王位継承権をあっさりと放棄して駆け落ちしてしまったのである。

玉座に押し上げられたビビろうは、不本意ながらも国王に即位。名は**「ビビロニア一世」**と改められた。  さらに、王妃となった元お姫様から「王様になったのですから、当然、側室が必要ですわ」と優しく微笑まれ、側室の第一号を迎え入れることになる。  その相手は……かつて勇者パーティーに同行していたものの、キョムたちの規格外の不条理についていけず、いつの間にか戦線を離脱してどこかへ消えていた、あの女魔導士であった。

泣き言ばかり言っていた世界一の臆病者が、一国の王となり、二人の美女に囲まれる。……というのは、もう少し未来のお話。


日本の現実:普通の男、新たな収益

一方、東京のボロアパート。  キョムのスマートフォンにも、佐藤からのLINEが届いていた。そこには、二人の虚無の「本当の未来」が綴られていた。

佐藤: 『追記ね。キョムのブラックホールは、ビビろうの出口を失ったことで、いずれ呑み込み続けたエネルギーで満杯になる。満杯になれば、その機能は失われて、君は**「普通の男」**に戻るよ。もともと何の取り柄もなかった、ただの普通の男にね。 そして異世界のビビろうも、入りキョムが閉まればいつか空っぽになり、能力は失われる。彼が、あの孤独で恒久の時を過ごす「観測者」になる未来は、これで完全に消滅したってわけ。二人とも、おめでとう。お幸せに!』

画面を見つめ、キョムは無表情のまま、ふっと息を漏らした。  ただの普通の男に戻る。それはキョムにとって、喪失ではなく、何よりも待ち望んだ「人間としての奪還」であった。

地球(日本)では、コンタやその配下の不浄なる怨霊たちが、ごっそりと異世界へ消え去ったことで、かつてないほどに清浄な空気が流れていた。  だが、当分の間は、キョムのブラックホールが完全に満杯になって消滅するまで、日本の瘴気ではなく「別のもの」で虚無を埋めなければならない。

その「別のもの」こそが、異世界からキョムのマジックバッグ(虚無)に溜め込んでいた、大量の魔物の素材や鉱石であった。

日本に帰還後、キョムがその素材を専門機関に持ち込むと、事態は一変した。  異世界の魔物の牙や鱗、未知の鉱石は、地球のレアアースや最新の半導体素材を遥かに凌駕する超・高性能エネルギー伝導体であることが判明。世界中の研究機関や巨大企業から注文が殺到し、キョムはそれだけで、数千億円規模の膨大な収益を生み出し、一瞬にして世界の富豪へと上り詰めた。

カビ臭かったボロアパートを引き払い、キョムは東京都内の高級マンションへと居を移した。  窓から見えるのは、灰色の街並みではなく、どこまでも広がる東京の美しい夜景。

そして。  高級マンションの広々としたリビングのキッチン。キョムの隣には、桜色のエプロンを身に着け、鼻歌を歌いながら、今夜の夕食を作っている歩花の姿があった。

「キョムさん! 今夜は、高級お肉を使った、特製すき焼きです!」

「……決定だ。割り下は、少し甘めにしてくれ」

キョムが無表情のまま、歩花の頭をそっと撫でる。  足元では、白猫のニャメが高級なキャットタワーの天辺で気だるそうに喉を鳴らし、おばあちゃんの霊がリビングの天井付近をヘラヘラと笑いながら飛び回っている。

かつて孤独だった「何もない男」は、今、異世界の戦利品という富と、そして何よりも愛おしい、歩花との温かいスローライフ(新しい日常)を手に入れていた。


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