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第三十六章:絶対零度のサーバー室と、ピクセルの巨神

電子バリアを物理フライパンと虚無の超循環でブチ破ったキョムの一行。傷ついたおばあちゃんペガサスをタワーの麓の安全な場所に残し、彼らは天を衝く黒いデータタワーの螺旋階段を一気に駆け上がっていた。

最上階。重厚な黒い自動扉がプシューと音を立てて開く。

「ぶ、ぶるるるるっ! さ、寒い! 何これ、氷の迷宮より寒くない!? 冷房強めってレベルじゃないでしょ! 冷凍庫じゃん!」

ビビろうが、ミスリルの大楯をガタガタと打ち鳴らしながら、歯の根を鳴らして絶叫した。  サーバー室の内部は、佐藤の予告通り、サーバー機器の熱を冷ますための絶対零度近い極限の冷気が吹き荒れていた。壁一面に整然と並ぶ、青白く明滅する無数のラックサーバー。その間を、視界を遮るほどの白い冷気の霧が立ち込めている。

「……歩花。頼む」

「はいっ! 桜色の温もりを、みんなに!」

歩花が鉄のフライパンを握りしめたまま、自身の身体からぽかぽかと温かい桜色の聖なるオーラを放ち、パーティーを包み込む。  さらにコンタが、三本の黄金の尻尾を扇のように広げ、子犬の顔に不敵な笑みを浮かべた。

(ふん、この程度の冷気、吾輩の三尾の金炎で相殺して見せるわ! 吾輩の炎の前に、ひれ伏すがいい!)

コンタの三尾から放たれる黄金の狐火と、歩花の聖なるオーラ。二つの熱源が合わさり、サーバー室の極寒の冷気を強引に押し返して、キョムたちの周囲だけをぽかぽかとした空間に保ち続ける。


ゲーマー魔王と、巨大ピクセルロボ

『おー、来たね。バリアを壊してここまで上がってくるとは、さすが令和の勇者様たち。でも、ここから先は僕のホームグラウンドだからさ。簡単には通さないよ?』

サーバーラックの奥から、例のひょろっとしたオタク風の魔王・佐藤が、ホログラムの姿で現れた。  佐藤は手元のワイヤレスゲームコントローラーをカチャカチャと操作しながら、ヘラヘラとした薄笑いを浮かべている。

「……本体(物理サーバー)はどこだ、佐藤」

キョムが無表情のまま、佐藤のホログラムを射抜くように見つめた。

『あはは、それを探すのがこのゲームのボス戦だよ! さぁ、僕の最高傑作――セキュリティプログラム【ピクセル・ゴーレム】、起動!』

佐藤がコントローラーのボタンを強打した瞬間。  サーバー室の床から、無数の光るキューブ(ドット絵のブロック)がボコボコと湧き上がり、それらが空中で結合して、全長五メートルを超える巨大なドット絵のピクセルロボットが組み上がった。

『物理が効かないホログラムを殴りたければ、まずはこの物理的な電子ロボットをスクラップにしてからだね!』

巨大なピクセルロボが、ガシャン、ガシャンと重い駆動音を立てて、ビビろうに向けて巨大な四角い腕を振り下ろした。

「うわああああっ! 四角い! ロボット! 痛そう! 助けてぇぇぇ!」

ビビろうが反射的にくるりと背を向け、ミスリルの大楯を背負って逃げ出した。  だが、その逃げ腰こそが無敵の甲羅。ピクセルロボの放った巨大なドットの拳が、ビビろうの背負った大楯と「臆病の結界」に激突し、バァン!と凄まじい衝撃音と共に弾き返された。

「痛い! でも無事! どけぇ、安全な足場はこっちだぁぁぁ!」

(ハハハ! ビビろうよ、よくぞ道を示した! 吾輩の三尾の金炎、そのカクカクした身体ごと、ドロドロに溶かしてやるわ!)

コンタが跳躍し、三本の尻尾から超高熱の金炎をピクセルロボへと放射した。白熱する炎がロボの表面を焼き、ドットのブロックが真っ赤に加熱されていく。

「ニャァウ!(そこだ!)」

コンタが熱で注意を引きつけている隙に、キョムの足元から白き閃光となったニャメが跳躍。  物理攻撃を反射し、冷気でコーティングされたロボの、魔力の接続部(コードの繋ぎ目)へ、白き神獣の爪撃を正確無比に叩き込んだ。

バチバチッ!と火花が散り、ピクセルロボの右腕がショートして力なく垂れ下がった。


サーバー室の決戦

『おっと、やるねぇ。でも、こっちもリロード(再生成)だ!』

佐藤がコントローラーを操作し、破損したピクセルロボの腕に、周囲のサーバーラックから吸い上げた電子データが再びキューブとなって補填されていく。無限再生のセキュリティプログラム。

「……キョムさん、あそこです!」

歩花が、フライパンを構えながら、サーバー室の最奥を指さした。  佐藤がコントローラーを操作するたびに、最奥にある、ひときわ巨大で、真っ黒な光沢を放つ【メインタワーサーバー】のLEDランプが激しく明滅している。

「……あれが、本体のサーバーだな」

キョムが無表情のまま、その真っ黒なサーバー本体をロックオンした。  ホログラムの佐藤をいくら攻撃しても無駄だが、あの最奥のメインタワーサーバー本体を物理的に破壊、あるいは虚無で呑み込めば、佐藤の魔王としてのシステムは完全に崩壊する。

「ビビろう、合わせろ。あの黒いサーバー本体へ、虚無の超循環を叩き込む」

「えええっ!? またやるの!? あれ、めちゃくちゃ体力使うし、精神的に削られるんだけどぉ!」

文句を言いながらも、ビビろうは迫りくるピクセルロボの攻撃を大楯で弾き飛ばし、キョムの前に回り込んだ。

「……行くぞ。決定だ」

キョムが、ビビろうの持つ【ミスリルの大楯】の縁を、背後から力強く掴み取る。  呑み込む虚無ブラックホールと、吐き出す虚無ホワイトホールが再び直結し、大楯の正面から、空間を白く歪めるほどの圧倒的な斥力の光が放射された。

「うおおおおおっ! 押し通るぞぉぉぉ!!」

ビビろうのヤケクソの絶叫を乗せ、キョムとビビろうの二つの虚無の超循環が、ピクセルロボの巨体を真っ向から押し潰し、最奥の黒いメインタワーサーバーへと向けて一直線に爆走を開始するのであった。


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