第三十三章:電子の道標と、データタワーの影
目的も未来もバラバラのまま、「とりあえず魔王(佐藤)を物理的にボコボコにする」という一点のみで、再び最狂の結束を取り戻したキョムの一行。 世界の最果て、赤黒い雲が渦巻く荒野のど真ん中で、キョムはコートのポケットからバキバキのスマートフォンを取り出した。
「……手がかりを探す」
キョムが無表情のまま、スマホの画面に指を滑らせる。 先ほど佐藤がホログラムとして消え去った際、パスワードは「前世のボロアパートの部屋番号」だと言い残していた。キョムの部屋番号、あるいはビビろうの部屋番号。 キョムは迷うことなく、自らの孤独な前世の数字を打ち込んだ。
カシャリ、と小気味いい電子音が響き、スマートフォンのロックが解除された。
「開いた! マジで開いたじゃん! なんで前世の部屋番号が異世界の魔王のスマホのパスワードになってんのさ! 怖すぎるよ、佐藤さん!!」
ビビろうが、ミスリルの大楯の影から涙目でスマホを覗き込んだ。
ホーム画面には、懐かしいアプリのアイコンが並んでいた。だが、そのどれもが異世界のシステムと融合し、奇妙なノイズを放っている。キョムがその中から、禍々しいアイコンの「マップアプリ」をタップした。
青白い光がスマホの画面から立体ホログラムとして投影され、彼らの眼前に、この世界の全土の三次元マップが浮かび上がった。 世界の果ての各地に点在していた魔将軍の居城。そして、マップの中央――この世界の「へそ」にあたる大陸のど真ん中に、ひときわ巨大な、天を衝くような「黒い塔」の3Dモデルが赤く点滅している。
【目標地点:メインサーバー・データタワー】
「……あそこだな」
キョムが、無表情のままマップの中央を指さした。 世界の中心にそびえ立つ、巨大なデータタワー。ひょろっとした現代日本のオタク風の魔王・佐藤の「本体(物理サーバー)」が引きこもっている、真なる魔王城であった。
「あ、あんなところに行くの……? 遠くない? ってか、絶対にあそこに近づいたら、レーザービームとか飛んでくるでしょ! 嫌だよぉ、俺はここで焼きおにぎり食べて待ってるから、みんなで行ってきてよぉ!」
ビビろうが、速攻でミスリルの大楯を地面に放り出し、胡坐をかいてストライキの姿勢を取った。
(ふん、情けない男よ。三尾へと至った吾輩の金炎、あんな黒い塔ごと、一瞬で焼き尽くしてくれるわ!)
コンタが、三本の黄金の尻尾を誇らしげに逆立て、子犬の顔に不敵な笑みを浮かべる。ニャメもまた、キョムの首元で「ナァウ」と静かに喉を鳴らし、神速の爪を研ぎ始めた。
「ビビろうさん、大丈夫ですよ! 私が、美味しいお弁当をたくさん作りますから! ほら、キョムさんのマジックバッグ(虚無)から、フライパンを取り出してください!」
歩花が、おばあちゃんペガサスの背中からぴょんと飛び降り、腕まくりをして微笑んだ。 聖女の光が魔王に通じないなら、物理で語るしかない。歩花は、キョムが虚無の底から取り出した、使い込まれた鉄のフライパンを両手で力強く握りしめた。
「佐藤さんのホログラムに私の魔法(光)が効かないなら……このフライパンで、物理的に頭をポカポカ叩いて、正気に戻してみせます!」
聖なる桜色の浄化のオーラを全身に纏いながら、笑顔でフライパンを素振りする聖女・歩花。その純粋すぎる暴力の気配に、ビビろうが「う、物理特化の聖女って、一番怖くない……?」と、さらにガタガタと震え上がった。
『はっはっは! いいねぇ、歩花! 吾輩の翼に乗って、世界の中心までひとっ飛びさ! 全員、吾輩の足元に集まりな!』
おばあちゃんペガサスが豪快に嘶き、純白の翼を大きく広げた。
「……行くぞ」
キョムが静かに宣告し、スマホをポケットに仕舞い込んだ。 ひょろっとした魔王(佐藤)を引きずり出すための、世界の中心へと向かう旅路。
「だからぁ! なんで俺が一番前なのさぁぁぁ!」
ビビろうの絶叫を乗せ、おばあちゃんペガサスの聖なる風が、世界の最果ての荒野を力強く駆け抜ける。 目的はバラバラ、手段は不条理。だが、最強の勇者パーティーは、画面のバキバキに割れたスマホのナビゲーションを頼りに、世界の中心にそびえ立つ「データタワー」へと向けて、新たなる最終決戦の火蓋を切って落とすのであった。




