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第二十八章:最果ての深淵城と、真・狂戦士の風評被害

キョムが見た「二つの虚無の繋がり」の夢。目覚めた後の高原の朝は、いつものように騒がしく、いつものように温かかった。  歩花が握る焼きおにぎりを頬張り、三尾となったコンタとニャメが小競り合いをし、おばあちゃんペガサスが機嫌良さそうに嘶く。

「……行くぞ。最後の武具の場所へ」

キョムの静かな一言で、一行はついにこの世界の最果て、古代魔王の居城『深淵城』へと向けて出発した。

道中の最後の補給都市に立ち寄った際、街の掲示板の前で、ビビろうの絶叫が再び木霊した。

「なんでだよぉぉぉ! 話が盛りすぎでしょ! 誰だよ『魔王を素手で殴り倒す予定の最凶の狂人』って! 殴らない! 触りたくもない! 平和に生きたいだけなのにぃぃ!!」

魔王軍の指名手配書はさらに更新され、ビビろうの懸賞金は国家予算レベルにまで跳ね上がっていた。世界中の賞金稼ぎたちが「最凶の狂戦士ビビろう」の首を狙って目を血走らせている。

「ナァオ(有名人だな)」 (クハハハ! ビビろうよ、もはや世界の覇者の一歩手前ではないか!)

「嬉しくない! 怖すぎる! 帰りたいぃぃ!」

ビビろうがミスリルの大楯の影に隠れてガタガタと震える中、キョムは無表情のまま、その手配書を影のマジックバッグ(虚無)へと無造作に放り込んだ。

「……決定だ。日本に帰ったら、コンビニスイーツと唐揚げ棒に加え、おでんも奢ってやる」

「おでん!? しかも大根!? やったぁ! ……って、誤魔化されないからね! 怖いもんは怖いんだよぉ!」


世界の最果て、深淵城

ギャグのような風評被害を背負いながら、一行はついに世界の最果て、黒い雲が渦巻く断崖絶壁の上にそびえ立つ『深淵城』へと到達した。  城門をくぐり、玉座の間へと続く長い回廊を進む。そこから放たれる瘴気は、これまでの剣、盾、籠手、具足を遥かに凌駕し、空間そのものが黒いヘドロのようにドロドロと脈打っていた。

『――よくぞここまで来た、異界の勇者とその手下どもよ』

玉座の間の大扉が開くと、そこに立っていたのは、これまでの魔将軍たちを遥かに凌ぐ巨躯を持った、魔王軍の最高幹部――『大魔将軍・ベルゼブブ』であった。

大魔将軍の全身から放たれる、物理法則をねじ曲げるほどの超・重力波。  一歩足を踏み入れただけで、普通の人間なら内臓ごとペシャンコに押し潰されるほどの絶対的な重圧。

「う、うわあああっ! 重い! 潰される! 助けてぇぇぇ!」

ビビろうが、極限の恐怖のあまり、くるりと背を向けて逃げ出そうとした。  だが、逃げ場のない玉座の間。大魔将軍がニヤリと嗤い、巨大な両腕を振り上げて、ビビろうに向けて超・重力球を放った。

『死ね、狂戦士よ! 我が重力に押し潰されるがいい!』

「来るなぁぁぁ! 近寄るなぁぁぁ!!」

ビビろうの脳内で、再び何かがプツンと切れた。  キョムの夢の中で見た、あの「アナザーワールドの無表情な男」の片鱗。ビビろうの魂の奥底、世界中のすべての臆病と恐怖が凝縮された『吐き出す出口ホワイトホール』が、無意識のうちに完全開放された。

ビビろうがミスリルの大楯を両手で掴み、大魔将軍に向けてヤケクソ気味に突き出したその瞬間。  大楯の表面から、空間を白く染め上げるほどの圧倒的な「斥力はんぱつエネルギー」が放射された。大魔将軍の超・重力球が、ビビろうの放つ白き斥力に触れた瞬間、ギチギチと音を立てて圧縮され――。

「……繋げ」

中衛に立つキョムが、静かに呟いた。  夢で見た、キョムの呑み込む虚無と、ビビろうの吐き出す虚無の「パイプライン」。キョムは自らのマジックバッグ(虚無)の入り口を、ビビろうの斥力の中心へと完全同期させた。

――【合体技:虚無反射ブラック・リフレクション】。

大魔将軍の放った超・重力エネルギーが、ビビろうの楯で完璧に弾き返され、さらにキョムの虚無を通過することで威力を何倍にも増幅され、大魔将軍本人へと音もなく「倍返し」で撃ち放たれた。

『な、我が重力が……空間ごと、削り取られて……!? ぐ、あああああああっ!!』

物理法則を無視した静かなる消滅。大魔将軍ベルゼブブは、自らの放った重力の奔流に呑み込まれ、霧のように虚空へと消失した。


魔王の最後の武具の真実

静寂が戻った玉座の間。  大魔将軍が消え去り、その玉座の奥、一番厳重に封印された台座の上に、最後の武具が鎮座していた。

これまでの剣、盾、籠手、具足を揃え、ついに五つ目。古代魔王の真の力が解放される、最後のピース。  古文書によれば、そこには【古代魔王のヘルメット】が置かれているはずであった。

「……最後の一つだ。これで、日本に帰れる」

キョムが無表情のまま、台座へと歩み寄り、その封印を虚無で静かに呑み込んで解除した。  歩花も、おばあちゃんペガサスから降りて、緊張の面持ちでキョムの隣に立つ。三尾のコンタ、ニャメ、そしてビビろうも、息を呑んで台座を見つめた。

だが、封印の光が晴れた台座の上に置かれていたのは――。  禍々しい漆黒のヘルメットでも、金属の防具でもなかった。

それは、長方形の、薄い黒い板。  ガラスの画面が埋め込まれた、見覚えのありすぎる精密機械。

「……これ、スマホじゃん」

ビビろうが、ぽかんと口を開けて呟いた。  キョムもまた、無表情の仮面の下で、初めて目を点にしてフリーズしていた。

台座の上に静かに置かれていた古代魔王の最後の武具の正体。  それは、画面がバキバキに割れた、どこにでもある普通の**スマートフォン(格安SIM)**であった。

「えっ……? これが、魔王の兜、なんですか……?」

歩花が、困惑したように小首を傾げる。  キョムがおそるおそる、そのスマホ(魔王の兜)に手を伸ばし、電源ボタンを押してみた。  すると、バキバキの画面がピカリと光り、起動画面が表示される。そこに映し出されたのは、異世界の禍々しい紋章などではなく、懐かしの充電マークと、見慣れたロック画面。

そして、画面の中央に、一通の通知が表示されていた。

【アプリ「古代魔王のポータル」:日本への帰還ゲートを開きますか? [はい] / [いいえ]】

「アプリ連動型かよ!!」

ビビろうの、この旅一番の、魂からのツッコミが、古代魔王の深淵城に虚しく響き渡った。

剣、盾、籠手、具足を揃え、最後に辿り着いた勇者の真実。それは、かつてこの異世界に転生(あるいは漂流)した、前世の誰か(古代魔王)が遺した、ただのスマホであったのだ。

キョムは無表情のまま、バキバキのスマホの画面を見つめ、静かに呟いた。

「……決定だ。日本に帰ったら、通信プランの見直しをする」

「そこはどうでもいいから! 早く押して! 日本に帰らせてぇぇぇ!!」

異世界の果てで、スマホを片手に立ち尽くす何もない男と、愉快な仲間たち。  前世の未練と、異世界の不条理が煮詰まった大冒険の結末は、まさかの「文明の利器」によって、新たな局面(帰還)を迎えようとしていた。


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