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第二十四章:吹雪の永久氷土と、狂戦士の指名手配

灼熱の火山から、崩落の土煙を背に命からがら脱出したキョムの一行。  彼らは火山の麓にある、白銀の雪山へと続く中継都市の宿場町へとたどり着いていた。火山を無事に踏破し、古代魔王の真鎧の籠手を回収したことで、キョムの虚無のインベントリには「剣」「盾」「籠手」の三つの武具が揃っている。

宿の食堂。温かい暖炉の火を囲みながら、歩花が旅の疲れを癒やすために、厨房を借りて大鍋いっぱいの「豚汁」を作っていた。  この世界の根菜と豚肉に、キョムのマジックバッグ(虚無)から取り出した、日本の合わせ味噌。香ばしいごま油の香りと、根菜の甘みが溶け出した温かい出汁の匂いが、食堂いっぱいに広がる。

「お待たせしました! 具だくさんの特製豚汁です。ビビろうさん、おにぎりも追加でどうぞ!」

「うおおおっ! 豚汁だぁ! この豚肉の脂と、大根の染みた味が五臓六腑に染み渡る……! 歩花ちゃん、マジで女神! 聖女ってか大聖母だよ!」

ビビろうが涙を流しながら、熱々の豚汁をハフハフと頬張る。  キョムも無表情のまま、木彫りの器に盛られた豚汁をごくりと飲み下した。孤独だった会社員時代、コンビニの弁当ばかりを食べていた自分にとって、歩花の作る手料理は何よりも贅沢で、心が静かに凪いでいく。

(ふむ、豚肉の旨味が素晴らしいな。吾輩の三本の尻尾も、この温かさに癒やされるというものだ)

コンタが、三本に増えた黄金の尻尾を揺らしながら、自分用に用意された小皿の肉をつまむ。ニャメも、キョムの膝の上で丸くなりながら、静かに喉を鳴らして肉を咀嚼していた。

平和で、どこかスローライフを思わせる温かい夕食の風景。  だが、その平穏を打ち破ったのは、宿の掲示板に新しく貼り出された「一枚の羊皮紙」であった。

「……おい、ビビろう。あれを見ろ」

キョムが、無表情のまま掲示板を指さした。  ビビろうが、豚汁の器を持ったまま怪訝そうに掲示板へと歩み寄り、そこに貼られた自分の「指名手配書」を凝視した。

そこには、ミスリルの大楯を背負い、目を血走らせて狂ったように泣き叫ぶ、まるで悪鬼羅刹のような男の似顔絵が描かれていた。

――【最凶の狂戦士:ビビろう】  ――【罪状:魔王軍の将軍二名を、泣きながら盾でボコボコに撲殺】  ――【懸賞金:金貨五千枚(生け捕りの必要なし。見つけ次第、全力で討伐せよ)】

「……金貨五千枚に、上がってるな」

「なんでだよぉぉぉ!!」

ビビろうの絶叫が、宿の食堂に木霊した。

「なんで上がってんの!? 俺、火山のワイバーン戦の時、ただ大楯背負って逃げ回ってただけじゃん! 将軍なんて一人も撲殺してないよ! なんで俺の首の価値が、金貨五千枚に跳ね上がってんのさ! 怖ぇぇぇ! 世界中の賞金稼ぎや暗殺者に狙われるじゃん!」

ビビろうは、ガタガタと歯の根を鳴らしながら、自分の名前が魔王軍のブラックリストの頂点に躍り出たことに絶望した。

(クハハハ! 泣きながらの暴虐、再びだな! 吾輩の三尾の威厳すら霞むほどの、魔王軍最重要危険人物よ!)

「ニャァウ(笑える)」

三尾になった狐と白猫が、面白そうにビビろうをからかう。  歩花は、半ベソをかいているビビろうの肩をぽんぽんと叩き、苦笑いを浮かべた。

「だ、大丈夫ですよ、ビビろうさん! 私たちがついていますし、何より、ビビろうさんの背中にはミスリルの大楯がありますから!」

「その大楯のせいで、狂戦士って言われてるんだけどねぇぇ!!」

ビビろうの絶叫に包まれながら、夜は更けていく。


翌朝。  ビビろうの不満と恐怖を豚汁で強引に宥め、キョムの一行は次なる大陸、永久氷土の広がる極寒の雪山へと足を踏み入れていた。

見渡す限りの純白の世界。火山の灼熱とは真逆の、全てを凍りつかせる極寒の猛吹雪が吹き荒れる。普通の人間であれば、一歩歩くごとに体温を奪われ、数分で凍死するであろう死の氷土。

「さ、寒い……! 火山の次は雪山かよ! おにぎりも豚汁も、一瞬で凍るじゃん……!」

ビビろうが、ミスリルの大楯を背負いながら、ガタガタと全身を震わせて歩く。  そんな過酷な吹雪の中。最後尾から、神獣ペガサス(おばあちゃん)の翼が、聖なる温かい風をパーティーへと優しく送り届けた。

『ほらほら、寒いなら吾輩の風に当たりな! 凍えちまったら、魔王の武具も回収できないからねぇ!』

「おばあちゃん、ありがとう……! 私の桜色の光も、みんなを温める結界に変えますね!」

おばあちゃんの聖なる風と、歩花の桜色の浄化の結界が重なり合い、キョムたちの周囲だけが、まるで春のような温かい空気に包まれる。極寒の猛吹雪の中、彼らの周囲だけが、物理法則を無視したぽかぽかとした空間になっていた。

「……助かるな。歩花、おばあちゃん」

中衛のキョムが、静かに後ろを振り返って礼を言う。  おばあちゃんペガサスは、ふさふさとした白い尻尾をぶんぶんと振り、機嫌良さそうにいなないた。

『気にするんじゃないよ、キョム! 吾輩は馬だからねぇ、誰かを乗せて、みんなを引っ張るのが一番の喜びさ! さあ、この吹雪の向こう側、氷の迷宮へと一気に進むよ!』

おばあちゃんペガサスが誇らしげに翼を広げ、吹雪の雪山を優雅に飛翔する。  その温かい聖なる風に守られながら、キョムの一行は、四つ目の古代魔王の武具が眠る「永久氷土の迷宮」へと向けて、白銀の雪原を力強く突き進んでいくのであった。


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