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第二十三章:真鎧の重圧と、炎の魔将軍

三本の尻尾を誇らしげに揺らすコンタの金炎が、ワイバーンの群れを焼き尽くした。熱気渦巻く火口の最深部、煮えたぎる溶岩の滝の向こう側に、黒曜石で築かれた古代の神殿が姿を現す。

神殿の最奥。赤黒く脈打つ溶岩の光に照らされ、玉座の上に置かれていたのは、一対の禍々しい腕の防具――【古代魔王の真鎧・籠手ガントレット】であった。  女性魔導士が息を呑み、震える声で告げる。

「あれよ……! 五つある魔王の鎧パーツの中でも、魔王本人が愛用していたとされる心臓部の一つ。他の武具とは放つ瘴気の格が違うわ!」

その言葉通り、籠手が置かれた玉座の周囲は、空間そのものが熱と重圧でねじれ、黒い雷がパチパチと火花を散らしていた。これまでの魔剣や盾を遥かに凌駕する、絶対的な暴力の気配。

キョムがその籠手を回収すべく、無表情のまま、熱波をものともせずに一歩を踏み出した。その瞬間。

『――我が主の領域へ、土足で踏み入るか。小癪な羽虫どもめ』

溶岩の滝が割れ、巨大な炎の巨人が姿を現した。全身が白熱するマグマで構成された、魔王軍の幹部――『炎の魔将軍・スルト』である。彼こそが、この真なる鎧の一部を守護する、火山の絶対的な支配者であった。

『異界の勇者よ。貴様の虚無が、この煮えたぎる大地の怒りをどこまで呑み込めるか、試してくれよう!』

炎の魔将軍が咆哮し、周囲の溶岩の川が意志を持った大蛇のように鎌首をもたげ、キョムたちへと一斉に襲いかかった。

「うわああああっ! 焼き鳥になる! 溶岩の津波だぁぁぁ!」

ビビろうが絶叫し、反射的にくるりと背を向けて逃げ出した。  だが、その背負ったミスリルの大楯と、限界まで研ぎ澄まされた「臆病の結界」が、背後から迫る溶岩の津波を完璧にシャットアウト。高熱のマグマはビビろうの盾に触れた瞬間、ジュウと音を立てて冷え固まり、左右へと受け流されていく。

「熱い! でも無事! どけぇ、安全な岩場はこっちだぁぁぁ!」

ビビろうが無敵の甲羅を背負ったまま、最速の逃げ足で溶岩の飛沫を回避し、パーティーに安全な足場を示していく。

(ハハハ! ビビろうよ、よくぞ道を示した! 炎の魔将軍とやら、火山の熱を吸って三尾へと進化した吾輩の、真なる炎の味を教えてやるわ!)

三本の尻尾を扇のように広げたコンタが、前に躍り出た。  炎の将軍が放つ超高熱の火柱に対し、コンタは三尾の妖力を限界まで滾らせ、さらに白い金炎を放つ。炎と炎が正面から衝突し、大空洞が激しい熱波の爆風で揺れ動いた。

「ニャァウ!」

コンタが注意を引きつけている隙に、ニャメが白き閃光となって跳躍。熱に耐性を持つはずの炎の魔将軍の、魔力の核となっている黒曜石の心臓部へ、白き神獣の爪撃を正確無比に叩き込んだ。

『ぐ、ぅ……! 物理が効かぬ我が肉体に、魂ごと切り裂く一撃だと……!?』

魔将軍がたじろいだ瞬間、中衛に立つキョムが、静かに右腕を突き出した。

「……入れ」

キョムの虚無のブラックホールが、玉座の間に口を開ける。  炎の魔将軍が、己の魔力を維持するための周囲の熱エネルギーごと、音も立てずにキョムの虚無の底へと吸い込まれていく。どれだけ膨大な熱量であろうと、キョムの無限の虚無にとっては、ただの体積に過ぎない。

『ば、馬鹿な……! 我が身の熱、火山すべてのエネルギーを呑み込むというのか……! ぐ、ああああああっ!!』

断末魔と共に、炎の魔将軍の巨体が、キョムの影の底へと完全に消失した。

静寂が戻った玉座の間。キョムはそのまま玉座へと歩み寄り、世界を腐敗させる瘴気を放つ【古代魔王の真鎧・籠手】を、無造作に右手で掴み取った。  魔王の意志を宿す籠手が激しく黒い雷を放って抵抗するが、キョムの虚無は、その雷すらも音もなく呑み込んで鎮火させる。そのまま、影のマジックバッグ(虚無)へと放り込んだ。

「……三つ目だ。重いな」

キョムがぽつりと言い、歩花を振り返る。  ペガサス(おばあちゃん)の背中で、歩花がほっと胸を撫でおろした。

「キョムさん、良かったです! これで魔王の武具が三つ。……それに、コンタさんも、尻尾が三本になって、本当に頼もしくなりましたね!」

歩花が笑うと、コンタは嬉しそうに三本の尻尾をぶんぶんと振り、ニャメは「ふん」と鼻を鳴らしてキョムの首へと飛び乗った。

魔王の武具三つを手中に収めたキョムの一行。だが、炎の魔将軍を呑み込んだ代償か、火山の最奥の地脈が激しく乱れ、足元の岩盤がゴゴゴと音を立てて崩れ始めた。

「ほらぁぁぁ! やっぱり崩れるじゃん! 早く逃げよう、今すぐダッシュだぁぁぁ!」

ビビろうの情けない悲鳴が、崩落を始める火山の神殿に響き渡る。  魔王を倒し、自分たちの世界(日本)へと帰還するという希望を胸に、不条理で最強の勇者パーティーは、噴き出す溶岩を背に、火口の出口へと向けて全力の脱出劇を開始するのであった。


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