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第二十二章:灼熱の火山と、三本目の神獣

開拓村を後にしたキョムの一行は、南へとそびえ立つ活火山「ドラゴンスパイン」の麓へとたどり着いていた。  見上げる山肌からは黒煙が立ち上り、時折、大気を震わせる不気味な地鳴りと共に、火口から真っ赤な溶岩が吹き出している。一歩足を踏み入れるだけで、肌を刺すような熱気と硫黄の匂いが立ち込める死の世界。

そんな過酷な登山道を進みながら、キョムたちは村の古文書や、女性魔導士の知識から、古代魔王に関する驚愕の真実を共有していた。

「……古代魔王の【鎧】は、全部で五つ存在するのね」

女性魔導士が、汗を拭いながら羊皮紙の記録を読み上げる。 「魔王軍の五人の魔将軍がそれぞれ、魔王から分け与えられた鎧のパーツ(兜、籠手、具足など)を守護している。けれど……その五つの中で『一つだけ』、古代魔王本人がかつて戦場で愛用していた真の鎧、心臓部にあたる【魔王の真鎧】があるらしいわ。それを魔王が再び身につければ、彼の魔力は数百倍に跳ね上がる……!」

(お、おのれ……! 数百倍だと!? 今の時点でさえ、あの魔剣や盾の瘴気だけで、前世の吾輩(九尾)すら怯むほどだというのに! それが数百倍になれば、この世界どころか、あらゆる次元が消し飛びかねんぞ!)

コンタが、あまりのスケールの違いに、二本の尻尾をボウボウと震わせて子犬の鼻を鳴らした。

「……でも、キョムさん。悪い噂ばかりでもないみたいですよ」

神獣ペガサス(おばあちゃん)の背中で、歩花がふわりと桜色の浄化の結界を冷気として展開し、パーティーを熱気から守りながら言った。

「王都の図書館の古い文献に、気になる記述があったんです。古代魔王は『死者を完全蘇生』させる禁忌の術を知っている。そして……魂の時間を巻き戻し、生者を『前世の元の世界』へと送り返す力すら持っている、と」

「元の世界、か」

キョムが無表情のまま、ぽつりと呟いた。  東京の、あの狭苦しいアパート。孤独で、ただ消費されるだけだった会社員のスローライフ。決して良い思い出ばかりではないが、それでも自分たちが元いた、平和な日本。  もし魔王を倒し、あるいはその力を奪うことができれば、歩花を、ビビろうを、そしておばあちゃんを、元の世界へと「生きたまま」帰してやれるかもしれない。

「え、マジで!? 日本に帰れんの!? コンビニの唐揚げ棒とか、ネットサーフィンとか、またできんの!?」

背後にいたビビろうが、ミスリルの大楯をガタガタ鳴らしながら、目を血走らせて食いついてきた。

「よっしゃぁぁ! がぜんやる気出てきた! 帰る! 俺は絶対に日本に帰って、有給消化してやるんだからなぁぁ!!」

帰還という明確な「ご褒美」を前に、ビビろうの逃げ腰のテンションが、ヤケクソ気味な前向きさへと変換された。


火山の死闘と、三尾の覚醒

一行が火口の奥底、煮え滾る溶岩の川の流れる大空洞へとたどり着いたその時。  溶岩の中から、巨大な、炎の翼を持つ魔獣『プロミネンス・ワイバーン』の群れが、キョムたちを焼き尽くさんと急降下してきた。

「ギガァァァーッ!」

放たれるのは、鉄をも一瞬で蒸発させる超高熱の火炎放射。

「うわああああっ! 熱い! 溶岩が飛んでくる! 助けてぇぇぇ!」

ビビろうが、反射的にクルリと背を向けて逃げ出した。  だが、彼の背負うミスリルの大楯と「臆病の結界」が、背後からの超高熱のブレスを完璧にシャットアウト。火炎はミスリルの白い輝きに弾かれ、霧散していく。

「熱い! 怖い! でも無傷! 抜けるぞ、この安全ルートをぉぉぉ!」

ビビろうが、火炎を背中で弾きながら猛ダッシュで駆け抜ける。その逃げ足こそが、火山の落盤や溶岩の噴出を奇跡的な直感で回避する、最速の「安全ルートのナビゲーション」となった。

(ハハハ! ビビろうよ、よくぞ道を拓いた! あとはこの吾輩が、火を火でねじ伏せてくれるわ!)

コンタが、二本の尻尾を限界まで逆立て、大気中の魔素と、火山の圧倒的な熱エネルギーを、その小さな身体へとダイレクトに吸い込み始めた。  子犬の身体が、真っ赤に、黄金色に輝く。過剰な熱エネルギーの摂取。普通なら焼き切れるはずのその負荷を、コンタは「九尾の狐としての魂の器」で強引にねじ伏せた。

(おおお……! 滾る、滾るぞ! 吾輩の魂の炉が、ついに限界を突破した!)

ポンッ!!!

小気味いい破裂音と共に、コンタのお尻から、さらにもう一本、ふさふさとした黄金の尻尾が勢いよく生え出でた。

「……三本に、増えたな」

キョムが、淡々と呟く。  三尾へと格上げを果たしたコンタの身体から、かつての大妖怪としての、圧倒的な神獣の妖気が立ち上った。

(見たか、白猫め! これが真の神獣、三尾の吾輩の力よ! ――喰らうがいい!【三狐金炎烈波さんこきんえんれっぱ】!!)

轟音と共に、コンタの三本の尻尾から、ワイバーンの火炎をも遥かに凌駕する、白熱の金色の狐火が放射された。熱に耐性を持つはずの溶岩ワイバーンたちが、コンタの超高熱の狐火に包まれ、一瞬にして骨も残さず蒸発、焼き尽くされていく。

「ニャァウ!(調子に乗るな)」

左翼からは、負けじとニャメが、熱気の中でも一切速度を落とさない神速の跳躍で、生き残ったワイバーンたちの翼を次々と切り裂き、溶岩の川へと叩き落としていく。

キョムは、その凄まじい火力の応酬を、無表情のまま見つめていた。  彼は、蒸発したワイバーンたちの残した極上の「熱魔石」を、無言で自分の影のマジックバッグ(虚無)へと放り込んでいく。

「……三尾か。これで、マジックバッグの出し入れが、また少し軽くなるな」

キョムは、コンタの成長を、便利な機能拡張として静かに歓迎していた。

おばあちゃんペガサスの翼が起こす聖なる風に乗り、涼しい顔でワイバーンたちの最後を見届ける歩花。  そして、三尾になった喜びを噛みしめるコンタと、マイペースに爪を研ぐニャメ。

カオスで、不条理で、だが世界最強のチームワークを誇るキョムの一行。彼らの勇者としての旅路は、元の世界(日本)への帰還という新たなる希望を胸に、煮え滾る溶岩の最深部、三つ目の古代魔王の武具が眠る領域へと、さらに熱く、激しく進んでいくのであった。


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