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第二十章:崩壊する遺跡と、臆病のブチギレ一騎打ち 崩壊のカウントダウン

魔将軍・黒騎士グラシャ・ラボラスの赤い双眸が消滅し、その漆黒の鎧が物言わぬ武具へと還った瞬間。遺跡全体を支えていた魔力の均衡が、音を立てて崩れ去った。

ズウゥゥゥン……! カカカッ!

玉座の間の天井から、巨大な鍾乳石が牙のように次々と降り注ぐ。床が裂け、壁がひび割れ、古代の遺跡そのものが、侵入者を道連れにせんと牙を剥いた。

「うわああああっ! だから言ったじゃん! 倒したら崩れるお約束のトラップだよ! 死ぬ死ぬ死ぬ!」

ビビろうが頭を抱えて絶叫する。だが、その逃げ足こそが、一行の生命線となった。

「……マジックバッグ(虚無)に入るものは、俺が回収する。歩花、おばあちゃんに乗れ!」

キョムが叫び、崩れ落ちる玉座の巨石や、昏倒していた女性魔導士を、まとめて影の底へと放り込む。歩花がおばあちゃん(ペガサス)の背に飛び乗ると、おばあちゃんは大きく翼を広げた。

『全員、吾輩の足元に集まるんだよ! 吹き飛ばされないようにしな!』

おばあちゃんペガサスが銀色の光を纏って急上昇する。ニャメが神速の跳躍で天井の瓦礫を蹴散らし、コンタが狐火で退路を塞ぐ岩を爆破する。最前列では、ビビろうがミスリルの大楯を頭上に掲げ、文字通り「無敵の亀の甲羅」となって瓦礫を弾き飛ばしながら爆走した。

ドドドサァァァッ!!

間一髪。背後で遺跡が完全に土砂へと埋もれる中、キョムたちは荒野の砂塵へと転がり出た。全員が埃まみれになりながらも、なんとか無傷の脱出を果たした。


魔王軍に占拠された村

遺跡を後にした一行は、傷を癒やし、情報を集めるために最寄りの開拓村へと立ち寄った。しかし、そこに平穏な村の姿はなかった。  村の入り口には禍々しい魔王軍の旗が掲げられ、狂暴なオークや魔獣たちが、怯える村人たちを家畜のように支配していた。

「……ここも、魔王軍に占拠されているのか」

キョムが静かに虚無の目を細めた、その時。  村の中心から、先ほどの黒騎士を遥かに凌ぐ、重厚で巨大な「重圧」が立ち上った。

現れたのは、城門の如き巨大な黒鉄の盾を持った、もう一人の魔将軍――『盾の魔将軍・バステト』であった。彼が手にするのは、キョムたちが探していた古代魔王の武具の一つ、【古代魔王の盾】。

『フハハ……。グラシャ・ラボラスを討った異界の者どもか。我が盾の前に、その虚無がどこまで通用するか、試してくれよう!』

盾の魔将軍が、巨大な盾を地面へと叩きつけた。

『――【領域展開・黒鉄の絶対牢獄アイアン・プリズン】!』

空間が歪み、キョムたちの足元から黒い鉄壁が爆発的に競り上がった。それは、術者と「選ばれた一人」だけを完全に閉鎖空間へと隔離する、魔王直伝の絶対結界。

「え、え? ちょっと待って、なんで俺だけ!?」

キョムや歩花たちが結界の外へと弾き出される中、円形状に競り上がった黒鉄の壁の内側に、盾の魔将軍と、ミスリルの大楯を背負ったビビろうだけが取り残された。


ビビろう VS 盾の魔将軍

閉鎖されたドーム状の鉄鉄の空間。  目の前には、自分より二回りも巨大な、禍々しい瘴気を放つ魔将軍。

「う、嘘でしょ……キョムさん! 歩花ちゃん! 開けて! 出してぇぇぇ!」

ビビろうは涙目で鋼鉄の壁を叩くが、外側からの干渉も、内側からの脱出も不可能な絶対の領域。盾の魔将軍が、冷酷な赤い目を光らせて、巨大な盾を構えながらジリジリと間詰まづめをしてくる。

『小賢しい人間め。我が盾の領域に入ったからには、生きては出られぬ。その国宝の盾ごと、圧殺してくれるわ!』

魔将軍が、重戦車のような速度で突進してくる。  逃げ場のない空間。極限の恐怖。ビビろうの脳内で、何かが「プツン」と音を立てて切れた。  度を超した恐怖は、時に人間を、最悪のブチギレ状態へと変貌させる。

「――ああああああ、もうううううっ! しつけぇんだよおおお! 盾、盾、盾ってよぉ! 俺がどんだけビビってるか分かってんのか、コノ野郎がぁぁぁ!!」

ビビろうの目が血走り、髪を振り乱してキレ散らかした。  彼は背負っていたミスリルの大楯を、全力で、ヤケクソ気味に前方へとぶん投げた。

「どけぇ! 近寄るんじゃねぇ! 視界に入るな、汚らわしい! 怖いんだよぉぉぉっ!!」

ビビろうの放つ「絶対的な恐怖心」が、彼の固有能力である「何物も弾く結界」と完全同調。ミスリルの大楯に、次元の歪みすら引き起こすほどの超・反発魔力が上乗せされる。

ズドォォォォン!!!

魔将軍の【古代魔王の盾】と、ビビろうのヤケクソの【ミスリルの大楯】が正面衝突した。  本来なら魔将軍の一方的な圧殺となるはずが、ビビろうの「恐怖によるブチギレ魔力」が物理法則を完全にねじ伏せた。魔王の盾ごと、魔将軍の巨体が黒鉄の壁へと猛烈な勢いで吹き飛ばされ、背後の壁にめり込んだ。

『な、何事だ……! 我が絶対防御の盾が、力負けしただと……!?』

「うるせぇぇ! 喋るな! 骨が軋む音が怖いんだよ! そんでその赤い目! 夜夢に見るから光らせんじゃねぇぇ!!」

ビビろうは半ベソをかきながら、めり込んだ魔将軍に向けて、投げ飛ばした大楯を足で蹴り飛ばし、何度も何度も、ヤケクソでシールドバッシュを叩き込んだ。

ガァン! ドゴン! バキィッ!

「死ねぇ! 俺の安眠のために消えろぉぉぉっ!!」

恐怖のあまり完全にリミッターが外れたビビろうの、泣きながらの超火力連続シールドバッシュ。  防御特化であるはずの魔将軍は、まさか自分を上回る超・反発結界を持ったビビり男に、物理的にボコボコにされるとは夢にも思っておらず、防御の姿勢を取る間もなく、兜を、そして盾の接続部を破壊されていった。

『バ、馬鹿な……我が魔王の盾が……ぐ、ああああああっ!!』

最後は、ビビろうがミスリルの大楯を両手で持ち上げ、思いっきりのしかかるようにして魔将軍の胸部へと叩きつけた。  国宝の盾の衝撃と、ビビろうのブチギレ結界の圧力が魔将軍の魔力炉を粉砕し、盾の魔将軍は、光の粒子となって爆散した。


領域の解除と、燃え尽きた男

パァン……! とガラスが割れるような音と共に、黒鉄の絶対領域が解除された。

キョムたちが武器を構えて突入しようとした矢先、目の前に広がっていたのは――。  粉々に砕け散った魔将軍の残骸と、その中央で、ミスリルの大楯の上に突っ伏して、燃え尽きたように魂が抜けているビビろうの姿であった。彼の足元には、黒ずんだ【古代魔王の盾】が転がっている。

「……勝ったのか、ビビろう」

キョムが無表情のまま、ぽつりと言った。  ビビろうは、泥のようになった顔をゆっくりと上げ、涙目でキョムを見上げた。

「……キョムさん。俺、もう帰りたい。ガチで寿命縮んだから。今すぐ日本に、あのボロ稲荷神社に帰りたい……」

歩花が、駆け寄ってビビろうの頭にそっと手を置き、桜色の癒やしの光を注ぐ。 「ビビろうさん、凄いです! 一騎打ちで、魔将軍を倒しちゃうなんて!」

(フフフ……やるではないか、ビビろう。恐怖が高じて狂戦士バーサーカーになるとはな。吾輩も見直したぞ)

コンタが嬉しそうに尻尾を振り、ニャメも小さく「ニャゥ(やるな)」と喉を鳴らした。

キョムは、静かに地面に転がる『古代魔王の盾』を拾い上げると、無言で自分の影のマジックバッグ(虚無)へと放り込んだ。これで、魔王の武具は二つ目である。

「……良くやった、ビビろう。村を解放するぞ」

「だからぁ! 勝手に話進めないでよぉぉ!!」

ビビろうの絶叫が、魔王軍から解放された村の青空へと響き渡る。  世界一臆病な男が、涙と怒りの盾撃で魔将軍を葬り去った、不条理にして最強の戦闘記録。キョムの一行の旅は、ビビろうのメンタルをゴリゴリと削りながら、さらなるカオスへと突き進んでいく。


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