ストーリーゼロ2(触れ合う影)
前世のお隣さん、ビビろうと異世界でまさかの再会!彼の持つ「もう一つの虚無」とは……?
数日後、仕事から帰ると、彼女が部屋の前に立っていた。
「何となく、ここにいない間にあの子が来るかもしれない気がして……」
彼女は、父親の体調を案じ始めた頃から子猫が姿を見せなくなり、実家に帰る日もとうとう現れなかったと寂しそうに話した。彼女は近くの神社によくお参りしていたという。
「もし良ければ、部屋の中で待ちますか? 散らかっていますが」
男の一人暮らしの部屋に、彼女はいそいそと警戒心もなく入ってくれた。俺にとっては、それが堪らなく嬉しかった。 冷蔵庫にはビールと豆腐くらいしかなかった。それを見た彼女が笑った。
「おじゃまさせてもらったお礼に、作らせてください」
手際よく台所に立つ彼女。誰かが自分のために料理を作ってくれる時間が、こんなにも温かいものだとは。 出来上がったのは、見事な「揚げ出し豆腐」だった。たったこれだけの材料で、こんなに美味いものができるのか。コンビニ弁当を分け合いながら、彼女は楽しそうに笑い、ビールを注いでくれた。
彼女を駅まで送り、アパートに戻ると、久しぶりに子猫が鳴いていた。 彼女に連絡しようとして、指が止まった。後ろめたさはあったが、連絡をすれば彼女との接点が完全に終わってしまう気がしたのだ。俺は子猫を部屋に入れ、冷蔵庫に残っていた彼女の揚げ出し豆腐を食べさせた。
「ごめんな、お前も彼女に会いたいよな。でも、もうちょっとだけ待ってくれ」
それから、彼女からも子猫からも、音沙汰がないまま一ヶ月が過ぎた。 待ち侘びた俺のスマートフォンに、一通の通知が届いた。彼女からだった。父親が亡くなったという。 深い悲しみに沈む彼女に、俺は何と返していいか分からなかった。
そして、彼女の都合を理解しながらも、俺の心を再びあの怪物が襲った。
孤独。
前回の比ではない。息もできないほどの絶望感。俺は仕事を休み、部屋に引きこもった。季節は秋から冬へ移り、外はひどく冷え込み、雪が降り始めていた。 雪が嫌いになった。積もった雪は、世界のあらゆる音を消し去ってしまう。周囲に誰もいないという現実を、無音の刃で突きつけられているようだった。
そんな時、玄関の外から鳴き声がした。 子猫の声だ。俺をこの静寂から救い出してくれるような愛らしい声。俺は目に涙を溜め、歪な笑みを浮かべてドアを開けた。
しかし、そこに子猫の姿はなかった。 声は、非常階段の暗がりの方から聞こえた。手招きする招き猫のように。俺は部屋着にサンダルをつっかけたまま、雪の積もる外へと歩き出した。素足に雪が直に被り、肩に積もっていく。寒さなどどうでもいい。あの子猫を抱き上げたい。その温もりさえあれば、孤独から救われるのだから。
気づけば、俺は人気のない神社の境内に立っていた。 国道沿いのビルの狭間、奥まった場所にある古い稲荷神社。赤い鳥居が連なるその薄暗い奥に、子猫は鎮座するように俺を見つめていた。
寒い。やけに暗い。 意識が、闇の奥底へと吸い込まれていく。 視界が黒く染まる直前、俺の耳には、まだあの猫の鳴き声だけが響いていた。
キョムの「呑み込む虚無」と、ビビろうの「弾く(ビビり)虚無」。この凸凹コンビが、異世界で最強の盾と矛(?)になります!




