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第十六章:不本意な大盾と、不揃いの陣形

神聖王都が古代魔王の瘴気から解き放たれ、キョムが正式に「勇者」に任命されてから数日。王城の広間にて、旅立ちを控えたキョムの一行へ、国王から国宝の下賜かしが行われていた。

「ビビろう殿。貴殿の『あらゆる不浄を弾き、無害化する』という特異な能力、実に見事であった。我が王家に伝わる国宝、伝説の金属で鍛え上げられた【純銀ミスリルの大盾】を、貴殿に託したい」

国王の合図と共に、屈強な重装騎士が四人がかりで、白銀に輝く巨大な盾を恭しく運び込んできた。美しく磨き上げられたミスリルの大盾は、物理的な攻撃だけでなく、あらゆる魔法攻撃をも弾き返すという至高の防具である。

だが、それを受け取ったビビろうの顔は、ひどく引きっていた。

「え、ちょっと待って国王様。これ、俺にくれるの? ってことは、俺が……前衛に立てってこと?」

「当然だ。貴殿ほどの絶対的な防御力を持つ者は、我が国広しと言えども存在せぬ。勇者パーティーの不動のメインタンク、最前線の防壁として、これ以上の適任はおらぬ!」

「いやいやいや! おかしいでしょ! タンクって、一番強靭で、一番度胸のある奴がやる仕事じゃん! 何でパーティーの中で一番ビビりで、一番臆病な俺が、魔物の目の前に立たなきゃいけないのさ! ガチで無理だから! 怖いから!」

ビビろうは涙目で必死に抗議した。だが、キョムが無言のまま、ミスリルの大盾をビビろうの背中へと、無造作に、どさりと押し付けた。

「……決定だ。背負え、ビビろう」

「うわぁっ、重い! キョムさん、冷たいって! あーもう、分かったよ! 背負えばいいんでしょ、背負えば!」

ビビろうは泣き言を言いながら、自分の身長ほどもある巨大なミスリルの大盾を、不本意極まりない表情で、ずるずると背負い込んだ。彼にとって、盾は敵の攻撃を防ぐためのものではなく、敵に背を向けて逃げ出す際に、背後からの攻撃を防ぐための「安全の甲羅」に過ぎなかった。


王都の城門を出て、果てなき大平原へと旅立ったキョムたち。  歩きながら、彼らは自ずと、戦闘を想定した陣形を組み始めていた。

(クハハハ! 新たな世界、新たなる覇道よ! 吾輩の失われた妖力を完全回復させるため、道中の魔獣どもは、すべて吾輩が消し炭にしてくれるわ! キョムよ、この勇者パーティーのメインアタッカーは、この吾輩、二尾のコンタが直々に名乗りを上げてやる!)

コンタが、二本の尻尾から金色の狐火をボウボウと燃え上がらせ、鼻息を荒くして最前列へと躍り出た。魔素を吸い、魔獣を焼くことで、自らの格を三尾、四尾へと上げていく気満々である。

すると、そのコンタの宣言に、首のマフラーと化していたニャメが、青い目をスッと細めた。

「ナァオ」

(ふん、口だけの狐が。魔獣の討伐なら、とっくの昔に吾輩が森の主を仕留めて無双しておる。アタッカーの座も、露払いの斥候スカウトも、すべて吾輩が担ってやろう。お前はただ、キョムの足元でキャンキャンと吠えていればよい)

ニャメは、キョムの首からひらりと飛び降りると、白き神獣・猫又としての魔力をみなぎらせ、コンタと競り合うようにして、前方の左右へと展開した。

かくして、キョムの勇者パーティーの不揃いな陣形が、ここに完成した。

【最前列・中央タンク】:巨大なミスリルの大盾を背負い、半ベソをかきながら周囲をキョロキョロと警戒する、世界一臆病な男・ビビろう。

【最前列・左右(アタッカー&斥候)】:お互いに対抗心を剥き出しにし、金色の狐火をたぎらせるコンタと、光のような速度で周囲を索敵するニャメ。

【中衛(指揮官)】:すべてを無差別に呑み込む無限の虚無マジックバッグを纏い、無表情のまま、ブーツの音を響かせて歩く男・キョム。

そして。

【後衛(支援・回復)】:神獣ペガサスへと転生を果たした、おばあちゃんの背中に乗る、聖なる少女・歩花。

「お、おばあちゃん……。本当に、私が背中に乗っても大丈夫なの? 重くない? おばあちゃんは、家族なんだから、私、なんだか申し訳なくて……」

歩花は、ペガサスの白銀に輝く立派な背中にまたがりながら、申し訳なさそうに、おばあちゃんの首の毛並みを撫でていた。前世では、自分を誰よりも可愛がってくれたおばあちゃんである。家族を乗り物にするという行為に、優しい歩花はどうしても抵抗があった。

すると、神獣ペガサスは、パサリと大きな純白の翼を羽ばたかせ、機嫌良さそうに、ふさふさとした白い尻尾をぶんぶんと振った。

『なぁにを言っているんだい、歩花。誰かを背中に乗せた方が、気分が良いのさ。何せ、今の吾輩わしは、最高に立派な馬なんだからねぇ! 馬の本分を全うさせておくれよ!』

おばあちゃんの豪快な、悪戯っぽい笑い声が、脳内に響き渡る。おばあちゃんにとって、愛する孫を背に乗せて異世界の美しい大空の下を駆けることは、これ以上ない喜びであった。

「……うん。ありがとう、おばあちゃん!」

歩花が、おばあちゃんの温かい背中に身体を預け、桜色の浄化の光をふわりと周囲に展開する。

巨大なミスリルの大盾を「背負って」逃げ腰のビビろう。  お互いの足を引っ張り合いながら、無駄に高い妖力を散らすコンタとニャメ。  静かに、無表情のまま、大妖怪の兵士(影の妖怪たち)をストックして歩くキョム。  そして、神獣ペガサス(おばあちゃん)の背に揺られ、聖なる祈りを捧げる歩花。

前世の怪異譚(怪談)の因縁を煮詰めたような、そして異世界の不条理を詰め込んだような、あまりにも歪で、カオスで、そして、どこまでも静かで力強いキョムの一行。彼らの、世界の命運を握る『真なる魔王討伐の旅』の足取りは、笑いと、呆れと、確かな温もりに満ち溢れながら、果てなき水平線の向こう側へと、一歩一歩、刻まれていくのであった。


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