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美少女探偵 柚月莉々華  作者: ゆうすけ


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1/1

プラエキピターレ


「ゆうすけ君、結衣ちゃん知らない?」

「佐伯か?あっちのほうに行ったよ。屋上かな?」

「ありがとう」そう言って柚月莉々ゆずきりりかは屋上に向かって歩き出す。


生徒たちの騒がしい声が響く。ありふれた高校の休み時間の光景だ。


「佐伯がどうかしたのか?」俺はポケットに手を突っ込んで横にならんで歩く。

「次のテストの話をしようと思って」

2人とも賢いんだから、テストの心配なんてする必要ないだろうに。むしろテストの心配をしなければいけないのは俺だな…。


それにしても、と俺は端正に整った莉々華の顔を眺めた。

やはり大変な美少女だ。

こんな美少女がクラスで孤立気味とは不思議な話もあればあったものである。


嫌われているわけではない。しかし頭の回転が速く知識も豊富。そして際立った容姿。そのせいで相手が気後れしてしまうのだ。


逆に言えば俺が仲良くできているのは、ある種の鈍感さのせいだろう。俺は相手がどんな美人でも男前でも、頭脳明晰でも臆さず話せる。

そのせいかいつのまにか莉々華ともよく話すようになった。


俺と莉々華は学校の屋上に向けて階段を上っていた。歩くたびにキュキュっと上履きが音を立てる。


女の子の悲鳴が聞こえ、大きな音がした。誰かが倒れる音。


俺と莉々華が駆けつけると踊り場に女の子が尻餅をついて倒れていた。

「どうしたの?」莉々華が倒れて女の子に声をかける。隣のクラスの大貫綾子だ。

「佐伯さんが…、私を突き飛ばして、屋上に…」

「結衣ちゃん?」莉々華が珍しく大きな声を出す。


佐伯結衣。莉々華の探していた女の子だ。

莉々華と仲が良い唯一のクラスメートと言っていい。2人でよく小難しい話をしている。

宇宙の話、聖書の話、ラテン語の話、古代ギリシャの話、日本の古典の話。


友人が心配だったのだろう。莉々華は屋上を目指して走った。


屋上に出た。屋上には人の隠れられるような場所はない。佐伯結衣の姿はどこにもない。いない。

少し遅れて息を切らしながら大貫綾子もやってきた。


「何があった?」俺は尋ねた。

「屋上に行こうと思ったら、踊り場で佐伯さんに会ったの。佐伯さんテストの答案を持ってた」

テストの答案?次行われるテストの答案と言う意味だろうか?

「それで言い争いになって…。私が結構きつく問い詰めちゃって。そうしたら急に私を突き飛ばして屋上に…」


莉々華は屋上の手すりに近づき下を覗いた。

地面を指差す。

俺と大貫も近寄り下を覗く。


遥か下の地面、花壇の上に佐伯結衣が倒れていた。

周囲にはテストの答案と思われる用紙が散らばっていた。


携帯で救急車を呼んでから、大急ぎで下に駆け降りて様子を見に行った。


佐伯結衣はぐったりと倒れ身動きひとつしない。

死んで…? 


そう思った瞬間、佐伯結衣はうっすらと目を開けて口を震えさせながら


「…プラエキピターレ」


と言った。


そして意識を失った。


救急車が来て佐伯結衣を病院に連れて行った。

とりあえず命は無事でホッとした。

莉々華は散らばったテスト用紙を拾い集めていた。

「それ佐伯が盗んだってことなのかな?」

「うーん」莉々華は言葉を濁した。

仲が良かったので信じたくなかったのだろう。


自殺か事故か?どちらにせよ相当追い詰められてのことだろう。


救急隊だけじゃなく警察も来て話を聞かれた。

しばらくしてようやく解放された。

同じく話を聞かれていた莉々華も解放された。


「大丈夫か?」俺は莉々華を気遣って声をかけた。

「うん 大丈夫。結衣ちゃん無事だって。しばらく入院することになるけど…」

莉々華は周囲を見渡して尋ねた。

「大貫さんは?」

「ああ、佐伯が心配だから病院に見舞いに行くって言ってたよ。入院先を熱心に尋ねてた。いいやつだよな大貫」

「危ない」莉々華は声を上げた。

「私たちも病院に行こう‼︎」

そう言って駆け出した。訳がわからないまま俺も後を追った。


病院に着くと莉々華は佐伯結衣の同級生であることを告げ入院している部屋の番号を聞きました。

「ついさっきも同級生がお見舞いに来たわよ」

受付のナースは笑んで言った。


「急ごう」莉々華はかなり焦っているようだ。

足を速める。運動が大の苦手で体力もないのに…。


佐伯結衣の病室が見えてきた。個室ではなく相部屋だが今は1人だけだ。

体力のない莉々華は既に息を切らせている。


部屋に入るとベッドで眠る佐伯結衣のすぐそばに大貫綾子が立っていた。


振り上げたその手には…ナイフが握られてていた!

「やめろ‼︎」叫びながら俺は大貫に飛びかかった。

床に押し倒して手からナイフを奪おうとしたが

体を入れ替えられて俺が床に押し倒された。


大貫は俺の顔にナイフを振り下ろそうとする。

俺は両手で大貫の手首のあたりを抑え防ぐ。

それでも構わずナイフを俺の顔に突き立てようとする。すごい力だ。ナイフが俺の顔に迫る。


額に汗がにじみ、恐怖が体中に広がる。


やばい! そう思った瞬間、


ゴン‼︎


と、でかい音がして「ごめんなさい!」と莉々華が叫んだ。


バタリと床に大貫が倒れる。


部屋にあった消火器で莉々華が大貫を殴ったのだ。

大貫はピクリとも動かない。

「殺したのか?」俺は戸惑いながら尋ねた。

「そんなわけないでしょ」

莉々華は憮然とした表情で言った。


騒ぎ気付け病院の人間が大勢やってきてちょっとした騒動になった。理由を聞かれたがそもそも何が起こったのか俺にも理解できていない。


俺と莉々華はそれぞれ話を聞かれた。

しかし俺に聞かれても答えようがない。

ようやく解放されてから俺は莉々華に尋ねた。


「結局なにがあったんだ?なんで大貫は佐伯を襲った?」

「結衣ちゃんが屋上から落ちたのは事故でもなければ自殺でもない。突き落とされたんだよ」

「え、なんでそんなことわかるんだ?」

「結衣ちゃんがそう言ってたでしょ?プラエキピターレ」

「プラエキピターレ?」俺は間抜けな顔で繰り返した。

「ラテン語で『突き落とされる』という意味だよ」

「いや、直接言えって」

「犯人が目の前にいたから言えなかったんだよ」

「え!?誰だろう 俺?」

「違う 大貫さん」

「大貫?」俺は仰天して叫んだ。

「なんで大貫が?佐伯がテストの答案を盗んで屋上に逃げたんだろう?」

「だからそれが嘘なんだよ。答案を盗んだのは大貫さん。それを見つけて問い詰めたのが結衣ちゃん」

それぞれの立場は全く逆だったのだ。

「屋上で口論になって最終的に結衣ちゃんは転落した。事故かもしれないし、ひょっとしたら…」


俺の頭の中に情景が思い浮かぶ。

屋上で口論になり揉み合う2人。大貫から答案を佐伯が奪い取る。全力で突き飛ばし佐伯を屋上から突き落とす大貫…。


「慌てて屋上から逃げ出そうとしたけど、下から上がってきた私たちに気がついたんだよ」


下から上がってきた俺たちを避けられないと悟ると悲鳴をあげて転倒し、佐伯に突き飛ばされたと嘘をつき、佐伯が生きているとわかるとすかさず病院に行き、息の根を止めようとする。


確かに佐伯が「突き落とされた」と言えば、どんな行動に出るかわからない。俺たちを含め3人とも皆殺しにされたかもしれない。


だからこそ佐伯はラテン語で語ったのだ。

莉々華には伝わると信じて。

2人にはそれだけの信頼関係がある。正直少し嫉妬してしまった。

莉々華とそれだけの絆がある佐伯結衣に…。


「ちゃんと勉強したほうがいいのにな」

今回の事件を振り返って俺は言った。

「ゆうすけ君は大丈夫?」

莉々華は俺のテストの心配をする。

俺は聞こえないふりをした。 

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