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コトバあそび(童話パロディ系)  作者: ひまうさ
【未完】ラプンツェル・ラプソディー
8/17

ち) ちらちらと瞬くひかり

 幻想とか夢とかそういったものにウチはまったく興味が無いワケじゃない。

 妖精やら小人とやらを信じていた可愛い時期だってあったぐらいだ。

 でも、そんなものが世界のどこにもいないことぐらい、今のウチはちゃんとわかっている――はずだった。


 ある程度空腹も満たされ、広間の中を見回す余裕も出てきたウチはオレンジジュースっぽいものを口にしながら、ぼんやりと考えていた。

 帰りたいというより、逃げ出したい。

 ウチは生まれて初めて逃避したい気分てやつを味わっていた。


 広間を余裕をもって見ているはずなのに、どうしてか視界にきらきらと瞬く煌めきが見える。

 上から何かが降っているのかと思ったが、それらをよくよく見てみれば、どうも何かの形をしていて、それぞれ風の流れに関係なく漂っているのだ。

 明らかに、何かの生き物っぽい気がする。


「あー、なんかちらちらと星が見えるなぁ」


 そんなウチの思考を見通してのことか。

 ここまでウチを連れてきた男の手が背後から肩にさりげなく置かれる。


「逃げられませんよ」


 なんでだ、と本日何度目かわからないため息を吐き出す。

 なんでお父とお母を迎えにいくだけで、ウチがこんな目に遭うのか。

 自分の悲運を嘆くなんて馬鹿な真似をしたくなんてないけれど、心細さも相まってほろり涙がこぼれ落ちる。


 と、そこにちらちらとさっきから瞬いている光が寄ってきて、いよいよもってウチは逃げ出したくなった。

 だって、それは小さいけれど人の姿をしていて、身長はウチの親指の長さぐらい。

 背中にはその身長と同じぐらいはありそうだが、薄い蜘蛛の巣で編んだような四枚の羽がついている。


 いよいよ近くに寄ってきたそれを無視していると、それはパタパタと忙しなく羽を動かしながら本当に目前までやってきて、その小さな手を伸ばして、ウチのほっぺたに触れた。

 そう、触れたとわかった瞬間にそれはあっさりと墜落した。

 どうやら、涙の重さに耐えきれなかったらしい。

 テーブルにつぶれたように落ちたそれをじっと見つめていると、震えながら立ち上がった。

 意外に丈夫だ。


 それが何かウチに抗議の声を上げているが、何を言っているのかよくわからない。

 故に、人差し指で軽くつついてみる。


「~~~っ」


 あっさり倒れた。

 ウチの友人にこういうのが大好きなのが一人いる。

 彼女ならおそらく、これを思いっきり握りしめて、「カワイイ~っ!!」と力一杯叫ぶことだろう。

 ……絶対、死ぬな。


 彼女は普段から、カワイイものを見つけるとそれを掴んで揺さぶって、思いっきり叫ぶ趣味があるんだ。

 趣味じゃないかも知れないが、何度か被害者も見てるし、私も被害にあった。

 彼女とウィンドショッピングなんてした日には、なんど揺さぶられ、叫ばれるかわからない。


「ねー」


 これは何なのか聞いてみようと思った矢先、傍らで二度、手が叩かれた。

 それに合わせて広間の音楽が変わり、仮面を付けた招待客らしき者たちが壁際へ下がる。

 そうして、ウチの正面にできた大きな空間に、今度は色とりどりの華やかな衣装をまとった女たちが現れて踊り出す。

 いや、それは衣装といっていいのだろうか。

 薄布を何枚も重ね合わせ、羽根に包まれたような布に覆われているだけのものだ。

 そういうデザインがあったとしても、ウチは絶対に着たくはない。

 そういう意味では、今のこの大仰なドレスでもまだマシなのかなと思えてしまう辺り、少し毒されているのかもしれない。


 彼女たちのダンスはどこか人離れしていて、ちょっと珍しかった。

 まるで森の中で踊る木の葉や滝から流れ落ちるキラキラの水飛沫を見ているみたいで。

 なんというか、そう。

 メルヘンってのはこういうのをいうんだろう。

 そこまで考えて、頭を振る。

 ウチにしては珍しい思考になっている。

 こんなのに感化されるなんて、どうかしているとしか思えない。


「……ぃ……俺を無視してんじゃねぇぞっ!」


 耳元で叫ぶようなのに小さな声で囁かれて、慌てて顔を向ける。

 が、そこには何もいなくて、ただ肩から何かがテーブルに転がり落ちた。


 何かと思えば、さっきのちっこいのだ。

 どうやらさっきはあまりに声が小さすぎてわからなかっただけらしい。


「さっき」


 顔を低くして話しかけようとすると、それは両手で耳を押さえ出す。

 聞かないぞ、というよりもこれは煩い、かな。

 こちらが彼の声が小さすぎて聞こえないとすれば、彼からはウチの声が大きすぎるらしい。

 しかたないので、更にひそひそと声を潜めてみる。


「あなた、なんなの?」


 そうするとようやく通じたのか、何か返してくれるのだが、如何せん声は小さすぎて届かない。

 大仰に身振り手振りまで加えてくれているのだが、さっぱりわからない。


 かなり頑張って話してくれていたのだろうけれど、全身で大きく息をついている姿はどこか可愛らしくて、小さく笑う。

 と、その風でも吹き飛ばされそうになるので、さらに可笑しい。


「ふっ……くくくっ……」


 傍らに立つ者たちが怪訝そうに思っているかもしれないとは思いつつ、肩を震わせて笑っていると、また耳元で叫ぶようなのに小さな声が囁く。


「笑うなっ!」


 驚いて、また顔を向ける。

 あ、と思ったが今度は何も机に転がり落ちてこなかった。

 代わりに、耳元で呻くような声が聞こえる。


「……顔を、前に向けんか……っ」

「え、あ……うん?」

「うわぁっ、首をかしげるな!

 落ちる、落ちる~っ」


 ……面白いと思うのは絶対に当然だと思うのよ。


「うん」

「頷かんでいい!

 いいから、前を……」


 音のする方へ片手をやる。

 そうして、髪にひっついているそれを引っぺがして、目の前に持ってくる。

 叫び声見たいのが聞こえた気がするけど、まあいいだろう。


 ウチは目の前までそれを持ってきてから、もう一度マジマジと見つめてみた。

 まさに目の前、顔から十センチと離れていない距離だと声もまだわかる。

 耳元よりも幽か、だが。


「虫眼鏡が必要ね」

「お前、泣いてるから、ちっと慰めてやろうときてやったってのに、失礼だぞ」

「ユキナに上げたら喜ぶかなぁ~。

 でも、あの子、ちっちゃくても生き物はダメだった気がするなぁ」

「少しは人の話を」

「カワイイ物見ると握りしめて振りまわすからねぇ。

 あれはちょっと……」


 目の前のちっこいのの顔が青ざめる。


「……いいから、俺の話を聞け」


 このまま無視し続けて、ここまで私を連れてきた男と同類と思われるのもイヤなので、大人しく口を閉じる。


 その小さいのは、神妙な面持ちで言った。


「死にたくないのならば、今すぐここを出て行け」


 あまりにそれが真面目で、真剣で、神妙だったから、一瞬聞き違いかと思った。

 ここにいて、まともに立ち会えるようなのに出会った例しがない。


「……え?」

「姫なんぞ、今さら出てこられても迷惑なだけだ」


 真面目に聞く気になったってのに、こんなのだけだ。

 忠告なのか分からないけれど、どうやらウチはこれから大変な目に遭うらしい。

 この、ほんのちょっと手のひらで握っただけで潰れてしまいそうなものに言われても実感が湧かないが。


 ウチは別に、自分が姫だなんて思ってない。

 だけど、明らかに自分が拒絶されているとわかっていて落ち込まないほど図太い神経はしていない。


「な、泣くなっ、ていうか、俺を握りしめるな~っ」


 面倒なそれを手のひらから離すと、瞬きを残して消えてしまった。

 用は済んだからということだろうけど、否定されたままのウチはどうしたらいいの。


 両親のことだったら、何を言われてもウチは言い返せる。

 だって、自分が愛されてる自信も守られている自覚もある。

 それに、ウチはウチの両親をとても自慢に思ってる。

 だから、負ける気はない。


 だけど、ウチは自分のことになると、何て返せばいいのか分からない。

 だって、どうして自分がいるのかわからないのだ。

 両親はウチがいなくてもあのラブラブっぷりは変わらないだろう。

 いるから、可愛がってくれている。

 でも、いなくても変わらないのなら、ウチは一体なんなのか。

 何のために、いるのか。

 時々、どうしようもなく不安になる。


 そういう気持ちを突かれた気がした。

 あんなよくわからないものに。


 と、目の前にハンカチが差し出された。

 それを差し出したのはタキシードに身を包んではいるが、明らかに従業員とも招待客とも違う感じの男だ。

 だけど、やっぱり仮面を付けている。


「どうぞ、お使いください」


 さりげなさを装ってはいるが、片膝をついて差し出しているその様子は、シェークスピアとかの舞台上ならさりげないのかもしれないけど、今は全然さりげなくない。


「誰ですか」


 ここは一体どこなのか。

 自分は一体なんなのか。

 本気で、誰かに聞きたいと思った。

やっと、更新

でもまだまだ続くパーティーです

(2007/06/13 11:23:12)

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