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コトバあそび(童話パロディ系)  作者: ひまうさ
【未完】ラプンツェル・ラプソディー
1/17

い)異人館へようこそ

 初夏の風が吹く良く晴れた日に、ウチは一枚の紙を片手に道を急いでいた。


 ごく普通のジーンズにノースリーブを二枚重ね着し、その上から短めのカーディガンを羽織っているだけの格好は、走るに少しだけ肌寒く、止まると少しだけ暑い。

 もともと今日は出掛ける予定もなかったし、まさかこんな風にすぐに出なければならない事態になるなんて想像もしていなかったので、そんな中途半端な格好なのは仕方ないと思ってもらいたい。


「そのバス待ってーっ」


 今にも走りだそうなバスに手を振って、止まってもらい、乗り込む。

 息を切らしたうちが落ち着ける席は、随分とたくさん空いていた。


 さて、落ち着いたところでウチがこんなに急いでいる原因について、少し語ろう。


 ウチにはとても素敵な父と母がいる。

 ただし、母は別の場所で暮らしている。

 人はそれを別居だというが、そうじゃない。

 単に母は某大企業の社長で、職場が自宅からはとても遠いからだ。

 対する父はごく普通の公務員で、たまに頼まれると民芸品を作ったりしている。


 見た目、母はとても有能なキャリアウーマンというやつで、父はぼんやりとしたところのある凡庸なサラリーマンだ。

 周囲はとても合わないというが、月に一回だけ自宅に帰ってくる母は父に甘え放題で、年頃の娘のことなんて忘れているのではないかと思う。


 今日はその月に一回の母が帰ってくる日だ。

 帰ってくる時、父は空港まで母を迎えに行き、二人きりでたっぷりとデートしてから、夕方六時頃に帰宅する。

 それまでにウチは御馳走を用意し、二人を迎える準備をすることになっていたのだ。


 バスの席上でポケット内の感触を確かめ、取り出す。

 取り出したケータイ画面を開くと、そこには母とウチの笑っている写真がある。


 もちろん、自分のケータイじゃない。

 普段からぼーっとしている父だって、浮かれるときはある。

 母と逢う日だ。


 母と逢う日は朝四時に起きて家中を飾り付け、パーティー料理を自ら作り、それから私を起こしに来る。

 注意しておくが、普段の父は低血圧で、ウチがどんな方法を使っても起きない。

 母と逢う日、母といるときが特別なのだ。

 本人曰く、自分では意識している訳じゃないそうだが、それにしたって落差が大きすぎる。


 ケータイに母からのメールの着信が来て、慌てて音をオフにする。

 まったく、着信に「愛のあいさつ」を使うなんて恥ずかしい父だ。

 しかもこれ、ウチが以前つっかえながら弾いてやったピアノアレンジだし。

 妙に熱心に頼んだ理由はこれかっ。


 それもこれもウチと母を愛しているから当然、と真顔で言い切られては言葉を返す事なんて出来るはずもなく。


「次はー……」


 アナウンスの声に我に返る。

 もう降りる停車場に着くようだ。

 降車ボタンを押して、到着を待つ。


 降りてから、走りだす。

 行き先はーー洋風建築の大きな屋敷のような場所で、近所でも有名な異人館だ。

 なんでもそこが父の知り合いの家で、父はそこに寄ってから向かうという世にも珍しいことをしているからだ。

 母と逢う日は仕事を含めた全ての用事を断っている人が、だ。

 ある意味大事件である。


 ここまでしてウチが父にケータイを渡す意味はというと、母は飛行機が遅れて到着が明日になるというメールを入れたから。

 放っておけば、父は空港で夜を明かしかねない。


「長い塀だなぁ」


 息を継ぐために、立ち止まり、塀を見上げる。

 小さい頃なら登ってみたいと思ったかもしれないが、今はあの頃みたいに動けるかどうかも怪しい。

 運動神経は悪くないけど、取り立てて良いと言うこともない。


 見上げていると、自転車の近付いてくる音がする。

 よくある音だから取り立てて珍しいものでもないのだが、自分のすぐ後ろで止まったので振り返った。


「大沢?

 こんなところで何してんだ?」


 逆光でよく見えないが、短髪っぽい外見とジャージっぽい姿に見覚えがある。


「西田井君?」


 級友で隣の席の男子で、授業中はいっつも寝てる奴だ。

 普段から話すことなど無いが、運動部の彼のジャージ姿しか憶えていないというのも失礼な話だ。

 いや、この場合もちろんウチが失礼なんであって、西田井は全然失礼なわけでもなくて。


「おい」

「ナンデスカ?」

「何でカタコトだよ」


 光に慣れ、吹き出している彼の姿が漸く見えた。

 つられて私も笑う。


「あ、ねえ。

 この塀ってどこまで続いてるか知ってる?

 門までの近道ない?」


 笑いながら問うと、彼は笑うのを止めて真顔になった。


「ここに用事か?」


 差しているのは当然塀の中で。


「うん」


 全力で頷いた私の前で、彼は自転車の向きを変えた。


「乗れよ。

 送ってやる」

「は?

 いいよ」

「ここから正門まであと二十分はかかるぞ」

「ええ!?」


 ニヤリと笑われ、たったそれだけで遠慮が吹き飛んだ。

 普段からウチの沸点は母と同じで物凄く低いが、このときはどうしてあんなに嫌だったんだっけ。

 よく知らない奴に笑われたからかといわれると、よくわからないとしか言えない。


「あーそう。

 教えてくれて有難うゴザイマシター」


 丁寧にお辞儀をして歩きだす。

 後からは自転車を押してついてくる気配があるので、足を早める。


「ここにどんな用事なんだ?」


 更に早める。

 急いでいるんだから、素直に送ってもらうのが賢いとはわかっているのだけど。

 意地っ張りなウチは後ろからついてくる足音に心配を感じ取って嬉しいのに、尚も足を早めた。


 隣の席の人って、なんとなく気になっていたんだ。

 いっつも寝てるし、起きてるときはどんなことしてるのかなって思っていたら、帰りがけに思いがけず声が聞こえて、振り返ったら、丁度ラケットを振り下ろしたところだった。

 汗が陽光にキラキラ輝いて眩しくて、細めた目線の先で、無邪気に笑っている姿がとても羨ましかったのを覚えてる。


 好きか嫌いかと言えば嫌いじゃない程度で、目標があるっていうのがとても羨ましかった。

 ウチにはまだ何にもなかったから。

 父も母もゆっくり考えればいいっていうけど、ウチはもう高校2年生だ。

 いい加減やりたいことってやつを見つけなきゃいけない。


「おい、大沢……わっ」


 大きな音がして、ウチは彼の自転車が倒れた事を知る。

 気持ちは嬉しいけど、彼はおそらく練習に向かう途中だろう。

 ウチを送っている場合じゃないはずだ。

 しかも断られた上に怪我をしたとあっては。


「二十分ぐらい歩けるよ。

 それより、西田井君は部活に急いでたんじゃないの?」


 振り返ると彼は苦笑いして尻餅をついていて、そのジャージ姿の上にちょこんと一匹の猫が座っている。

 毛色は漆黒、瞳は焦げ茶、


「え、あら猫?」

「あぁなんか急に飛びかかってきてよ。

 う、うわ」


 自分の上に猫が乗っているというのに、彼はさわりもせずに固まっている。

 どうやら苦手らしい。

 なんだかその狼狽えた様子が姿に似合わず可愛らしくみえて、思わずくすりと笑ってしまった。


「なんだよ」

「べっつに~?」


 何食わぬ顔で彼の上から猫を抱き上げ、腕の中に抱き込む。

 そうすると彼は安心したような情けない顔で笑って、立ち上がり、猫はウチの腕の中で気持ちよさ気にゴロゴロと喉を鳴らしている。

 間に彼は自転車を起こし、ウチを不思議そうに見る。


 そんなにウチが猫を抱いてる姿が珍しいとでも言うのか。


「悪ぃ」

「なにが?」


 苦笑いしながら見られているのが少し落ち着かないので、くるりと背を向けて再び歩きだした。

 ただし、今度はゆっくりと歩いているので、彼は自転車を押して隣を歩いてくる。

 部活は良いのか。


「大沢、猫好きなのか?」

「西田井君は苦手?」


 さらりと切り返すと、やっぱり苦笑い。

 つられてウチも苦笑い。


「好きなんだけど、あんまり触ったことなくてなぁ」

「じゃあ、抱いてみる」

「え、い、いや……いいよ」

「ふふふ」

「……遊んでるだろ、大沢」

「わかった?」


 二、三分歩いて、また立ち止まる。


「ウチは猫がいるし、もう自転車には乗れないよ?」


 にっこり笑って言ってやると、彼もすっかり忘れていたらしい笑いを零した。


「いや、大沢と猫のツーショットなんて珍しいから、つい見とれたよ」


 そんな場合か。


「で、部活」

「今日は自主練だから平気なんだよ。

 それより、異人館に知り合いでもいるのか?」

「うん、父の友達ん家なの」


 そこから別に話をふくらませる気もないし、彼も続けようがなくなり、しばらく無言で歩く。

 沈黙は意外にも重くなく、気まずいというわけでもなく。

 けっこう心地良い。


 て、急いでいるんだった。


「ネコ、そろそろお帰り」


 立ち止まって地面に降ろすと、それは一声鳴いてウチ達の前を走っていき、止まって待っている。


「……待ってるね」

「だな」

「……しかたない、か」

「え?」

「元々急いでたし、ネコと一緒に行くわ。

 じゃあね、西田井君」

「だから乗せてやるって」

「ここまで有難う。

 また月曜に学校でね!」


 今度は有無を言わせず走りだす。

 これ以上、彼やネコに構っている時間はない。

 急がないと、父が異人館を出てしまう。

 そうなるとどういう経路で待ち合わせ場所に向かうのかわからなくなってしまう。


 走り去ってしまったから、ウチはその後の彼の呟きは耳に入らなかった。


「……ヤベ。

 意外と可愛くねぇ……?」



* * *



 ウチが追いつくか付かないかのうちにネコも先に走りだす。

 逃げると言うより、案内するように。


「こ、こらー、先にいくなっ」


 しばらく走るなんてしてなかったから、息が上がるのも早い。

 いや、もともと得意でもなんでもないけどね。

 他のことよりかはたぶん得意ってことになることだから、動物に負けるというのはちょっといやだ。


 追いかけて、追いかけて、やっと追いついたと思ったらそこは大きな檻みたいな門の前。

 奥には日本かどうか疑いたくなるような英国式の明るい庭が広がっていて、ずっと向こうに学校ほどもありそうなお屋敷が見える。


 ここを歩いていたら、何日かかるだろう。

 自転車で送ってもらわなかったことを後悔しつつ、ウチは呼び鈴を思いっきり引っ張った。


 見た目に似合わず、近代的なインターフォンからカタコトの日本語が流れる。


「どちらサマですカー?」

「大沢ですー。

 父が伺っていると思うんですけどー」


 ここからあんなことが起こるって知ってたら、絶対入らなかったのになー。

「創り手さんにいろはのお題」theラプンツェル。第一話。

父を捜しに異人館に来てしまったヒロイン(大沢葉子)は、ここから冒険に出掛けます。

特別出演の西田井君はテニス部です。学校名考えてないけど、青○学○とかだったらドリームですよね。

西田井君のイメージは桃城とジローちゃんと大石を足して2で割った感じかな?つか、割れないって!←ツッコミ

書き上がりが夜中だし、明日の昼になっても飽きなかったら、更新しようかな…。

(06/02/03 01:16)


<次回予告>

成り行きで異人館に泊まることになってしまった大沢葉子。

縦に長いテーブルの端と端に座っているのによく通る管理人の声。

何故?どうして?真相は次回をお楽しみに!?

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