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カラーコート  作者: 真紗
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後悔×反省=応援

仕事が始まったので更新は少し控えめになります、って言おうと思ってたけど、リアクションまで貰えてしまってあわわとなったので夜勤の休憩時間をつかい慌てて投稿、こんな拙い文にありがとうございます。

~side健太~

まっすぐにコートへ向かう晴翔の後ろ姿を、俺は不安な気持ちで見送った。

(本当にあんなこと言って、送り出して良かったのか…?)

「晴翔、今のお前なら取れるんじゃないか?」

あの時、俺はそう言った。元気が良くて前向きな声掛けで盛り上げられるムードメーカーなんて言われれば聞こえはいい。でも、実際の俺は、聞こえのいい言葉で取り繕って、無責任に晴翔を送り出してしまったんじゃないか。そんな自問自答が頭の中をぐるぐる巡る。

琉惺の球は、さっきでも十分に速かった。それを「本気」で投げるなんて、どれだけ速くなるんだ。不安が急に込み上げてくる。

「晴翔が怪我をしたら…俺のせいだ…」

ポツリと、誰にも聞こえないような小さな声が漏れた。すると、隣にいた美桜が、俺の不安を打ち消すように強く言った。

「大丈夫。晴翔は絶対取れるよ」

晴翔の背中を見つめながら、美桜は続けた。

「あんなに嬉しそうな晴翔は初めて見たから、私は応援したい。それに…」

美桜はフッと笑って、俺の方を向いた。

「珍しいじゃない。意地悪だった頃の、ウジウジ健太になるなんて」

その言葉に、俺はハッとした。

それは、小学1年生の頃。

言葉を選ばず、人を傷つけてしまう自分の言葉に後悔するのを繰り返していた、俺の暗い過去だ。美桜に「勉強ばかりで何もできないからガリ勉ちゃん」なんて、今思い出しても顔が熱くなるようなひどいことを言った。もしあの頃に戻れるなら、自分の口を抑えつけて黙らせたい。当然、美桜は泣いてしまったが、言ってしまった手前、まだ幼かった俺は引っ込みがつかなくなってしまった。

そこに、晴翔がやってきたんだ。

晴翔は美桜の前に立ち、俺に向かってこう言った。「ガリ勉ちゃんなんて酷いこと言うな!!。美桜に謝れ!」あの時の晴翔は、いつもニコニコしているのに、ものすごく怖かった。俺は引っ込みがつかなくなってただけだから、しどろもどろになりながらも、なんとか美桜に「ごめんなさい」と謝ることができた。美桜も許してくれた。

これで終わりだと思った。だが、その後のことは、俺の予想を遥かに超えていた。

なんと、晴翔が「さっきは酷い言い方してごめんね」と、すぐに俺に謝ってきたのだ。

当時の俺には衝撃だった。だって、悪いのは俺だろ?訳が分からず戸惑っていると、晴翔は続けた。

「君は悪い言葉ってわからなかっただけだよね?」

俺はこの時、初めて自分のしでかしていることに気づき、顔が青くなった。もしかしたら、今までたくさんの人を傷つけてきたんじゃないか、と。

「どうしよう、俺…」

そう言ってうずくまってしまった俺に、晴翔は満面の笑みでこう言ったんだ。

「ウジウジしない!ウジウジしたら悪い方に物事考えちゃうから、そんな時はお好み焼きをおなかいっぱい食べるんだって、ばあちゃんが言ってた!」

そして、「だから、今日みんなでお好み焼きをおなかいっぱい食べよう!それでおしまい!」と。

あぁ、こいつみたいな奴のことを本当のムードメーカーって言うんだろうな。当時の俺にはまだ理解できなかったけど、そう感じたのを覚えている。

それから美桜にも改めてちゃんと謝って、俺たち3人で過ごす時間が増えていったんだった。あの時、みんなで約束したもんな。「ウジウジ禁止」って。

「そうだな!怪我の心配より、応援だよな!」


俺は不安を振り払い、再びコートへ向かう晴翔の背中へ大声で叫んだ。

「取れるぞ、晴翔ーっ!!」

俺の声は、体育館中に響き渡った。



~side晴翔~

コートへ向かう僕の背中に、健太の大きな声援が届く。

その声に、僕の心の中の不安はかき消されていく。

(大丈夫、僕は、、、取れる!)

僕は力強く地面を蹴り、琉惺君の目の前に到着する。

「改めて、よろしくお願いします」

僕がそう言うと、琉惺君は小さく頷いた。僕はキャッチする位置へと移動し、山本さんが僕に問いかける。

「晴翔君、準備はいいかい?」

「はい!」

僕が元気に返事をすると、山本さんは続けて丁寧に説明してくれた。

「今から琉惺がボールを両手で頭上に掲げる。そして私が笛を吹くから、それが開始の合図だよ」

僕はゴクリと唾を飲み込む。今日一番の緊張が、僕の全身を包み込んだ。琉惺君がボールを高く掲げた、その直後──運命の笛が、高らかに鳴り響いた。

琉惺君は、ぐんぐんと自陣のライン際まで走ってくる。さっきとは少し投げ方が違う。手首でボールをロックし、腕はまっすぐに伸びている。反対の手は、僕の方へと伸ばされていた。そして次の瞬間、琉惺君の背中が少し見えたかと思うと、軸足を中心に全身を回転させるように、ボールを投げ込んできた。その姿は、まるでサッカーのゴールキーパーが遠くにボールを投げる時によく似ていた。

想像よりも、ボールに回転は……ない。いや、むしろ回転がほぼ無いため、ボールは不規則に揺れている。

(とにかく、ボールの正面に!正面に!)

僕はそう思い、ボールの正面に入ろうとした。その瞬間、上履きがツルンと脱げてしまう。慌てて踏ん張ろうにも、靴下では滑ってしまい、うまく止まれない。ボールは少し、身体の左側へとずれていく。

僕は、ボールを下から包み込むように取った……かに見えた。しかし、わずかにずれたことで、ボールは腕を弾き、無情にもコートへとこぼれ落ちてしまった。

夜勤はブラックコーヒーが友達、エナジードリンクは最終兵器。異論は認める。

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