回想×本気=覚悟を決める
なんだかんだで見て下さってる方達がいらっしゃるようで。拙い文で、なおかつ読みにくい箇所等有るとは思いますが、読んでくださりありがとうございます。もっとちゃんと書けるように精進します。
「監督、本当に本気で投げればいいんですか?」
琉惺は戸惑いを隠せないまま、山本さんに再確認した。その視線の先には、先ほどまで自分の球をまともにキャッチできていなかった晴翔がいる。そんな晴翔も、山本さんの言葉に軽く頷きながら、こちらを見ていた。
山本さんはそんな二人の顔を見て、穏やかに告げる。
「全く問題ないよ。と言うより、そうしないとダメだ。琉惺、君のためでもある」
その言葉の意味がよく分からないと言いたげな表情を浮かべた琉惺だが、「わかりました」と小さく返事をすると、再びコートの中に入り、準備を始めた。
~side琉惺~
監督は一体何を考えてるんだ?
僕の球を一球も取れなかった奴に、さらに本気で投げろだって?
僕は、わずかに苛立ちを感じながらコートに戻り、準備を始めた。あの公園での話を聞いてから、ずっと頭の中でモヤモヤが晴れずにいた。
(なぁ、公園でたまにドッジボールですげぇ球投げる中学生たちがいるじゃん?)
(ああ、あのとんでもない球ね。いるな。それがどうした?)
(それがよ、この前、別のクラスの少し小柄でぽっちゃりしたやつ。あー、ほらいつも3人で仲良くしてる…)
(ああ、晴翔達だろそれ?んでぽっちゃりしてるのは晴翔だな、去年同じクラスだった。んで、晴翔がどうした?)
(そいつがさ、その中学生の球、取ったんだよ!!音が結構すごかった!)
(はぁ?あの晴翔が?あいつ、運動はからっきしだと思うが…)
たまたま耳に入った会話だった。
「その話、詳しく」
僕はたまらず会話に割り込んでいた。少し驚きつつも、クラスの友達は公園での話を僕にも聞かせてくれた。
(優悟さんの球を、抜け球とはいえキャッチした?あの優悟さんの球を…?)
驚きを隠せなかった。僕の知り合いである優悟さんは、この地域でも指折りの実力者だ。そんな彼の球を、運動が苦手だと言われているはずの晴翔君がキャッチした?俄かには信じがたい話だった。自分の目で確かめたい。そう思い、キャッチした人物が誰なのか詳しく聞いて、今日、体育館に誘った。
結果は一球も取れず。
「やっぱり偶然だったか」
僕は失望と苛立ちで、つい棘のある言葉を口にしてしまった。そんな僕の前に現れたのが山本監督だった。
サポーターもつけていない、公式ドッジボール未経験者にいきなりコースの厳しい球をキャッチさせようとした僕に、「感心しない」と軽く怒られてしまった。
熱くなると周りが見えなくなり、気を使うことができなくなるのは、僕の悪い癖だ。少し反省した。
その後、山本監督がいくつかのアドバイスを送り、サポーターをつけさせた晴翔は、見違えるようにボールをキャッチし始めた。特に、無理に取ろうとせず見送った3球目には感心した。それでも、僕が投げる本気の球を取れるはずがないと、まだ心のどこかでそう思っている。
だが、これは監督の指示だ。本気で行かせてもらうよ、晴翔君。
僕はそう思いながら、今一度靴紐を確認し直した。
~side晴翔~
琉惺君がコートに入っていくと、靴紐が緩んでいないか、今一度ぎゅっと締め直している。その真剣な横顔から、今度は本気で来るんだという気迫が伝わってくる。
先ほど、山本さんの優しい球は完璧にキャッチできた。でも、本当に琉惺君の全力の球が取れるだろうか?不安が僕の心を支配する。
その様子に気づいた山本さんが、僕にそっと声をかけてくれた。
「大丈夫、取れるよ」
その声は優しかったが、今までずっと運動が苦手で生きてきた僕にとって、「本気」という言葉は重くのしかかる。不安は拭えないまま、僕は俯いてしまった。
「止めておくかい?君に確認もせず、事を進めてしまっていたからね。済まない」
山本さんはそう言って、僕の気持ちを尊重してくれた。「どうする?」と続けるその声は、あくまで僕の意志を確かめるものだった。
やっぱり止めておこう。そう思い、山本さんと琉惺君に謝るために一歩踏み出そうとした、その時だった。
「晴翔、あと1回だけ頑張ってみたら?」
後ろから、美桜の声が聞こえてきた。
「晴翔、今のお前なら取れるんじゃないか?」
健太も続いて声をかけてくれる。二人とも「無理はしなくてもいいんだよ」という注釈はついていたけれど、僕が取れると信じて見てくれている。
そのまっすぐな瞳に、僕は勇気を振り絞った。
「大丈夫、やります」
僕はそう言って、山本さんにしっかりと答えた。そして、準備を終えてコートで待つ琉惺君の方へ、まっすぐ歩いていった。
お昼過ぎての更新3時のおやつを考えつつ、次の話も早めに出せるよう頑張ります。おやつはドーナツだな。異論は認める。