理想×現実=キャッチ
今日は実際に赤いチームの試合に行ってたので出せるか不安でしたが、練習は量と質だと昔聞いた事が有るから、何とか作って投稿。
~side健太~
「なぁ、美桜、晴翔はさ、何故お好み焼き関連の話になるとこんなにも積極的になるんだ?」
昼休み、窓から差し込む陽の光の中、美桜と呆れ顔で晴翔の話を聞いていた。熱弁している本人は気づいていないだろうが、聞いているこっちはソースの細かい味の違いなんかわかるはずが無い。
そんな時、ガラリと教室のドアが開いて、スラリとした体格で、顔もシュッとしていて、誰が見ても運動神経が良さそうなやつが教室に入ってきて晴翔を見つけると、こちらに歩いてきた。
「おいおい、なんで琉惺がここにくるんだ?…」
そう呟く俺の隣で、美桜もキョトンとした顔をしている。琉惺は学校ではちょっとした有名人だ、確かサッカー部に所属していて、エースストライカーだと聞いたことがある。
そんなやつが、よりによってなんで晴翔に?
そう思っていたら、琉惺は「君が、ユーゴさんのボールを取った子?」と晴翔に尋ねた。ああ、なるほど。あの公園での一件か。琉惺がユーゴさんという人と知り合いだから、ということで納得した。
晴翔に放課後体育館に来て欲しいと言う琉惺に、こちらを見る晴翔に、俺と美桜は面白がって頷いた。
(しかし、何で体育館なんだ?)
琉惺の言葉に、俺は少し違和感を覚えた。
仮にもしサッカーに誘うなら、グラウンドじゃないのか?キーパーにでも誘うつもりなんじゃ無いのか?そんなことを考えているうちに、琉惺は颯爽と教室を出て行った。
放課後、体育館へ行くと、琉惺が一人でボールをネットに向かって投げていた。その球の速さと鋭さに、思わず息をのむ。
そして晴翔に自分のボールを取って見て欲しいと言う。
あんな球、本当に晴翔が取れるのか…?
不安は的中した。
「いくよ!」
琉惺の投げた球は、速いだけでなく、低くて取りにくいコースへ正確に飛んでいく。晴翔は確かに反応はしている。
手を出して、ボールに触ることはできている。
だけど、キャッチはできない。ボールは何度も晴翔の手からこぼれ落ちて、床を転がっていく。
「…もういいよ。悪かったね」
不機嫌そうな琉惺の声が体育館に響く。悔しそうな晴翔の姿に、俺は隣にいる美桜に小声で尋ねた。
「なぁ、美桜。もしお前が今、さっきの琉惺の球をキャッチしろって言われたら、取れそうか?」
美桜は真っ直ぐに晴翔を見つめたまま、小さく首を横に振った。
「無理。そもそも、あんな速いボール、反応することも出来ないと思う」
だけど、目の前の晴翔は確実に反応している。何球かは、もう少しでキャッチできたんじゃないかと思えるほど惜しいものもあった。
(ハルトには、あの球が見えているのか…?)
俺の中にそんな疑問が生まれた、その時だった。琉惺の「やっぱり偶然だったか…」という呟きと、悔しそうな顔で俯いた晴翔の姿が目に入った時、体育館の入口付近から穏やかな声が聞こえて来た。
~side晴翔~
「しっかり腰を落として低く構えないと、触ることは出来ても弾かれてしまうよ。」
穏やかな、それでいて芯のある声が、体育館に響いた。
その声の主は、一目でわかるほど鍛え抜かれた、大きな体躯をしていた。しかし、その威圧的な見た目とは裏腹に、声はとても落ち着いていて、柔らかな響きを持っている。
「山本選手?」
僕は思わず声に出してしまった。
だってそうだろう。小さい頃、退屈な入院生活で偶然テレビで見た一本の線を引いたような速い球を投げるその姿。
幼い自分の記憶に、鮮烈に残った記憶だった。
元気になり病院にあまりお世話にならなくなった頃、山本選手の投げる試合を観に行くんだ、と思った頃にはもう引退していてショックを受けた苦い思い出がある。
その後動画サイトなどで何度も見た、「投手の完成形」とまで評されたその投球は、今のプロ野球投手と比べても見劣りしない、素晴らしいものだった。
そんな人が、突然目の前に現れたのだ。
僕は完全に固まってしまい、その場から一歩も動けなくなってしまった。
僕が固まっているのを気にすることなく、山本さんは琉惺の方へ向き直る。
「感心しないな、取り方も知らない子にあんな球を投げるなんて。」
山本さんの声は、先程の穏やかさとは少し違い、静かに琉惺をたしなめているようだった。琉惺は素直に「すみません」と謝る。
「でも」と続けて、晴翔がユーゴさんの球をキャッチできたことを伝え、「本当に偶然だったのか確認したかったんです」と言った。
「優悟の球を?」
その一言を聞いて、山本さんは少しだけ驚いた表情を見せた。
だが、すぐに表情は戻り、琉惺にピシャリと言う。
「君はここでドッジボールの技術を磨いている。彼はそうなのかい?それに彼はサポーターも着けていないじゃないか」
流石にこれ以上は何も言えないのだろう。琉惺は「スイマセン」と小さく謝り、俯いた。
そして、山本さんは再び僕の方に向き直ると、穏やかな表情でゆっくりと口を開いた。
「突然出できてすまなかったね、改めて、自己紹介させてもらおうか。」
そう言って僕達の方にゆっくりと近づいて来た。
さぁ明日からも出せるか不安だけど頑張って続けてみますかね〜、球場飯は美味い、しかし高い。異論は認めない。