生姜焼き×今日の出来事=悔しさの先にあるもの
何とか仕上がりましたが、、、忙しいので誤字脱字あるかもしれません。ご容赦ください。
「ただいまー……」
晴翔は玄関の扉をそっと開けた。家中に漂う、香ばしい匂い、これは、、、生姜焼きだな、しかも生姜マシマシだ、いつもなら真っ先に食卓へ確認へ向かうところだが、今日はその足取りがひどく重い。
「晴翔!」
案の定、キッチンからお母さんの声が飛んできた。声色には怒りがにじみ出ている。晴翔は肩をすくめ、小さく「はい」と返事をした。
食卓には、湯気を立てた豚の生姜焼き。しかし、お母さんの表情は険しく、箸をつける雰囲気ではない。
「何時だと思ってるの!ランドセルも玄関に放りっぱなしで、どこをほっつき歩いてたの!」
お母さんは腰に手を当て、晴翔を叱った。晴翔は下を向いたまま、何も言えない。
「ご、ごめんなさい……」
「美桜ちゃんのお母さんも、健太君のお母さんも2人を探してたわよ。夕方には帰るって言ってたじゃない!」
美桜と健太にも迷惑をかけてしまったことを知り、晴翔はさらに落ち込んだ。
「あのね、晴翔。みんなで思っいきり遊ぶのはいい。でも、心配をかけるようなことはしちゃダメよ。今日だって、あんたが早く帰ってこないから、この大好きな生姜焼きが冷めてしまうって心配で……」
そこまで言って、お母さんはふう、と大きなため息をついた。そして、晴翔の顔を覗き込み、少しだけ優しい声で続ける。
「お母さん、あんたが病気で病院にいた頃のこと、今でも忘れられないんだからね。だから、何かあったんじゃないかって、気が気じゃなくて……」
晴翔は、お母さんの言葉にハッとした。自分がただ単に熱中していただけなのに、お母さんは昔の辛い記憶と重ねて心配していたのだ。晴翔は、何も言い返せない。
「ごめんね、お母さん……」
晴翔は素直に謝った。お母さんはそんな晴翔の頭を優しく撫でた。
「いいのよ。でも、次はちゃんと言うのよ。約束ね」
「うん!」
ようやく許してもらえた晴翔は、食卓の生姜焼きに目をやった。もうすっかり冷めてしまっている。
「あっ……!」
「先にお風呂に入って来なさい、その間に温めるから」
晴翔は急いで風呂に入った。今日のドッジボールの熱気がまだ身体に残っているようだ。湯船に浸かると、身体の芯まで冷え切っていたことに気づく。
「気持ちいい……」
湯気の中に、今日の出来事がぼんやりと浮かび上がってくる。琉惺が投げたボールの速さ。山本監督の鋭い眼差し。そして、そのボールをキャッチしようと無我夢中になっていた自分自身。
お風呂から上がると、お母さんが、冷めてしまった生姜焼きを温め直してくれていた。
晴翔は、温め直された生姜焼きを一口食べ、目を閉じ、感謝の気持ちを噛みしめるのだった。
温め直された生姜焼きを平らげた後、なんとか宿題を終わらせて、晴翔は自分のベッドに横になった。枕に頭を沈めると、今日の記憶が鮮明によみがえる。
(取れたと、思ったんだけどな……)
初めてだった、普段の公園遊びとは全く違う、競技としてのドッジボール。あのスピード、あの衝撃。そして、琉惺の球は、まるで生きているかのように見えた。
(でも……)
悔しさと同じくらい、胸の奥で何かがくすぶっている。それは、絶対に取れないと分かっていても、全身が自然と反応してボールに食らいついていく感覚。
(僕も練習すればもっと取れるようになるのかな?)
ぼんやりとそんな事を考える、晴翔は少し昔の事を思い出していた。病室である動画をきっかけに毎日のように同じ動画を繰り返し見ていた自分を。そして、今日、初めてスポーツを「もっと上手くなりたい」と強く願った自分。
「競技としてのドッジボールか……」
今日一日で、自分の中の何かが大きく変わったようなそんな気がした。明日から、またいつもの日常に戻るのだろうか。今はまだ解らないけど、多分、あの感覚を知ってしまったら、もう戻れない。あの体育館で、もう一度あのボールに向かいたい。
晴翔は、目を閉じた。今日見た光景、今日の身体に残る感覚を、忘れないようにと心に刻みつけるように。そして、明日への期待を胸に、静かに眠りについた。
豚のしょうが焼きには玉ねぎと蜂蜜が必須、異論は認めない。