勝負×監督=現実的な問題
夜勤前にもう1本投稿、続きは明日の体力次第で、、、
「すっかり遅くなっちゃったね〜」
体育館を飛び出すなり、美桜が楽しそうに言った。太陽はまだ空の高い場所にいるけれど、西に傾き始めている。
「まだ16時過ぎだし平気だろ、」
健太はそう言うが、早く帰らなければいけない焦りは晴翔の心にも美桜の心にもあった。
「2人とも付き合わせてしまってごめんね」
晴翔が申し訳なさそうに謝ると、美桜と健太は顔を見合わせて笑った。
「大丈夫だよ。それに晴翔があんなに真剣な顔でボールを追ってるなんて、私初めて見たし」と美桜。
「ていうか、本当に大丈夫なのか?お前、あんなに運動神経悪かったのに、」
健太の言葉に、晴翔は少しだけしょんぼりした。
「でも、すごい球だったね。あの琉惺君って子、」
美桜が体育館での話題に変えると、健太もそれに乗っかった。
「しかし晴翔が食べ物の話以外であんなに興奮するなんて、あの山本さんって人はそんなに凄い人なのか?」
「私も気になってた。プロ野球選手だった人なの?」
「凄いなんてもんじゃ無いよ!」
晴翔が食を語る時と同じ、いやそれ以上の熱量で話し始めた。美桜と健太は「しまった」と顔を見合わせたが、時すでに遅し。
「良いかい?山本選手は1年目から先発ローテーションに定着して、外角いっぱいに投げる角度のある速球が…」
両親に何も言わずに遊びに来てしまった後悔と、早く帰らなきゃいけない焦りは、晴翔の頭から綺麗さっぱり消え去っていた。熱く語り始めた晴翔を見て、美桜と健太は悟った。この瞬間、自分たちも晴翔と一緒に親に怒られることが確定した、と。
~side山本~
練習前に今日のメニューでも考えようと、普段より少し早めに体育館に着いた私が見たのは、琉惺がネットに熱心にボールを投げるいつもの景色…とは少し違っていた。
同級生にしては少し小さい、少しぽっちゃりとした体型の子に、琉惺がある程度の速さの球を厳しいコースに投げ込んでいる。私は内心肝を冷やした。
(いじめか?サポーターもしていない、上履きしか履いていない子に、アイツは何をやってるんだ!!)
すぐに止めさせようと声をかけようとした時、その後ろで応援する同級生らしき2人を見つけた。
(何か理由があってのことか?)
私は少しだけ黙って見てみることにした。結果として、琉惺の球を一球も取ることのできなかった少年。しかし私は、取れなかったこと以上に彼のしていることに衝撃を覚えていた。
(待て。なぜ彼はあんなチグハグな動きで、琉惺の球に反応できる?)
実際やってみればわかるが、ある程度の距離を保ち、避けることだけに集中すれば、ドッジボールは比較的簡単に避けられる。しかし彼は避けるようなことはせず、ほとんど立ったような状態で、なおかつ自陣のコートの中央付近、つまり普通の選手たちがキャッチするよりも一歩ほどではあるが近い距離で琉惺の球に全て反応してみせたのだ。
(していることと言えば、お腹のあたりで取ろうとしていることだけ…)
つまり、彼はボールがはっきりと見えていて、琉惺が投げた球の正確な位置を把握していることになる。
(どんな空間把握能力と動体視力だ…小学生に可能なレベルなのかこれは?)
一瞬そう考えたが、ある一人の存在が頭をよぎった。
(そうだった…琉惺の世代には本物の怪物がいたな…)
そんなことを考えていると、琉惺がもういいと投げるのをやめるのを見計らって声をかけた。
その後、ややあって本気の琉惺の球をキャッチしようとしたが、靴が脱げてしまい取ることはできなかった。だが、彼はしっかりとキャッチの姿勢を取っていた。琉惺は非常に悔しそうにしていたが、彼ら──晴翔君たちが琉惺に非常に大切なことを教えてくれた。それは、かつて勝負の世界で生きた私では決して伝えられない“勝つことよりも大切なこと”。
琉惺は全体練習が始まるまでの少しの間ではあるが、俯いていた。思うことがあるのだろう。それだけでも今日は大収穫だ。
しかし…晴翔君、美桜さん、健太君か…。それぞれに素晴らしい才能と可能性を秘めた子たちだったな。ドッジボール部に、、、入ってくれないかなぁぁぁぁ…。
先ほどまでとは打って変わって、情けないほどため息が出そうになる。
ドッジボールという遊びはみんな知っているだろう。しかしこれが競技となると、途端に「???」となる。嘆いても仕方がないが、マイナースポーツである事実には変わりがないのだ。愛知など盛んな県もあるが、それなりの規模しかないのが広島の現状だ。部員集めは何もドッジボールだけの問題ではないが、監督を任された以上、しっかりと部員集めもしないとな…と思いながら、思考を止め、アップの終わった選手たちの本格的な練習を始めるのだった。
人口問題は何も競技だけでは無いと言うのが少し悲しい所では有りますが、変わらずメロンパンは美味いです。ごめんなさい真面目な話が出来ないたちでして、、、