結果×勝負=勝ち負けの先にある物
投稿すると、見て貰える方がいるのは非常に嬉しくも有り、恥ずかしくも有り、、、さぁ夜勤なのでねます。
ボールがコートに落ちたのを見て、僕はその場に座り込んでしまった。
「取れなかったか〜」
残念な気持ちはもちろんあったけれど、それ以上に何かスッキリとした、清々しいような不思議な気持ちだった。悔しさよりも、あの豪速球に立ち向かったことへの満足感が大きかったのかもしれない。
美桜と健太が僕に駆け寄ってきて、「大丈夫?」と声をかけてくれる。
僕は顔を上げて、笑って答えた。「大丈夫!応援してくれたのに、取れなかったよ」
すると、美桜は「でも、楽しかったでしょ?あと少しで取れそうだったよ!」と言ってくれた。
健太は「靴が脱げたから滑ったのもあるんじゃないか?」と言いながら、途中で拾ってきてくれた僕の上履きを渡してくれた。
「ありがとう!」
僕は上履きを履きながら、2人の優しさに胸が熱くなった。
~side琉惺~
俺が投げた本気のボール。無回転で不規則に変化する、俺の決め球。これを初めて見てキャッチできた同級生は、たった一人だけだ。
俺はアイツに勝つため、アイツの球を取れるようになるため、必死に練習している。
あの優悟さんのボールをキャッチできた同級生が居ると聞いて、どれほど自分の力が通用するか。そんなことを試すために、彼──晴翔君を利用しようとしていることを、監督は見抜いていたのだろう。
実際、最初は彼の力を試すような球を投げた。それで取れるようなら、無回転ボールを投げようと決めていた。だが、取れなかった彼に、俺は「期待外れだ」と決めつけて、帰ってもらおうとしてしまった。
それがどうだ。監督が投げたたった3球のボールで、彼は同一人物かと疑うほどキャッチの精度を上げて見せた。そして、無回転ボールに対しても……。
俺のボールは、通用……。いや、言い訳はよそう。上履きが脱げていなければ、完全にキャッチされていた。
認めよう。俺の負けだ。
結果的には勝ったはずなのに、ちっとも嬉しくない。こんな気持ちは、サッカーを辞める前の最後の試合以来だ。結局、あの頃からまだ俺は成長できていないんだなと思うと、少し心が痛かった。
~side晴翔~
上履きを履いて立ち上がると、琉惺君が目の前に来ていた。
「キャッチできなかったよ。すごい球だったね」
僕が素直に称賛すると、琉惺君は暗い顔でポツリとつぶやいた。
「上履きが脱げていなければ、確実に取られていた。僕の負けだ…」
僕はポカンとして、「えっと、いつから勝ち負けの話になったのかな?」と首を傾げた。琉惺君は「へ?」という顔で固まってしまう。クールなキャラに見えたけど、顔芸までできるのか。そう思っていたら、彼はすぐに元の表情に戻って、続きを話そうとする。
「いや、だって、取られたら負けで、当てたら勝ちで…あーもう!」
自分で言っていて分からなくなったのだろう。僕の後ろでは、美桜達が笑っている。
「琉惺君、君の球を晴翔がキャッチできるのか?できないのか?それだけで勝負なんて、山本さんも含めて誰も言っていないよ」
美桜がそう言うと、健太も続ける。
「琉惺、お前が言ったんだぞ。『キャッチしてみてくれないか?』って」
そう、一言も勝負なんて言っていないのだ。いつの間に勝負になったのか分からず、僕もびっくりしちゃったよ。
そんな僕たちに、横から山本さんが穏やかな声で言った。
「琉惺、わかってくれたかな?いつも言っているけど、勝ち負けだけが全てじゃないんだよ」
そして続けた。
「例の彼に追いつきたい、彼に勝ちたいという気持ちは大事だ。だけど、楽しさや嬉しさを忘れ、勝負にばかりこだわり続けた先にあるものを、君は知っているはずだ」
山本さんにそう言われ、琉惺君は下を向いて何も言えなくなってしまった。
山本さんは僕の方を見て、「体は大丈夫かい?どこか痛いとかもないかい?」と聞いてくれた。僕は「平気です」と答えると、山本さんは穏やかに笑って「良かった」と言った。
続けて、「もうすぐチームの練習が始まるけど、見学していくかい?」と聞かれた。
時刻は16時を少し過ぎたぐらいだ。まずい。早く帰らないと、両親に何も言ってない。
山本さんに「すいません、親に何も言っていないので、今日は失礼します」と伝えた。そして、美桜と健太に「ごめん!ずいぶん遅くなっちゃったね」と言い、急いで帰る支度を始めた。そそくさと体育館を後にした。
夜ご飯をカップ焼きそばにするかラーメンにするか、両方食べるかで悩んだら、両方食べればいいじゃない?の精神で寛大に生きていきましょう