【プロローグ:Nine Divines Quest】 ーその8ー
どこまでも青かった空に、早くも暗雲が立ち込めた。
目の前の小さな案内人は、出会ってから何度目になるかわからない涙目を湛えて、ただひたすらに謝っている。
「お前なあ……“旅路”云々言ってたくせに“ここ”を出る出口の場所がわからねえって……」
すみません、すみませんと何度も頭を下げるエステルを見て、俺は責める気力も無くなった。
「……まあ、とりあえず……歩くか」
曰く、出口の場所にさえ行けば、どうにかなるらしい。“出口”なぁと呟いた俺は、一緒に歩き出したエステルに、気になっていた事を聞くことにした。
「そもそも“ここ”はどういう場所なんだ?」
隣でベソベソしながら歩いていたエステルは、一度大きく鼻を啜って応えた。
「こ、“ここ”は“世界の果ての逆さ”……と呼ばれる場所です……」
「それはさっきも聞いたんだがよ……具体的に“どういう場所”なのか知りてんだ」
“世界の果て”なら意味はわかる。でも“逆さ”ってなんだ。“逆”ってことなんだろうが、“果ての逆”ってどういう意味だ。
歩きながら深く考え出した俺に向けて、エステルは恐る恐ると言った感じで、律儀に質問の答えを返してきた。
「く、詳しいことは私にもよくわからないのですが──」
エステルが反応を示したことで、俺は思案モードから傾聴モードに頭を切り替える。
「全てを“拒絶”し、全てを“受容”する場所──らしい、です……」
「……それだけか?」
聞いた覚えのあるフレーズが繰り返し出てきたことで、思わず素っ気ない返事をしてしまった。ハッとして見てみると、エステルは身を縮めて怯えている。
すみません、すみませんと再び謝り始めたエステルに、俺は“穏やか”に、宥めるように言葉をかけた。
「あ、いや、わからねえ事を責めてるわけじゃねえんだ。すまん」
俺の謝罪を聞いたエステルは潤んだ目をぱちくりさせた後、
「シロさんって、意外と優しいんですね」
と、小さく笑いながら言った。
そんな風に言われたのは、初めてだった。
跳ねっ返りだった俺に向けられる視線は、いつも“嫌悪”か“無関心”しか無かった。別にその事を不満に思っていたわけではないが、今“優しい”と言われて、なんだか少しだけむず痒かった。
無性に照れくさくなった俺は、何も言えなくなって少し歩くスピードを速めた。
背後から、ふふっという笑い声が聞こえた。