【第一章:絶体絶“命令”都市】 ーその9ー
シロはたっぷりと時間を使って、闘技場の中心にいる“絶対命令”の所まで行き、対峙した。
「よお──約束通り、“ブン殴り”にきたぜ──」
「ハッ──そう焦んなよ、クソガキィ!そんなんじゃァ、“オトモダチ”に嫌われちゃうぜェ?」
そう言った“絶対命令”は顔を歪めて笑った。
シロは小さな舌打ちと共に“絶対命令”を睨みつけた。
その視線を軽く受け流した“絶対命令”は、観客席の方に向き直り、マイクに向かって大声を叩き込んだ。
「さァァ!彼はこれからァ!三度の戦いに挑むゥ!その全てを見事ォ!勝ち抜けばァ……!」
そこで“絶対命令”は一度溜めを作り、
「晴れてェ、放免ン!更にィ、莫大な賞金をプレゼントだァ!」
と、身振り手振りで大仰に言い放った。その言葉はペンダントを伝わって、全観客の耳に届き、それを受けた観客たちのボルテージが上がっていく。
シロはその一連の様子を、冷たい目で見つめていた。
作られた熱狂の中心に立つ“絶対命令”に、シロは低い声で問いかけた。
「なあ──一つ、聞いていいか」
「なんだァい、シロくゥん……」
「“面白え”か、今の状況がよ……?」
その問いを受けた“絶対命令”は、少し考える“振り”をした後、ニタリと嗤って、
「“面白え”に決まってんじゃァん──?この後、お前が死ぬ時には、多分俺も一緒に“イッ”ちまうよォ──!」
だから心配すンなよ、とウィンクしながらシロに告げた。
「──そうかよ」
そう一言だけ、冷めた声で返したシロの目は“絶対命令”を睨み据え、爛々と滾っていた。
そんなシロの視線を、冷笑で受け流した“絶対命令”は、マイクに向かって言葉をぶつけて、“イベント”を進行し始めた。
「さァ!それでは早速ゥ!第一の対戦相手の入場だァ!」
その言葉と同時に、シロが入場してきた側とは真反対で、暗い口を開け放っている入場口を腕で指し示した。
「勇者たらんとする“挑戦者”を迎え撃つのはァ──自らを鍛え上げる旅を乗り越えたァ、不屈の剣士ィ!その剣はァ、風を裂きィ!地を震わすゥ!」
“絶対命令”はここでまた溜めを作り、
「──その名もォ!“颶風の剣士”!ケェーヴィィーンン!!」
呼び込みの口上が終わり剣士の名が呼ばれると、一際大きく歓声が上がり、その歓声に応えるように入場口から黒い影が飛び出してきた。
飛び出した“剣士”──ケヴィンは、素軽い身のこなしを披露しながら、シロと“絶対命令”がいる闘技場の中央まで到達し、シロと対峙するように、その眼前に立った。
形としては、これから戦う者同士が火花を散らす“フェイス・オフ“のようだった。それを見て“絶対命令”が観客を煽り上げていく。
「さァァ!早くもお互い睨み合っているぞォ!ぶつかり合った視線から火花が飛んでいるゥ!」
わざとらしく囃し立てる“絶対命令”の煽りを受けて、観客たちの空虚な歓声はその音量だけを上げていった。
お互い睨み合う形で対峙しているシロとケヴィンだったが、その表情は対照的だった。
シロは、目を閉じて、唇を引き結んでいる。まるでその内にある怒りを抑え込んでいるような、そんな雰囲気を纏っていた。
他方、ケヴィンは剣を抜き、戦いの態勢を取ってはいるものの、その目の焦点は定まらず、カチカチと歯を打ち鳴らしながらぶつぶつと独り言を繰り返していた。
「……立ち寄るんじゃなかった、こんな街に……俺はただ、恋人を連れて田舎に帰ろうとしてただけなのに……あぁ、カサンドラ……何故、何故あんな奴に──」
そんな独り言を聴き拾ったシロは、その閉じた目を薄く開け、
「──おい、“絶対命令”……てめえ、まさかコイツの恋人を──」
と、“絶対命令”に向けて声を掛けた。それを聞いた“絶対命令”は、悪びれもせず応えた。
「察しがいいねェ、シロくゥん──そォだよォ、そいつの彼女とは“オトモダチ”になっちゃった☆」
「シロくんに勝ったら“返して”あげる──ッて言ってあるんだァ、あはッ──“楽しい”だろォ?」
「あ、モチロン、シロくんが気にすることはないからネ☆思いっきりヤッちゃってよォ──コイツの“身体”は問題なく、俺の“命令”通りに動くからさァ」
“絶対命令”は、嗤いながらそう言った。それを聞いたシロは、何も言わずにまた目を閉じた。ギチっと、何かを噛み殺すような、そんな音がした。
「じゃあ……そろそろ始めよっかァ……そろそろ“リスナー”たちも、待ちきれないみたいだしさァ☆」
そう言って、“絶対命令”は対峙する二人から離れ、一際大きな声で号令をかけた。
「それではァ!第一回戦ン!シロvsケヴィン!ィいってみましょォーーーーー!!」
その声と同時に、場内に渦巻く空虚な歓声が一際大きく会場を震わせ、地鳴りのように響き渡った。
その声に促されるように、ケヴィンの剣がゆっくりと持ち上がり、ケヴィンは怯えたままの顔で、その研ぎ上げられた切先をシロの方へ向けた。
「嫌なんだ──!本当は……戦うつもりなんてない……こんな……丸腰の相手に……!でも……身体が言うことを聞かない……」
シロのその閉じた目が弾けるように見開き、固く握った拳を前に突き出した。
「お前に恨みはねえし、気の毒だとも思う……けどよ──俺も負けらんねえんだ……悪りいが──ブッ飛ばさせてもらう!」
ケヴィンの顔は歪み、歯の根は合っていなかった。が、そんなケヴィンの様子とは裏腹に、その剣先はブレ一つなく、冷たく輝いていた。




