【第一章:絶体絶“命令”都市】 ーその6ー
俺の拳は、ヤツのニヤけ面に到達する寸前で──止まった。いや、止められた。
止めたのは、エステルだった。俺の拳打がヤツに届こうとしたその時、俺とヤツとの間に割り込むようにして、エステルが進み出てきて、片手で俺の拳を止めていた。
「──へえ。エステルちゃ〜ん、可愛いだけじゃなくて強いんだァ。アハッ☆」
ペンダントの当たった部分をさすりながら、“絶対命令”は軽口を叩いていた。
「いざという時に肉盾くらいにはなるかと思って、俺を守るように“オーダー”してたけど……ここまでやれるとは思ってなかったよォ?“嬉しい誤算”ってヤツかなァ〜☆」
ヤツはへらへらと笑いながら、俺の拳を止めたままのエステルの頭を撫でる。
エステルに止められた俺の拳は、びくとも動かなかった。指一本、動かせなかった。エステル……どこにこんな力隠してやがったんだ。
「さァて、と……まずはァ……お前ら、このガキを拘束しろ」
“絶対命令”は背後に引き連れた鎧兜の連中に、そう指示を出した。指示を受けた鎧兜たちは、すぐさま俺の身体を地面に押さえつけた。
「アハァ……良〜いザマだねえ〜シロくぅ〜ん☆……でェ?なんだっけェ〜?」
地面に押し付けられた俺の目の前に立った“絶対命令”は、わざとらしく耳をそば立てる仕草をして、俺を見下ろしてきた。
「俺を?殴り倒す?ハァ〜怖いねェ〜!時代遅れの“ヤンキー”ってのはサァ〜☆」
俺は何も言わずに、ただ睨みつけた。こういう手合いに、言葉の応酬を仕掛けても喜ばせるだけだ。
「俺はお前みたいな“ヤンキー”が一番嫌いなんだよナァ〜……言葉の通じない人種ってヤツはさァ、“人”としてどぉーかと思うよォ?」
これ“カミサマ”からの“お告げ”ってヤツね、と言った後、“絶対命令”は大きく高笑いをした。
ヤツは一頻り笑ったあと、その笑いを収めて、
「……ふむ。ヨシ決めたァ!お前は最も残酷な方法で“処刑”してやる……嬉しいだろォ?」
と俺の耳元で囁いた。耳に粘りついてくるような、不快な声だった。
俺はこちらを見下して悦に入っている“絶対命令”の目を強く見据え、言葉を放った。
「俺もてめえに一つ、言っておいてやる──」
“絶対命令”はその声を聞き、目を細めたが、それに構わず俺は続けた。
「てめえは、絶対に、ブン殴る──」
言い終えると、“絶対命令”の細まった目が大きく歪み、一際大きく高笑いをして、
「楽しみにしてるよ……シロくん……」
そう低い声で言い放ち、人垣の奥へとエステルを連れて消えていった──