【第一章:絶体絶“命令”都市】 ーその5ー
逃げながら、俺は考えていた。
──これ、詰んでねえか?
『シルクドール』は都市としての規模はそこまで大きくなさそうなのだが、それに比しての人口が多すぎる気がした。
街の至る所に人がいる。人目に付かない所、というのが意図して排除されているような感覚すら覚えた。
それを踏まえた上で、土地勘のない俺が盲滅法逃げ回った結果、どうなったか──
誘いこまれるように行き着いた路地の行き止まりで、俺は住人たちに囲まれていた。
十重二十重に囲まれた人垣は、揃いも揃って目が死んでいた。気が滅入る、なんてもんじゃない。見てるこっちも死にそうだ。
しかし、どうしたものか──殴り抜ける……のは難しそうだ。道は塞がっている。壁を登って、というのも無理そうだ。
肩で息をして、足りない酸素を取り込みながら考えていると、人垣の向こう側から、パチパチと乾いた音がした。と同時に人垣が割れ、そこに出来た道からエステルと、一人の男が現れた。
「ご苦労ご苦労、シ・ロ・くぅ〜ん。意外と走るの、速かったネェ〜」
現れた男はニヤけた面をぶら下げて、後ろに鎧兜の一団を引き連れた、命令神:“絶対命令”──だった。
「ああ?なんで俺の呼び名ァ知ってんだ……?」
「キ・ミ・の、お友達、いや“カキタレ”かなぁ〜?のエステルちゃんに『教えて』もらったよ〜ん☆」
実際に顔を突き合わせて、率直に思ったのは“ムカつく野郎だ”ということだった。人の神経を逆撫でするのが上手いやつだ。
「チッ──それで、この街の“カミサマ”が俺に何の用だよ」
「アレアレェ〜、“用”があるのは君たちでしょ〜?折角手っ取り早く、こっちから出向いてやったってのにさぁ〜」
「──なんで俺たちがてめえに“用”があることを知ってる」
そう聞き返すと、“絶対命令”はそのムカつくニヤけ面を更に歪めて、
「さぁ〜?な〜んでだろぉねぇ〜」
と、人を小馬鹿にしたような口調を崩さずに返した。
「俺ェ、エステルちゃんと“仲良く”なっちゃったからさァ〜?それで教えてもらったのかもねェ〜」
ピキリ、と何かが切れるような音が、俺の中からはっきり聞こえた。ヤツ流に言えば、俺が俺に“命令”してきた。
“ヤツをブン殴れ”──と。
「──そうか。ま、それはいい。色々と聞きてえことはある、が」
俺は、奴の視界に入らないところで、ギリギリと右拳を握り固め、左手で胸のペンダントを握り込んだ。
「全部お前を殴り倒してから、聞いてやる──ッよ!」
その言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、俺は左手に握り込んだペンダントを引きちぎり、奴の顔面に投げつけた。
そのまま一足飛びに距離を詰め、殴りかかった。
ペンダントを投げられた“絶対命令”は、虚をつかれた形で、顔面に強かに喰らい、その怯み切った横っ面に俺の拳がめり込んだ──筈だった。