【第一章:絶体絶“命令”都市】 ーその1ー
第一章、開幕です
仄暗い空間であった。四隅に床と天井を繋ぐように柱が立っており、空間の中心には祭壇のようにうず高く築かれた台座があった。
その台座を囲むようにして、人のうねりがあった。
“祭壇”の上からよく通る、“男”の声が聞こえてきた。
「━━“オーダー”:俺を讃えろ、愚民ども」
その声が響くと同時に、人々は手に持った松明に火を灯し、“男”を讃える祝詞を唱えはじめた。
松明に照らし出された人々の顔は、まるで何かに取り憑かれているかようだった。目は虚ろで、頬は紅潮し、隣の人間とぶつかろうと気にも留めていない。
人々の感情の消えたような、しかし妙に熱狂的な声は渦を巻き、中心の“祭壇”を包み込んだ。
その熱狂が最高潮に差し掛かった頃、人の輪の中から一人の女が“祭壇”の上へと昇らされた。
それこそが今宵の“捧げ物”だった。
“祭壇”の上に昇った女の身体は、小刻みに震えていた。歯の根は噛み合わず、目線の先は落ち着かない。
明らかに怯えている様子の女の前に、暗闇から一人の“男”が音も無く現れた。
その“男”はその女の全身を舐め回すように見て、舌舐めずりと共に女の手を取り、
「“オーダー”:俺を愛せ」
と、耳元でそう告げた。
その声を聞いた女の身体は一度大きく跳ね、顔を俯けた。
“男”はそんな女の手の甲に、流麗な所作で口づけをした。
それが合図だったかのように、女は顔を上げた。その瞳には薄らと、だが確かに涙が滲んでいた。が、表情はそれまで怯えていたのが嘘のように陶酔した様子で、色を含んだ視線で“男”を見つめていた。
そんな女の視線と自らの視線をねっとりと絡ませ、“男”は女を抱き寄せた。女は逆らわずに身を委ね、“男”はその唇に指先を重ねた。恍惚とした顔で“男”の指先に舌を這わせた女は、大きく二度痙攣した。
その様子に“男”は高らかに笑い声を挙げ、ぐったりした女を抱き寄せたまま“祭壇”を降り、暗闇の奥へと消えていった。
残された群衆は、虚ろな笑顔でその“男”を讃え続けていた。
絶対神:“絶対命令”──と。
まるで意思無き“人形”のように──
いつまでも──
いつまでも──
この都市の名は、シルクドール。
“絶対命令”が支配する“人”が“人”ならざる都──
《第一章:絶体絶“命令”都市》
“神”を殺すのは、いつだって“人”だけだ──
例えそれが、人の意思すら捻じ曲げる“命令”の渦巻く中であったとしても──