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異世界なんj民  作者: カミト改
第1章
7/13

第7話:ナノダ村

「化け物じゃああああああああ!!!!」


 老婆はワイを指差し、おったまげて声を上げる。

 

(化け物?なにがや?)


 なにが起こったのかさっぱりわかってないワイ。

 ワイはジュラに視線を向けるが、ジュラもなにが起こったかわかっていないような顔をする。

 後ろを振り返ってみても、ワイら以外人はいない。

 ジュラは相変わらず美少女だから化け物じゃないとして、ということは化け物はワイということになる。


(え?どういうこっちゃねん)


 いくらワイがブサイクだからといってもあまりに失礼な反応である。

 酷すぎるンゴね。

 ワイは腰が抜けておったまげる老婆に近づく。


「お、落ち着いてください!俺は化け物じゃありません!たしかにカッコ良くはないですけど!」


「く、来るな化け物!祟り!すけこましーーーー!」


 老婆は半狂乱状態で泣き叫ぶ。

 酷い言われようである。


「俺はなにもしません!落ち着いてください!ほら!なにもしてないでしょう?」


 ワイは両手を顔の横に上げ手をひらひらさせて無害アピールをする。

 

(どうでっか?)


「ひぃぃいいいいいい…いぃぃいい…んぇ?…ほ、本当に、な、なにもせんのじゃな?」


 老婆は怯えた表情を変えずにワイに問いかけてくる。


「本当です!俺はなにもしません!ほら!無害無害!」


 ワイは全力で無害アピールをする。


「よ、よかった。わしを食いにきたのかのかと思ったわい」


 さっきから酷すぎません?


「あ、あの」


「な、なんじゃ」


 老婆はまだ怯えているようだ。


「俺たしかにカッコよくないと思うんです。でも化け物は失礼じゃありませんかね!」


 ワイ、もう泣きそう。ぴえんこえてぱおん。


「な、何を言うとるんじゃ!そんなカエルみたいな面をしおってからに!どうみても化け物じゃろ!」


 老婆は怯えと怒りが混じったような声音でワイを罵倒する。


(カエル?ワイが?どう言うこっちゃ)


 ワイは自分の顔を触る。

 首があり、丸い一般的な人間の顔の感触だ。

 どこもおかしいところはない。

 俺はジュラに目配せしてみる。

 しかしジュラも小首を傾げた表情をして何も反応がない。

 

(なんもおかしいとこないやんけ)


「あのー、俺おかしいところなんてないですけど…」


「げに恐ろしや。あくまで人を語るか化け物め」


「ええええええ!だって俺おかしいところないですやん!」


「どうみても黄色のカエルみたいな化け物にしか見えんがの!」


(黄色のカエル…?どういうこっちゃねん…)


 そこでワイはハッとする。


(おいまさか…これ…“なんj民”やんけ!!!!)


 ワイは衝撃の答えに辿り着きフリーズする。

 フリーズするワイをジュラは下から覗き見て不思議そうな顔をした。


「ナンジェーミンどうしたの?」


 ワイはジュラの問いかけにも反応することができなかった。だって、今老婆が言った姿はネットで検索すると出てくるあの黄色いカエルみたいなキャラクターそのものだ。

 

(あれ?これひょっとしてワイ…ガチのマジでなんj民になってもうたんか?)


 でも自分で顔を触ってもおかしいところはなかった。

 ジュラもそんなことはないみたいな反応をしている。ということはこの老婆だけにワイは黄色のカエルに映っているということだ。

 

(お、落ち着けワイ。まだ確証は得られてへんが、他の人にも見てもらう必要があるんやないか)


 ひとまずこの疑問は置いといて老婆を立たせてあげるのが先だ。一応ワイのせいでこかしてしまったのだから。

 ワイは老婆に手を差し出す。


「何がなんだかわかりませんがひとまず立って話しましょう」


 老婆はまだ訝しやかな面持ちをしてワイの手を取った。

 ワイは足に力を入れて老婆を引っ張って立たせる。


「なんか脅かしてしまって申し訳ございません」


 ワイはとりあえず謝る。


「なんじゃ、随分丁寧な化け物じゃな」


 さっきから酷いっすねぇこのおばはん。


「丁寧なのは元からでして…てへてへ」


「褒めてはおらん。して、あなた方はなんなのじゃ一体。ここいらでは見たことがないぞ」


 そうっすよね。つい昨日来ましたなんて言えやしない。

 とか考えてたらジュラが口を開いた。


「私たちはダゼ村から来たんです!」


 うん。実に短く簡潔だ。ワイが言うまでもなかった。

 老婆は目を丸くして驚いた表情をする。


「ダゼ村じゃと…?あの忌々しいドラゴンが許すはずがない!」


 ごもっともでありんす。


「ドラゴンはこの人、ナンジェーミンが殺してくれました!だからもうみんな自由です!」


 ジュラさん、違いますよ。

 老婆はさらに驚愕といったような表情をする。


「なん…じゃと…!そんなわけがないじゃろ!あのドラゴンじゃぞ!人族が敵うはずがない!」


 勝手に死んだんすよ。なんか知らんけど。


「本当です!信じてください!でなければ私たちがここには来ることができません!」


 老婆は驚いた表情をしたまま考え込むような仕草をする。


「た、たしかに…その通りじゃ…しかし…ありえん」


 ワイも一歩間違ったら死んでたし、たしかに奇跡だよなぁ。


「だからこのナンジェーミンは英雄なんです!ドラゴンを殺した英雄です!私たちを救ってくれたんですよ!」


 ジュラさん、違いますよ。話を盛ってはいけません。


「お、お前さんが…?信じられん。本当に…」


 老婆はワイを頭のてっぺんから足のつま先まで凝視する。


「いや、俺何もしてませんけどね」


 とりあえず弁明しておく。

 それに対してジュラが反発した。


「本当です!この人がドラゴンを殺したのをこの目で見ました!」


「んー、ジュラさん話盛りすぎっすよ落ち着いて」


「これは落ち着いていられません!真実を話さないと!」


(真実ってなんだよ!ワイほんまになんもしてへんがな)


 ワイらのやりとりを聞いていた老婆がワイの背負っていたリュックを見て口を開いた。


「お、お前さん…それ、ラッセルのリュックじゃないか」


(ん?ラッセル?村長にもらったんやが)


「これですか?ダゼ村の村長からもらった物です」


「間違いない。ラッセルのじゃ。生きておったのか…うぅぅぅ」


 突然泣き出す老婆。

 狼狽えるワイ。

 不思議そうな顔をするジュラ。


「俺、なんかやっちゃいました?」


(なんもしてへんのやが)


「ぐすん、いやすまない。旧友を思い出したんでな。ダゼ村から来たというのはどうやら本当らしい」


 なんか信じれくれたっぽい。

 知らんけど。


「そうでしょうそうでしょう。ナンジェーミンは英雄なんです!」


 ジュラさん、たぶんそういうことじゃないと思いますよ。


「こうしちゃおれん。お前さん、ついてきな。この村の(おさ)に会わせてやるから経緯を説明せい。ドラゴンが死んだとなれば皆が驚くはずじゃぞ」


 お、なんか話が進んだっぽい。

 それにしても、ワイ、なんj民の見た目になってしまったのか。とほほ。だとしたら相当醜いに違いない。

 この姿で王都に行ったらパニックが起きてワイ殺されるかもしれない。

 なんjの呪いにでもかかってしまったのだろうか。


「おなしゃす」


 ワイはとりあえず生返事をして老婆に案内をお願いすることにした。






 老婆と一緒に歩いている間、村人たちとすれ違った。村人たちは皆最初はワイを見るや否や仰天して「化け物」と泣き叫びすっ転んでいたが、ワイのしおらしい態度を見て平静を取り戻してくれた。

 どうやらワイは他人から本当になんj民みたいな姿で見えているらしく黄色のカエルみたいな化け物だと皆口を揃えて言った。

 そしてジュラとワイだけは普通の人間に見えているらしくそれが1番謎だった。

 どうしてジュラとワイだけが普通に見えているのかわからないが一旦その謎は後回しにして自分とジュラの保身を最優先にしなければならないのでナノダ村の村長に現状を伝えて速やかにズンダモッティまで辿り着けるようはからってもらう必要がある。

 ズンダモッティまで辿り着きさえしてしまえば都会だから仕事にあるつけるかもしれないし、運が良かったらユックリレームとかいう貴族様と接触してドラゴンを倒した報奨金がもらえるかもしれない。

 万年ニートだったので働きたくないからできれば後者がいいが最終手段として前者を選択肢の一つとしておかなければならない。

 前提条件としてまず目の前のことを片付けなければならないが。

 陰キャの人見知りだからできれば人と話したくないけど、ここは自分とジュラのためだから仕方がない。

 腹を括るか。


「ナンジェーミンとやら、ここが長の家じゃ。わしが呼ぶから少し待っておれ」


 そう言うと老婆は村長の家の扉をノックして「入るぞ」と言って勝手に家の中に入って行った。

 「わかったンゴね」と言おうと思ったが遅かったようだ。

 そしていつの間にかワイの半径20メートル程の距離を空けて人だかりができていた。ここに住む村人たちだが、皆ワイの姿を見て訝しんだ表情をしながらヒソヒソ話している。

 ワイは少し居心地の悪さを感じた。


「どうなることかと思ったー!どうしてみんなナンジェーミンを見て驚くんだろう?私には普通の人にしか見えないけど」


 老婆がいなくなったからかジュラが口を開いた。


「うーん、わからないンゴね。俺も何が何だか」


 ワイもわけわかめなので素直な感想を言う。

 なんjの呪いか何かだろうか。

 だとしたらあまりにも滑稽すぎて笑えるが。

 もしこの世界に呪解師みたいのがいたら聞いてみたいものだ。

 その時、ドアが勢いよく開かれて20代後半くらいに見える筋肉質なお兄さんが飛び出してきた。

 あまりにも勢いが良かったためワイは驚いて一歩下がる。

 

「あなたがナンジェーミン様ですか!」


 出てきた兄ちゃんはワイに声をかける。


「これ、ヤー坊落ち着かんかい。いきなり声をかけたら驚くじゃろ」


 それを後ろで見ていた老婆が兄ちゃんを諌める。


「は、はい…ワイ、じゃない、俺がなんj民です」


 ワイはとりあえず返事をする。


「どうぞお入りください!お連れの方も是非!」


 兄ちゃんはワイとジュラを招き入れようとする。

 すると老婆が補足説明してくれた。


「こやつが村長(むらおさ)のヤー・キンニクンじゃ」


(え!?この若い人が!?)


 ワイは驚いて目を見開く。

 ジュラもちょっと驚いた様子だった。


「若いですね」


 ジュラもワイと同じ感想を漏らす。

 

「先代の村長は3年前に亡くなっての、どうせなら若いのがいいと思って村民の意志でこやつが村長になったのよ」


 それを聞いたキンニクンは頭の後ろを掻いて答える。


「いやぁ、若輩者ですが村長やらしてもらってます!」


「調子に乗るなヤー坊。そんなことよりはよ入れてやれ。人が多くて目障りじゃ」


 老婆に言われたキンニクンは周囲を見回して「確かに」と呟き、ワイらを家の中に入れてくれた。


 ワイはキンニクンにことの顛末を事細かに説明した。

 キンニクンはかなり驚いていたが、ワイとジュラがドラゴンの監視の元ここまで来れるはずないという事実があるためドラゴンが死んだということを信じてくれた。

 その後キンニクンはドラゴンが死んだことを村中に知らせるため、忙しそうに各家を回って行った。

 ただ一つ誤算があるとすれば噂の回る速度が速すぎて村人が外で騒ぎ出したことだ。

 日が傾くにつれて人が増えていき祭りみたいな様子になってきた。

 そしてジュラが調子に乗ったのか村人からドラゴンのことを聞かれた時にワイとドラゴンのやり取りに関して話を盛りに盛る形で話していたようだ。

 ワイが否定する暇もなくその話もインターネット速度より速い速度で広がり、いつの間にかワイが竜殺しの英雄かのように祭り上げられ「ナンジェーミン!ナンジェーミン!」と騒ぐ者まで現れた。

 ワイのカエルの化け物のような見た目も気にする者は誰もおらず皆がワイを見る目は輝いていた。

 きっとダゼ村の人たちもこうだったのだろうことが容易に想像できた。

 ダゼ村の村長は警戒していたみたいだけど。

 そんなカオスな状況の中、ワイと同じかそれより少し年下くらいの青年がワイの元に駆け寄ってきて声をかけてきた。

 

「ナンジェーミン!俺と勝負しろ!」


 あまりにもいきなりすぎてワイは「え?」と言ってフリーズしてしまう。


(何言っとるんやこいつは)


「ジュラさんを今すぐ解放しろ!化け物め、俺は騙されないぞ!」


 どうやらひどい誤解をされているらしい。

 

「お、落ち着いてください。俺は何もしてません」


 ワイは両手で「まぁまぁ」といった態度で落ち着かせようとする。


「どこからどう見ても醜い化け物じゃないか!ジュラさんがお前を好きになるはずがない!」


(どういうことでっか)


 ワイは困惑する。


「な、何があったのか知りませんがとりあえず話を整理しませんか」


 ワイはなおも諭すように語りかける。

 しかし、青年は聞く耳を持ってくれないようだ。


「あんな美しい方がこんな醜い化け物を称賛するなんてどう考えてもおかしいじゃないか!」


(ふむ。確かにジュラは美しいが…ん?待てよ。ははーんこいつ、ジュラのことが好きなのか。通りでジュラに固執するわけや。(うい)やつめ)


 ワイは妙に納得がいき、ちょっと笑ってしまう。


「な!笑うな!いいから俺と勝負しろ!」


 ワイが笑ったのを見て青年は少し怒ったように見える。このままレスバしてもいいのだが、人の恋心を弄ぶ趣味はない。


「うーん、そんなこと言われましても俺が強要したわけじゃないですし…」


「だったら“両刃(りょうば)()”を申し出る!これでお前は逃げられない」


(りょうばのぎ?なんやそのけったいな名前は)


 それを聞いていたさっきの老婆が横から口を挟む。


「両刃の儀じゃと?お前さん今そう言ったのか?」


 それに対して青年が答える。


「ああ言ったさ。俺はこいつに対して両刃の儀を申し出る」


(だからなんやねんそれ…)


 何が何だか理解できず困惑するワイ。


「ヤー坊!どこにおる!さっさとここに来るんじゃ」


 老婆は声を張り上げてキンニクンを呼ぶ。

 それ聞いたキンニクンは全力疾走で走ってきて老婆の前まで息を切らしながらやってきた。


「なんだいばーちゃん」


「今こやつが両刃の儀を申し出た。30年ぶりじゃ。準備せい」


 キンニクンはしばし考える仕草をした後素っ頓狂な声を上げた。


「え?ええええええええええっ!?本当ですかそれ!本当にやるんですか?ちょっと待ってください!取りに行ってきます!」


 そしてキンニクンは再び全力疾走で来た道を戻っていってしまった。

 一連の流れを聞いていた周りの村人たちは一斉にヒソヒソ話し出した。

 何もわからないワイはただ呆然となり、つぶやいた。


「ほんまなんやねんこれ」

どうも作者のカミト改です。

文章は6000文字から7000文字を目途に書いていく予定です。少し長いかもしれませんが付き合っていただけると幸いです。Twitterのアカウントを作成しましたので応援していただけると泣いて喜びます。


旧Twitter/X:@nanj_min114514

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