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異世界なんj民  作者: カミト改
第2章
12/12

第12話:可能性の獣と路地裏の姫

 ユックリレーム辺境伯領、ズンダモッティはリュウタロ山地という巨大な山々に外界から隔てられるような形で存続している少し珍しい都市である。一番近い交易都市メテンはリュウタロ山地を越えて北東方向にあり、ズンダモッティから向かうにも迂回するしかないほどに隔絶されている。その上、国境付近にある特性上、諸外国からの侵攻を食い止める役割も担っている。西には単眼族の巨大な国家ゲーテルドーゼ、南には猫人族を食らう異業種族の敵国ゴスエルセルツェゴビナがあり、もし交戦した場合はリュウタロ山地のせいで中央にある王都などから支援ほぼ不可能であり、支援するにも交易都市メテンを経由して東側から迂回してこなければならない。土地の特性上油断を許さない状況である。幸いにもゲーテルドーゼはさらに西側にある別の死人族の国家ファルン魔鉱国と戦争しておりこちら側が仕掛けない限りは問題ないといえる。また、南側には苔ブルームという特殊な木の森林地帯が大規模に広がっており、3等級冒険者でも太刀打ちできないような魔獣が多く、敵国からの侵攻はほぼされることはない。しかし、10年ほど前に焔竜ンゴンゴという竜がその森に住み着いた。元々、苔ブルーム森林地帯には別の竜王(ドラゴンロード)が住み着いていたのだが、ゲーテルドーゼの英雄が一騎打ちにてその竜を討ち滅ぼしたことにより、後釜として焔竜ンゴンゴがやってきたとも言える。また、北にあるドラシール竜王国には同じ竜王(ドラゴンロード)である腐敗竜フジョーシ=ヤオイがいることを考慮し、軋轢を嫌ったンゴンゴがリュウタロ山地で隔たれている反対側にあるこちら側を選んだという考えも筋が通っていることだろう。

 竜というものは比較的穏健派もいれば好戦的な者もおり、ンゴンゴは後者であるがゲーテルドーゼの南側の位置を避けてエンテルエンウの南西にこと構えたのはなかなかに小賢しい竜である。

 また、ンゴンゴは猫人族をしばしば捕食していたようでズンダモッティの南側にある村々を壊滅させていった。このままではズンダモッティまで侵攻されてしまう恐れがあったため、ユックリレーム辺境伯は火急で王都へ英雄級または1等級に相当する冒険者の派遣を打診したが返事は芳しくなく、自分たちのみで対処せざるを得なくなった。そんなおり、別の問題も発生した。

 苔ブルーム森林地帯から魔獣たちがズンダモッティ側に逃げてきたのである。そこから魔獣たちと生存権をめぐる泥沼の戦いになった。普段は相いれない騎士団と冒険者組合が協力し合いなんとか退けたものの10年経過した今でも油断を許さない状況である。

 ンゴンゴの脅威はいまだ衰えず、近隣には魔獣が多いため、交通の便もほぼ壊滅と言っても過言ではない。交易も多少は行ってはいるが、交易都市メテンやゲーテルドーゼの都市が遠いこともあり危険を冒して交易を行う者はごく少数だ。

 しかしつい2週間前のことである。近隣から魔獣の出没情報が激減していた。

 ついに長い闘争が終わったのだろうか?

 仕事が激減して冒険者は嘆いていたが平和に越したことはない。これでやっとあの忌々しい竜に集中することができる。

 そういえば、最近黄色のカエルのような容姿をした化け物が捕らえられ牢屋にぶち込まれたらしい。住民に話を聞くとその化け物は友好的で特に害はなかったらしいがいったい何をやらかしたのであろうか。





 ”俺”はリリィ・フォンデレート・ユックリレーム。

 俺と言っているが女だ。俺は女だが負けん気が強くて私と呼称するのが嫌だったのである。

 突然だが、俺は全力で逃げている。なぜ逃げているのか。お忍びで屋敷から抜け出して人目につかないように路地裏を通っていたら路地裏にたむろして道をふさいでいたチンピラにムカついて蹴ったのである。そしたら追いかけられて今に至る。


「しつけーんだよ!」


 俺は大声でチンピラに叫ぶ。


「まてゴラッ!!!!!」


 チンピラも怒鳴り声をあげて俺をまだ追いかけてきている。追いかけてきているのは3名。まったくもって、チンピラというのは群れないと行動できないのであろうか。そもそも、ただでさえ狭い道をふさいでいたのが悪いのだ。俺はただ正してやったに過ぎない。俺は何も悪くない。


「ちっ、しつけーな!反省してまーす」


 俺は悪態をつきながら棒読みで謝る。


「そんな誠意のない謝罪があるかよ!待て!!!!」


 待てと言われて待ってやる義理はない。

 俺は疲労する足に鞭打って路地裏からさらなる路地裏へと道を変えながら全力で走る。

 

「追いつけるもんなら追いついてみろ!」


 さらに挑発して舌をべろべろ出す。


「このガキ!」


 道を変えまくったからかチンピラの声が遠くなってきた。

 俺は少し速度を落として遠ざかるルートを選択しながら走る。


「くそ!見失った!どこだこらあああああ!!!」


(吠えてる吠えてる)


 俺はニヤリとほくそ笑む。

 今回はかなりしつこいチンピラだった。

 蹴られたくなかったら初めから道のど真ん中でたむろするのはやめてほしいところだ。

 と考えながら走って気を抜いていたら俺は何か固くて大きなものにぶつかった。


「ぐえっ!」


「うっ!」


 自分のからだにとんでもない衝撃が走り俺は思わず目をつむり、跳ね返されて後ろに大きくしりもちをつく。

 

「ってーな。おい、気を付けやがれ」


 俺はぶつかったであろう相手に悪態をつき、目を開ける。 

 目を開けた瞬間、俺は絶句した。

 目の前には”化け物”がいた。

 目がぎょろっとしていて全身黄色のカエルのような見た目の化け物だ。

 俺は恐ろしくて動くことができなかった。


(な、なんだ…こいつ…人か?…) 

 

「しゅ、しゅみましぇん。ワイ、うっかりしてました!だ、大丈夫ですか」


 化け物は何やらしゃべると俺に近づき、手を差し伸べてくる。


「近づくな!」


 俺はそいつの手を払いのけ、キシャーッと声を出して威嚇する。

 化け物は露骨に悲しそうな顔をする。


「ワイ、そんな悪い奴じゃないねんけどなぁ」


(なんで魔獣ががこんなところに)


 それに魔獣がしゃべっている。俺を襲う様子もないし、違和感しかない。

 俺は地面に手をついて立ち上がる。

 

「なんだお前は。なんで魔獣がこんなところに」


 化け物はさらに悲しそうな顔をする。


「ワイ、魔獣じゃないねん。人やねん。信じてクレメンス」


 どう見ても化け物だから信じることができない。


「嘘をつくな!猫人族じゃないだろ!どこから入ってきた!」


 俺はもっともな質問をする。


「ワイは普通に正門から入ってきたンゴねぇ」


「はぁ?」


 俺は気の抜けた声を上げる。


「はぁと言われましても、ワイは衛兵からここに入るのを許可されたンゴ。魔獣じゃないンゴ」 


「証拠を出せ化け物!」


 俺は信じられず詰め寄る。


「ち、近いンゴ。ワイ、おにゃにょこには慣れてないンゴねぇ」


 この期に及んでこの化け物はパーソナルスペースの心配をしているようだ。どこか抜けている。


「いいから出せ」


「おかのした。待ってクレメンス」


 この化け物、なんかマイペースだ。俺の警戒心が抜かれていく気がする。

 化け物は使い古したリュックを開き、中をゴソゴソと漁る。

 

「うーん、どこに行ったのやら」


 えらく探すのが遅い。そして恐ろしくマイペースだ。


「おい早くしろ。俺は気が短いんだ」


 俺は化け物を急かす。


「ADHD急かしたらあかん!余計ミスするんや!待っといてや!」


 化け物は何やら反論してくる。

 俺はその気迫にけをされて勢いがそがれる。


「あったで」


 化け物は一枚の紙切れを渡してきた。

 そこにはナノダ村の村長にあたる者からの一筆と、ハンコのようなものが押されていた。

 

(待て、ナノダ村?)


 ナノダ村といえばここからさらに南下したところにある国境付近の村だ。

 その村は現在焔竜ンゴンゴという化け物の支配下にあったはずだが。

 それよりも、なぜナノダ村からここまで来れたのか。それこそあり得ない。


「おい、ナノダ村からどうやって来たんだ」


「ん?どうって、普通に歩いて」


 化け物は何を言ってるんだかみたいな反応で応答する。


「お前これがどういう意味かわかっていってるのか」


 俺はさらに詰める。

 だってありえるはずがない。あのドラゴンの目をかいくぐって歩いてきたというのだから。


「もう証拠見たんやからええやろ?返してクレメンス。あとワイの名前はなんj民や。覚えといてや」


 化け物はそう早口でまくし立てると俺から紙を取る。


「これがないとこの街におれへんからな」


「おい待て。まだ話は終わってないぞ!」


 俺はどこかへ歩いて行こうとする化け物を引き留める。


「なんやねん君、ワイはジュラのとこに戻らなあかんねん」


 化け物は心底めんどうくさそうにして先を急ぐ素振りを見せる。


「まだ質問に答えてもらってないぞ!」


「質問?あーなんやったっけ」


 化け物はへらへらした様で忘れたような困った顔をする。


(こいつ…なんかムカつくな)


 俺はムッとしてややきつめに問いただす。


「おい化け物、俺が誰かわかってないようだが、逆らうと痛い目を見ることになるぞ」


 化け物は「?」というような顔をして、大きなため息をつく。


「お偉いさんか?なら仕方あらへんな。しゃーない。長いもんには巻かれろっちゅー言葉があるさかいな。質問に答えたるわ。んでなんぞいや。あと、名前は化け物やなくてなんj民な」


 俺はこの化け物の態度に若干イラつきを覚えながらも情報を引き出すために心を落ち着ける。


「ナノダ村は現在恐ろしいドラゴンに支配されているはず。どうやってかいくぐってきた?」


 ナンジェーミンは即答する。


「あーそないなことかいな。いやね、あのドラゴン死んだんやわ。ワイが煽ったら煽り耐性皆無やったのか顔真っ赤にして泡吹いて死んでもうたわ。ほんまアホやんなー。わっはっは」


(は???????)


 俺は衝撃すぎて口をあんぐりと開けてしまう。


「なんやぽまえ、急に黙ってどないしてもうたんや」


(今こいつなんて言ったんだ?ドラゴンが死んだ?それも煽っただと?こいつ正気なのか。ドラゴンがどれほど恐ろしい存在か知らないのだろうか)


「おい、ちょっと待て。理解が追い付かないんだが。つまりはあれか?お前がそのドラゴンを殺したから歩いてここまで来れたってことか?」


 あまりにも突拍子もない話だが、現にナノダ村の村長による一筆と印が書かれた紙を持っており、歩いてきたというならば辻褄が合っている。 


「うんまぁ、殺したっていうのはわからんけどワイがヤったのは事実やしなぁ」


 俺は開いた口が塞がらない。


「お前正気なのか?あのドラゴンだぞ?この国すら滅ぼせるほどの絶大な力と叡智を持っている地上最強の生物だぞ?それを…こんな…簡単に…」


 自分で言ってても混乱する。

 そういえば、二週間前から衛兵と冒険者が、魔獣が減って平和になったとか言っていた。

 それを思い出し、こいつの言っていることに信ぴょう性が芽生えてくる。


「もうええかな。ワイ急いでるねん。ぶつかってすまんかったな。許してクレメンス」


「え、あ、ああ。引き留めてしまって悪かった」


 俺もとりあえず謝る。

 ナンジェーミンが踵を返そうとしたその時である。


「みぃつけた!」


 後ろから聞いたことのある声が聞こえた。

 俺は即座に振り替える。


「げっ!」


 時すでに遅しだったようだ。

 俺の後ろに2人とナンジェーミンの後ろに1人、通路をふさぐように先ほど蹴り飛ばしたチンピラが挟み撃ちしていた。


「よぉガキぃ。さっきは…え?」


 俺に近づこうとしたその時、チンピラの動きが止まる。


「ば、化け物!」


 チンピラが素っ頓狂な声を上げる。


「ひ、ひぃ!」


 ほかのチンピラもナンジェーミンの姿を見て恐れのこもった声を上げる。


「なんやこの状況?ワイ、ひょっとしてピンチか?」


 真ん中にいるナンジェーミンはキョロキョロして目の前を指で切るような動作をしながら「アーメン」とつぶやく。


「に、逃げろ!化け物だ!!!!」


 チンピラは一目散に逃げ始める。

 俺は唖然としてその光景を見守った。


「あれ?ワイのこと狙ってたんやないんか?」


 ナンジェーミンはそう言うと俺の方を見てくる。


「何したんやぽまえ」


 どうやら俺を疑っているらしい。


「え、まぁ、うん。俺のせいだ」


「やっぱそうかぁ。いやぁ、ワイなんもやってへんしなって思ったんや」


「その、ありがとな。追い払ってくれて」


 俺はとりあえずお礼を言う。

 するとナンジェーミンはニヤリとした顔をし始める。


「な、なんだよ」


 俺はナンジェーミンに尋ねた。


「いやぁね、人にお礼を言うときは誠意が必要だよねって話よ」


(こ、こいつ…)

 

 俺を強請(ゆす)る気だ。

 まぁそうか。結局は金か。世の中はクズしかいないみたいだ。


「いくら欲しいんだクズめ」


 俺はナンジェーミンに聞く。


「いくらとは?」


 ナンジェーミンは困った顔をする。


(白々しい…)


 あくまで白を切るつもりのようだ


「金だろクズめ。で、いくらほしいんだ」


 俺はぶっきらぼうに言う。


「え?ワイ、金なんかいらへんねん。そうだな、ちょっとした願いを聞いてほしいんや」


 俺は「はぁ?」と素で返してしまう。


「まさか、身体で払えとか言うんじゃないだろうな!こんな男勝りな性格でがさつな上に貧相な身体に興奮するとか、お前まさかそっち気でもあるのか?」


 俺は身体を隠すように両手でガードする。

 ナンジェーミンは顔を真っ赤にして急いで否定した。


「ちゃ、ちゃうわアホ!わ、ワイがそ、そないなこと言うわけがないやろがい!」


「じゃあなんだよ願いって!」


 俺は願いの詳細を聞き出す。勘違いしたこっちが悪いみたいじゃないか。


「ふひっ」


 ナンジェーミンは露骨ににやにやし始める。

 なんか怖い。


「い、いいから言えよ」


 俺は催促をする。


「いやそのね、白目剥いてブリッジしてほしいなって…」


「は??????」


 俺は理解できず、聞き返してしまう。


「いやだから、白目剥いてブリッジしてほしいなって」


 ナンジェーミンは再度言う。

 

(白目剥いて…ブリッジ…?)


 俺はまだ混乱している。


「えっと、俺の聞き間違いじゃないよな?」


「聞き間違いじゃないで」


 ナンジェーミンは当然じゃんみたいな反応をする。


「いやマジか」


 俺はがっくり肩を落とした。

 こんな訳の分からない要求をする奴は初めて見た。

 開いた口が塞がらないとはまさにこのことである。

 キチガイにもほどがあるだろ。


「さぁ、はよやってクレメンス」


 ナンジェーミンはそわそわして催促してくる。なぜかやや鼻息が荒い。頬も高揚している。


(まさかこいつ、興奮しているのか?)


 その異常な性癖に俺は悪寒を覚える。

 しかし、助けてもらったのは事実。恩に報いるのは貴族としての務めだ。


「い、1回しかやらないからな!」


 俺は覚悟を決めて後ろを振り返る。

 そして膝を曲げて首を後ろに思いっきり倒し、地面に両手をついて白目をひん剥いた。


(え…ナニコレ…)


「マーヴェラス!!!!」

旧Twitter/X:https://x.com/nanj_min114514

XのID:@nanj_min114514


どうも作者のカミト改です。今回は新キャラのリリィちゃんです。ここから二章になるのでよろしくお願いします。

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