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第一話 婚約破棄されて、幸せになります

「君には悪いが、この家を出て行ってもらう」

「…へ?」


突然言われたこの言葉。

仙華には、とてつもなく嬉しいことだった。

この家で使用人同然に働くじょ 仙華せんかはこの年で十六。

なかなかのイケメンだが、こんな女好きの者と結婚するなんていやだった。

どうせなら、自分を真に愛してくれる男がいい。


「ありがとうございます!」

「…は?」


そりゃそうなるはずだ。

自分と結婚しないのか、って。

(あんたなんかと結婚するなんて、死んでも御免だわ!どうせなら、自分を真に愛してくれる人がいい)

仙華は嬉しそうに微笑む。


「君はなぜそんなに嬉しそうなのかい?」

「婚約破棄すると、自由に生きれるから!」

「そうかい。わかった。いいかい?仙華。君はどのみち、私に会うことになる。それでもいいかい?」

「ええ!もちろん!」


こんなに喜んでも大丈夫なのだろうかと不安になるが、これは好機、自由になる好機なのだ。


「喜んでま婚約破棄させていただきます!」

「そういうところに、私は惚れたんだがね…」


仙華の婚約破棄、林樹りんじゅは微笑む。


「じゃあ君を引き取ってもらう人のところに行こうとするか」


もう引き取り手が決まったのか?

いやな予感がする。この婚約破棄は、ただの婚約破棄ではない…?


「失礼するよ」

「どうぞ」


林樹と同じくらいのイケメンが、仙華の前にいる。


「君がかの有名な徐 仙華さん?」


低く、とても安心出来る声。こんな声の人は滅多にいないだろうと思いつつ、少し警戒した。


「そんなに怯えなくとも…。寂しいですねぇ。こんなに警戒されていては」

「申し訳ございません、宰相さいしょうどの。こら、仙華。いい加減にしないか。この方は宰相であらせられるのだぞ」


宰相といえばこの国で皇帝に次ぐ位であり、国の実権を握る人物だ。

なぜそんな者が仙華に会いに来たのか。


「仙華、これからはきちんとこの方に仕えるように」

「林樹さま?!」


林樹はどこかへ行ってしまった。自分が悪いのかわからないが、とてつもなく申し訳ない。

あのとき自ら自由が欲しいと言ったばかりにー


「あの者を好いていますか?仙華」


宰相が聞いてくる。

好いているわけがない。決められた縁談なのだ。誰があんな男を、好きになんてなるか。


「あの者は悪い者ではありません。あなたのためを考え、私にあなたを託したのでます。嫌いになどならないで…」


この縁談は幸せなものだったかもしれない。

使用人のようにこき使われたけれど、不自由のない生活を送れたのだから。

侍女もいたし、豪華な調度品だってあった。

仙華が少しでも疲れたと思えば林樹が来てくれ、気遣ってくれた。すまない、と。

(林樹さまっ…!!)

泣きたくなった。泣いてはいけないのに。

林樹が解放してくれたのだ。辛い苦しみから、仙華を。

ーありがとう…ございました…。

ずっと仕えていたいと、どこかで思っていたかもしれないのに、あんなことをー

情けない。だが、情けないなど思っていられない。

離してくれた林樹のために、頑張らなくてはならないのだから。

この者と頑張っていかなくてはならないのだから。


「あなたのお名前は?」

「私かい?」

 颯鵠そうこく。この国の宰相だ。そなたを迎えに来た。一緒に行こう、神国の朝廷ちょうていへ」

「はいっ!」


朝廷、それは官吏かんりと呼ばれる役人が仕事をし、皇帝の住まいでもある場所。すべての始まりの場所なのだー

(行きます。本当に、今までありがとうございました)

仙華は林樹へは聞こえていないけれど、心の中でお礼を言った。

仙華の新しい人生の幕を、今開けたのである。

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