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#2《秘匿された存在》

久しぶりです、24年終わるんですか??

コスモス王国がローズ連邦に軍を派遣し早数週間。

海岸を縁取るような地形のフラワー地域では、大激戦が繰り広げられていた。

鮮血と見紛うほどに真っ赤な炎に、その中で踊り死んでゆく者たち。その風景はこの言葉以上の形容がし難いほどに非現実的で、そして凄惨なものであった。


フラワー地域はかつて国内旅行と言えばここ、と総じて声が上がるような名所であった。

夏には異国情緒を感じるビーチや海、そして森林や売店が並ぶ。冬にはその森林には氷の花が一覧と咲き誇り、季節によって様々な顔を見せる。


・・・今となってはただの焼け野原に建物だったものの跡らしきものがちらほらと視界に入る程度だが、海はあの時と変わらず身勝手に輝いていた。






所々焼け焦げてはいるものの比較的丈夫そうな4階建ての建物の屋上、二つの影が戦火を俯瞰していた。


「なあ、おかしな話だよな。数百年の時を経てわざわざ鎖国国家に歯を向いてくるなんて」

「さあ?敵国の思惑は彼らしか知らないし私に聞かれてもね・・・」


二人の男女は少し身をひそめたようにし、携帯食料をほおばっていた。


「ルイはこの戦争が終わったらなにかしたいことあるのか?」

「元の仕事に戻りたいわね、この国の兵役なんてタダ働きみたいなものよ」


そのルイと呼ばれる女性はつまらなそうに答え、こう続けた。


「ヴァイクは?なんかしたいことでもある?」

「俺はこの戦争が終わったら、君のことを落としてみせるさ」


キザが過ぎるその発言にルイはさらにつまらなそうな素振りを見せる。


「・・・精々頑張ってください」

「まあ今は女王の勝利の為にこの身を尽くすだけだな」


ヴァイクはそう言い、唐突に下げていたライフルを構え、一発。

混乱するルイの背後で、何か固いものが倒れるような音が鼓膜を刺激した。


「ルイ、常に敵襲には気を付けないと。ここは激戦区だぜ」


ここでようやくルイはその音の要因が敵兵の頭がぶっ飛んだ音だと気づいた。


「ええと・・・ありがとう・・?」

「礼を言われるようなことじゃねえってばよ、俺も人なんて殺したくないんだ」

「それは・・・・そうね」


少し重くなった空気の下、2人はついさっき命の灯火が消えた1人の兵士の死骸になど目もくれずにその場を後にした。

戦争はまだ収束の目処すら立つはずもなく。





そんな激戦の地とは裏腹に、とある老人はワインレッドを基調とした豪華な部屋で優雅にアールグレイの香りを愉しんでいた。

周りを俯瞰してみればいくらの財産があっても買えなそうなくらいに豪華に宝石があしらわれた仮面や、廊下には慌ただしく足音を立てる白を身に纏った女性の姿。おそらくメイドか何かだろう。


そんな空間に、老紳士に加えて2人の女性が入ってきた。


「おやおやこれはウリエル様にシアター女王様。揃いも揃って如何なさいましたか?」

「いやウリエルがわがまま言うもんでさ」

「うるもおそといきたいのーー!!!」


途端に騒がしくなった部屋の中、老紳士は変わらぬ微笑みで会話を進める。


「ウリエル様はまだ魔法が使えないから少し手放すには心配が過ぎるのですよ」

「まほう……?」


小動物のように首を傾げるウリエルに、すかさずシアターが補足を加える。


「魔法っていうのは物理法則を無視して魔力をエネルギー源に様々な現象を起こすことのできるもので……」

「しあおねえちゃん…う、うるそんなのわからないよ………」

「ほっほっほ、そのうちウリエル様もわかってくることでしょう」


自分が無知なことを2人にうまく弄ばれたと感じたウリエルは、「おかしたべにいく」と言い残し潤んだ瞳と共にその場を後にした。


そして途端に静かになった部屋には数秒の沈黙が流れた。そして静かに老紳士が口を開いた。


「まさか本気であの娘を外出させようとも考えてるのですか、女王様」

「いえ、まさか。ウリエルは外に出たら死んじゃうじゃない」

「私としましては逆に都合がいいものとも思えたのですがね。まああの娘は吸血鬼なのに魔力を生まれつき持ち合わせていない、【アンブラッド・ヴァンパイア】ですから。証拠に赤ではない瞳を持っているのですから、数十年前の塵狩りによって殲滅したはずの抹消された吸血鬼の産業廃棄物が人の目に触れたら殺されてしまうでしょう。そしてそれが王家の者だと判明してしまったら…」

「わかった、もういい、わかってる」


老人の長話を気分悪そうに遮ったシアターをみて少しばかり口角を下げた老人は再び口を開けた。


「女王様。再三忠告はしていますが、『あの事』を娘には何があっても話さないように」

「………分かってるって」

「あの子は行動力だけはありますからね」


何も言わずその場を後にしたシアターを横目に、老人は独り言を零した。


「あの行動力を使って、私の思う通りに動いてくれる駒へと慣れ果ててくれなければ私が、ローズが、世界が困るのです」




王室へ戻ったシアターは、寡黙そうな女の子と活発そうな女の子の2人が映った写真を眺めながら嗚咽と共に涙を浮かべていた。


「…おねえちゃん」

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今回の話も面白かったです! 次回も楽しみにしてます! 頑張ってください、応援してます!
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