愛と執着の非独立記念日⑯
「……これは」
「結構大変だったんだぞ?」
彬はそう言って得意そうに顎を上げた。
俺はしばし呆然とその料理の数々を眺めていたが、その後でようやくはっと気付いて彬を振り返る。
「もしかして、おやっさんにB町まで連れて行って貰ったのは料理の材料を買うためだったのか?」
「ええと、それは……」
彬は少しだけ考えるように視線を上げるが、すぐにふふと微笑んで首を傾げた。
「うん、それもあるけれど、メインはこっちかな」
そういうと彬は奥の台所へと引っ込んで、どうやら冷蔵庫を開けているらしかった。俺が
疑問に思いながらも待っていると、彬は両手に大きめの皿を持って戻ってくる。
「……ケーキ?」
その皿には小さめのホールケーキが乗っていた。シンプルだけど美味しそうなイチゴのショートケーキ。その上に乗ったチョコレートのプレートには「祝・非独立記念日」と書かれている。
「A村にはパティスリーがないだろ。自分で作ろうかとも思ったけど、初めてのことで自信がなかったし。B町には町の人に人気の店があるって聞いて、予約しておいたんだ」
「この非独立記念日っていうのは?」
一番気になっていたことを尋ねると、彬は小さくはにかんで見せた。そして、ケーキを食卓の上に置きながら、その真意を語り始める。
「お前もさっき言ってたけどさ、俺たちはお互いに依存しあわなければ立っていることができない関係だろ。独立とはまるで正反対だ。だから今日は俺たちにとって独立しようとすることをやめた日で、独立できない自分を許せた日なんじゃないかって思ったんだ」
「……だから『非独立記念日』か」
「ああ。それに俺たちはこの一年の間たくさんの人に関わってもらって、支えてもらって、ようやくここまでたどり着くことができたんだと思うんだ。だからお前だけにじゃなくて、みんなにこの一年と、多分これからの感謝も込めたかった。ただの恋人との記念日というだけじゃなくて、もっとパブリックなイメージを持たせた言葉にしたくて……」
しかし、そこまで言ってから彬は振り返りざまに恥ずかしそうに笑った。
「でも、これも逃げや自己満足の類いなのかもしれないな。本当は恋人との一周年の記念日なんだってはっきり言ってそう書いてもらうべきだったのかも」
そう言って自信なさげに俯く彬を見て、俺は胸が甘く疼くのを感じていた。ああ、本当にこの男が愛しい。俺は一度すうと大きく深呼吸をする。それから彬の肩に腕を回してその身体を引き寄せると、そのこめかみの辺りに小さく唇を触れさせた。
「鞍馬?」
くすぐったかったのだろうか、彬は小さく身悶えして俺の顔を見つめた。
「そんなことない、いい言葉だと思うよ」
「……ありがとう」
そう言った彬の表情はとても穏やかだった。




